異世界スロータイム

ひさら

間話 アシュリー




小さい頃から他の人には見えないものが見えていた。
光に透けていて、キラキラしていて、とても綺麗なものは、精霊というのだと少し大きくなってから知った。

精霊は気ままで気まぐれで自分が一番だ。相手の事なんて思いやらない。自分がしたい事をしたいだけする。
風の精霊が遊ぼうとじゃれつく。私の髪や服が切れる。肌にも浅く切り傷がつく。
水の精霊が遊ぼうと誘う。全身ずぶ濡れになるだけならまだマシで(これも冬場はかなり辛いけど)水底まで連れていかれた時は、本当に死ぬかと思った。
一緒にいると危ないからと、私の周りには誰もいなくなった。

小さな被害はまだまだある。火の精霊も土の精霊も、軽い火傷や痣なんか日常だ。基本、本人?  はただ遊びたがってるだけで、相手がすぐにケガをしたり風邪をひいたりする人間だとわかっているのか、わかっていても自分のやりたい事が一番なのか……  私はアイツらが大嫌いだ。

だって何もいい事がない。精霊魔法が使える訳でもない。魔法とまでいかなくても、ちょっとしたお願いを聞いてくれる訳でもない。ただただ痛い思いをするだけ。友達もいない。きっと恋人もできず、結婚もできないで一人淋しく老いていくんだ。私には、このやっかいなとばっちりを受け止めてくれる家族しかいなかった。

私たちの住む村は国境に近くて、戦が起こるたびに成人の男が戦場に駆り出される。私が十歳の時に、戦に出た父は帰らぬ人になった。それから母が兄と私を一人で育ててくれた。小さな村はどこでもそうだけど、私たちの住む村も貧しい方で、母は苦労して苦労して、兄が成人するのを待つかのように亡くなった。二つ上の兄は成人するとすぐに冒険者になって私を養ってくれた。

こんなのどこにでもある話だ。
だけど、妹が精霊憑きで人付き合いもできない、一人前に働けないともなるとまた変わってくると思う。母に続いて兄にも苦労をかけている。申し訳なくて涙が出る。
本当に本当に精霊がイヤだ。私に関わらないでほしい。

成人すると、私も冒険者登録をして村を出た。
すでに両親はいない。友達もいない。兄には友達はいたと思う。もしかしたら好きな人もいたかもしれない。でも私のために、環境を変えて生きていこうという事になった。精霊は自然が多いところによく現れるという。町に行けば今よりはマシになるかもしれないと、少しでも希望があるのなら何でもいいからすがりたかった。



十五歳になる少し前から、精霊たちが、ただまとわりつくだけじゃなくて一緒に行こうというようになってきた。
今までも水の底とか連れ込まれた事はあったけど、どことはわからない場所に一緒に行こうという。
いく訳ないだろ!  と思っているけど、こっちの事なんて気にしないヤツらだ。不安だし怖い。

村を出て五日。プリュネに向かう道中でも精霊たちはまとわりつく。
時々意識が遠くなる事がある。何これ怖い。
父にも母にも親孝行できないままだった。このままどこかに連れていかれたら、私のためにすべてを捨てた兄にも何も返せないままになっちゃう。
兄を一人にしてしまう。

おまえらなんか嫌いなんだよー!

意識がうっすらなるたびに、思いっきり怒りの感情で罵倒する。そうしないと、きっと連れていかれてしまうから。

誰でもいい、誰か助けて……。

お兄ちゃんと離れたくないよ。お兄ちゃんのお嫁さんだって見たいよ。
私だって友達がほしかった。できれば恋人だって。結婚もしたかったし、赤ちゃんも抱っこしたかった。
全部過去形だけど、ただ、人並みに暮らしてみたかった。



突然、その望みが叶った。
初めてできた友達は、精霊にも負けない小さな女の子だった。




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