異世界スロータイム

ひさら

26話 シェアハウス




リーリウムについて二回目の朝。今朝もまだ早いうちから起き出して、ご飯を食べてみんなでギルドに向かう。ジェイとアダムは討伐系だからすぐに決まるけど、私たちは手に職がないからなぁ。今日は空き家を探せるように、配達系の仕事なんてどうかな?  なんてアシュリーと話していると、ジェイが

「配達って……  来て二日で道はわからないだろ」

そうでした。
という事で、ジェイとアダムを見送ってから、私たちにもできそうな仕事を探してみる。何やら霊園の清掃というものがあった。もうすぐこの国では、日本でいうとこのお彼岸やお盆を足したような時期になるんだって。その前に綺麗にしよう!  という事らしい。霊園ってお墓だよね……。  昼間だし、大勢いるし、怖くない怖くない!!
とりあえず今日はそれに決めた。

霊園は町の外れにあった。まぁそりゃあそうか。
霊園には管理人さんもいるんだけど、なんせ広い。なのでこの時期と冬に清掃員を募集して一気に綺麗にするんだって。
墓石を水洗いして拭く人、雑草抜きをする人、花壇や植樹の手入れをする人。結構な人がいて、これなら広くても一日〜二日で終わりそう。単純作業の割に日当もいいし♪  墓石が日本のとは違うからお墓って感じがしない。公園みたいだし、お天気も良くて気持ちいい。
依頼を受けた時はどんな感じかとちょっとビビったけど、やってみたらけっこう楽しく過ごせた。そんな帰り道。

「アシュリー、あそこって人が住んでなさそうじゃない?」
「あ、本当だ!ちょっと見てみようか」

霊園からそれほど離れてない、町からはまぁまぁ離れてる住宅地に、一軒の生活感のない家があった。来る時は気づかなかったよ。
町から離れるにつれて住宅も少なくなっていく。その分一軒一軒の敷地面積が広くなるからこっちの方がいいな。中心に近い程ギュウギュウなんだもん。お買い物とか出勤なんかはちょっと不便かもだけど、それよりお庭がある方がいい。
環境は気に入った。さてさて、ここは空き家なんでしょか?

ジロジロ見てるあやしい3人組……。人の気配はしないし、お庭も少し荒れている。住んでなさそうだよね〜と話していたら、ちょっと離れたお隣さんが帰宅して来た。

「こんにちわ〜!  突然すみません、あちらのお宅は空き家でしょうか?」
「こんにちは。そうね、今は空いてるわよ。なぁに?住居希望?」
「はい!  私たち住む家を探しているんです。お家賃にもよりますが、いい家だなと思って」

お隣さんは気さくな奥様だった。それならと、管理をしている人の連絡先を教えてくれる。私たちはお礼を言って、ギルドに寄ってから帰った。
宿屋に戻ると、今日はジェイとアダムの方が先に帰っていた。夕ご飯を食べながら、さっそく空き家の事を話す。

「それじゃあ明日の朝、管理人のところに行って家を見せてもらおう。みんな気に入ったら契約しよう」
「ちょっと待った!  契約しようったって、私たちお金がないの。もうちょっと働いてからじゃないと契約金も家賃も払えないよ」

私たち四人はその日暮らしに等しい。アダムはちょっとは余裕があるかもしれないけど、それ程ではないと思う。なんせまだ二日しか働いてないからね。私の言葉に三人は、うんうんと頷いている。

「いったん俺が出しておくよ。稼いだら返してくれたらいいし」
「そんな!  悪いよ。きっと結構なお金がかかるでしょ?」
「いいんだ。思っていた使い道が変更になっただけだから。それにユアの言う事はいつもおもしろい。シェアハウスっていうのもおもしろそうだ。あと俺、早くユアの飯が食いたいから、これは俺の願いなんだ」

ジェイは笑顔で言う。
私たち四人は黙ってお互いの顔を見回す。ここで遠慮して言い合いになるより、せっかくジェイがそう言ってくれてるんだから、そうしようか?生活の拠点がきちんとしているのは大切だ。それに、そんなに食べたいと思ってくれてるなら、いくらでも作って差し上げましょう!  と言う事で

『よろしくお願いします!』

四人そろって頭を下げた。



翌朝は、少しだけ遅めに出発。管理人さんの家を訪ねるのに、あまり早すぎるのはどうかと思ってね。といいつつ充分早いけど。町の目覚めは早い。朝日とともに起きるのは町も村も変わらないみたい。

管理人さんの家にはすぐについて、管理人さんの出勤前に家を見せてもらえる事になった。こちらとしても助かる。これから家を見せてもらうとその分遅くなるけど、そのあと急げば朝の遅い時間の仕事からならありつけるかもだし。

家はちょっと古いけど、古い造りにあるしっかりしたものだった。落ち着いていて、私は好きな外観だな。お日さまが燦々と降り注ぐお庭。ちゃんと手入れをすれば可愛らしくなると思う。大きな木の下にテーブルセットを置けば、これからの季節なんて外でご飯を食べてもいいよね〜!  なんて妄想は広がる。

中に入れてもらった。
一階の大きなワンルームはリビング兼ダイニングかな。ダイニングテーブルは四人掛けのちょっと大きめな物。椅子を一つ足さないとね。暖炉の前には厚手の敷物があった。壁際にソファーと小卓。
それからベッドの置いてある部屋がひとつと、キッチン。キッチンはあまり大きくはないけど使い勝手はよさそうだ。裏庭に出られるドアがある。裏庭はわりと広い。家庭菜園ができそうだ。井戸もあった。

それから、トイレはあるとは思っていたけど驚いた事に浴室もあった。これはすごく嬉しかった。普通に家にお風呂があるからという以外にも、町中まで少しあるから公衆浴場も遠いという事になるもんね。
二階にはふた部屋。どちらにもベッドが置いてある。家中どの部屋にも大きな窓があって、晴れた日中は明るそう。これもポイントが高い。

ちなみに、空き家には家具や基本的に生活に必要なものは置いてある。引越し屋さんがいないからか?お引越しも少いと思うけど。いわゆる居抜きという状態で、すぐにでも住める。お掃除は必要だけどね。

さあ、あとはお家賃だ。ジェイが交渉するのを隣で聞きながら素早く計算する。ひと月に一人にかかる宿屋代と昼夜のご飯代で、お家賃ひと月分くらいだった。こっちで暮らすなら光熱費や(っていうのかな?)食費なんかをザックリ計算しても宿屋で暮らす半分ですむ。もちろん贅沢したらキリがないけどさ。
ちょいちょいとジェイの腕を引いてその事を伝えると

「みんな気に入った?  ユアの言う事も考えて、決めたいと思うんだけど」

ジェイの言葉に、みんな頷いた。さっそく契約だ。何か、めっちゃスピード契約だよ。日本だったらもっと慎重になるんだろうなと思いつつ、代表でジェイが契約を済ませた。お家賃は週ごとの先払いだって。後でお買い物がてらギルドに行ってお金をおろしてお支払いに行く事になった。ギルドは冒険者の銀行のような役目もあるよ。

さて、そういう訳で今日は仕事は休みになった。昨日の今日で家を借りる事ができるなんて思わなかったよ!
さっそく部屋割りと、必要なものを書き出して、お買い物班とお掃除班に分かれる。

「アシュリー、私たち一階の相部屋でいいかな?  私ご飯作りとかあるから、一階の方がいいんだ」
「相部屋いいの?  私初めてづくしですごくワクワクだよ!  ユア、私にもお料理教えてね!」

女子チームはさっさと決まってキャッキャする。ベッドを買い足さなくちゃならないから、運び入れるのに一階の方がいいもんね!  あ、ベッドはもうひとついるかと思っていたら

「オレはここでいい」

ラックはソファーを見る。  え?  ソファーで寝るって事?

「ラック、ベッドは買い足す予定だから大丈夫だよ?」
「ここがいい。今まで床とか地面で寝てたから、これでも立派なくらいだ」

ここがいいって……。今までベッドは寝づらかったのかな?  私が悩んでいると、ジェイはラックを見て

「じゃあ頼む」

あっさり決まってしまった。

という事で、一階は私とアシュリーの相部屋とソファーにラック、二階はジェイとアダムが一部屋ずつになった。
ベッドと椅子をひとつずつ、それから食料と雑貨品と消耗品を買いに行くお買い物班は私とジェイ。お掃除班は残りの三人になった。特に汚れている訳ではないけど、やっぱりしばらく住んでいなかった家は埃っぽいもんね、人手はいる。

でもラック……。砦を出てからずっと一緒にいたけど、大丈夫だろうか?ラックを見ると、大丈夫というように頷いていた。ラックもだんだん自立していかなくちゃだもんね。お姉ちゃん、ちょっと淋しい。

さて!  時間は有限だ。さっそく二手に分かれて行動開始!
「いってきま〜す」  と私とジェイは町の中心地まで歩き出す。

おぉ!  気づけば再会してから初めての二人きりだ。もっというと、恋心を自覚してから初めての二人きりだ!  
何か、意識したらドキドキしてきた!!  
今までどんな話をしてたんだっけ?  
話題……  話題……  と頭がグルグルする。

「すごいスピード契約だったね!  ジェイって決断力があったんだね!」
「あぁ、まぁ。何年も野獣とか魔獣相手の討伐なんかやってると決断力は早くなるかもな。でも今日のはそれだけじゃなくて。  ……まぁ、俺が早くユアの飯が食いたかったってだけだよ」

前を向いたままそういうジェイは耳まで赤くなっていた。やだなぁ、こっちまで照れるじゃないか。って、何かこんなのずっと前にもあったような?
私も顔が熱くなる。  ……いや何これ!  
どんどん恥ずかしくなっていくんだけど!!
そのまま無言で歩く。いや〜、だって何を話せばいいか、もうわからない!!
早くお店につかないかと、いっぱいいっぱいになっていると

「あーーー!!!」

突然ジェイが立ち止まって、頭に手を当てて空を仰いだ。

「ごめん!  何かうまく喋れない!  話したい事はいっぱいあったはずなのに!」

赤い顔のまま叫ぶように言う。
何だそっか。ジェイも同じだったんだ。気づいた私はちょっとだけ余裕ができて、笑って言った。

「私も同じだよ。何か妙に緊張しちゃった。初めてあった頃みたいに話しながら行こうよ。あの時もずっと二人で話してたもんね」

ジェイは、ふぅ……  と大きく息をついて、笑った。

「そうだな。思い出すと懐かしいな」

それから、まだちょっと照れは残ってたけど、まぁ楽しく話しながらお買い物に向かったよ。



つきました!  町の中心部!
ベッドと椅子は大きいから馬車で運んでもらえる。帰りは便乗させてもらおうと、先に食料や消耗品なんかの買出しをする。あ、その前にギルドによってから、契約金と前払いのお家賃を支払いに行ったよ。

「ジェイ、今夜は何が食べたい?」

お昼ご飯は時間的に買っていく予定だ。美味しそうな屋台がたくさん出ている。

「何と言われても、ユアが作ってくれたものしか知らないからなぁ。どれも美味かったし……」

迷っているジェイを横目に、市場の食材を物色する。
とりあえず今夜と、明日の朝とお昼の分を買えばいいか。明日の夜からの分は、明日の仕事の帰りに買えばいいし。

何にしても馬車移動と宿屋暮らしで野菜不足だ。野菜が食べたい!!  たっぷりのサラダと……。  パンは明日の分として、今夜は夏野菜のパスタなんかどうかな?
ジェイに尋ねると、パスタを知らないという。あれ?  じゃあスパゲティなら?  と聞くと、それも知らないという。あれ?

「それでは、記念すべき第一夜のご飯はパスタにしましょう!」

強力粉と薄力粉と卵と塩と水を合わせてこねるだけ。わりと簡単に生パスタってできるんだよ。具材はトマトとバジル、新玉ねぎも入れちゃおう♪  味付けはアッサリ塩味で。生野菜のサラダはオリーブオイルに塩コショウ……コショウはお高いからなしで。新じゃがとキャベツとベーコンのスープは、明日の朝用にも大目に作っちゃえ♪
明日の朝は、やっぱりカリカリベーコンの半熟目玉焼きからスタートでしょ♪  チーズのパンも忘れずにね。
お弁当は、とりあえずサンドイッチかな〜。これも思い出のタマゴサンドとBLTサンドにしてみようかな。
何だか楽しくなってきた!  やっぱり料理は楽しい!

食料を買い終わると、消耗品や屋台でお昼ご飯になりそうなものを買って、家具屋さんへ。手ごろなベッドと椅子を買って、お届けの馬車に便乗させてもらった。



「ただいま〜!」

ドアと窓を開け放している家の中に入る。全体的に水拭きされていてさっぱりしていた。空気も清らかになっている。
ベッドと椅子を運び入れたらお昼ご飯にする。もうお昼をだいぶ過ぎてるし、お腹ペコペコだよ。新しく増えた椅子に座って、五人でこの家での初めての食事だ。

「そういえばみんな、嫌いな食べ物とかある?」
「嫌いなものがあるほど色んなものを食べた事がないわ」
「好きも嫌いもないよ。あるものを食べてきたって感じでさ。貧乏な村なめんな」

笑いが起こる。そっか、なら何でもチャレンジだ♪

「嫌いなものがあったらぬいてくれたの?」
「い〜や、食べられるように工夫した♪」
「ユア、悪い顔してるよ!」

確かに!  悪い顔してる自覚あるわ〜♪  私はニヤニヤ、みんなは声を上げる。
初めての食事は、笑いながらの楽しいものになった。

夜は予告通りトマトとバジルのパスタ。アシュリーと二人で作る。アシュリーも(この国の適齢期的には)近い将来お嫁さんだもんね。まだ相手はいないけど!
それからたっぷりの生野菜のサラダと、新じゃがのスープ♪

あぁ、野菜がしみわたるわ〜。野菜不足の身体が喜んでいるよ。

「やっぱりユアの飯は美味いな……」

ジェイがやけにしみじみ言う。目を閉じて、ゆっくり味わう姿に違和感ありまくりなんですけど!
と思ったら、それからガツガツ食べだした。アダムと二人そろって、美味い美味いと大皿を平らげていく。相変わらずラックは控えめだ。食べ損ねないようにお皿に取り分ける。

「ユア、美味しいね!  これからも一緒に料理させて!  いっぱい教えて!  これでダンナさんになる人の胃袋を掴むんだから!」

アシュリーはなかなか勇ましい。アダムが噴き出した。

「おまえ、そんなヤツできたのか?!」
「まだ!  でもいつできるかわからないでしょ?  私には精霊が憑いてるから、このくらいの特典がないとお嫁にいけないもの」

それは笑えない……。
それに精霊王さまの言い方と、私のファンタジー知識的なら、精霊の愛し子というものじゃないだろか?

「笑うとこなんだけど?」

アシュリーの自分ツッコミで笑いが起こった。

改めて思う。心配事がないっていいね!  美味しいものを食べて、笑い合って。
こうしてずっと平和に楽しく過ごせていけたらいいなぁ。

あ。エマちゃんに手紙をださなくちゃね!






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