異世界スロータイム

ひさら

7話 レオント村 3




翌朝、私たちは朝食をいただくと(夕食もだったけど、食事情がよくわかる固くて黒っぽいパンと、薄味の野菜のスープだった)それぞれ仕事に向かう。
ジェイは畑の作物を荒らす害獣駆除。私は畑仕事。今は収穫の時期だからね。

「行ってらっしゃい!お互いがんばろうね〜!」

先に出るジェイを、気合を入れて見送る。
私たちは、村長さんのお宅に滞在させてもらえる事になった。
もちろん部屋は別々だけどね!
村長さん宅に滞在させてもらえるのは、私が転移者だからの待遇みたい。

冒険者が宿屋のない村に滞在する時は、村長さんか大きめなお宅の納屋なんかに泊めてもらうんだって。
身元保証のない流れ者を家に入れないなんて当たり前だから、ジェイたちも気にしないらしい。
野宿より警戒しないですむ、村の中でしっかり眠れるだけありがたいとか。

冒険者、なかなかハードだな。



さて、仕事だけど。
これでも自宅の庭でささやかながらハーブの栽培をしているし、長い休みの時にはおばあちゃんちに泊まりに行って、広いお庭の手入れを手伝っているし、教われば畑仕事もなんとかできるはず!

と、簡単に思っていた訳ではないんだよ?農家さんは大変な仕事だろな〜とは思っていたんだけど……。
思うのとやるのとは大違い!言われた事を集中してやる事はできるけど、まぁ疲れる疲れる!!

中学ではソフトボール部に在籍していて、そこそこ強いチームだったから練習量もけっこうあった。身体を動かす事にはそれなりに自信があったんだけどな〜。
何これ、農家。全然違う。
午前の仕事が一区切りで、午後の仕事になる前のお昼の休憩の時にはバテバテで倒れ込んだ。
疲れすぎてご飯を食べる気にもなれないわ〜。

村長さんから転移者と紹介されているからか?農家初体験のへっぴり腰だからか?一緒に仕事をしている村のおかみさんたちは声をかけてくれたり、軽い仕事を回してくれたりしてくれる。
そういうのがわかって、とっても嬉しい。気持ちがありがたいよね。

それにしても、今日も暑い。
汗をかいた身体に風が気持ちいい。
さわさわ草が揺れて……  何かいい匂いだな〜……。

ん?
身体を起こして周りを見れば、いろんな草花と一緒に、ハーブらしきものがあるじゃないか!私が育てているものや、おばあちゃんちで見た事があるものしかわからないけど、他にも触ればいい匂いのハーブらしきものがたくさんある!
これは使える!テンション上がるわ〜!

もしかしたらだけど、これで皆さんに喜んでもらえるかもしれない。
頭の中で計画を立てながら、午後の仕事をがんばった。



そうして夕方、日が傾いてくる前に今日の仕事は終わった。明かりが貴重だから、暗くならないうちに仕事は終わるんだって。明るいうちに帰って、ご飯を作って食べて寝る。ネットもテレビもないもんね。
めっちゃ疲れたけど、私は目をつけておいた辺りのハーブを摘んで、フラフラになりながら帰った。

村長さん宅に着くと、ちょうどジェイも帰ったところだったようで、入り口のところでうろうろしているのが見えた。

「おかえり〜!お疲れさま!  そっちはどうだった?」

なんて話しながら中に入る。

「お疲れさまでした。ユアさん、ジェイ。食事の前に汗を流しますか?」

村長さんに出迎えられて、そう言われる。
お互いを見ると……。
あらまぁ、たしかにすごい汚れっぷり。
一生懸命働いてきた証拠だもんね!と笑い合う。

「村長さんは、もう済んだのですか?」

奥さまが浴室のようなところで、大きい木桶にお湯を用意してくれている。
その家のご主人より先にお湯をいただいては申し訳ない。というより、まだならぜひ試してもらいたい事があるのだ。

「まだですが、まずユアさんにと思いまして」

ニッコリと言う。
いえ、私はなんのお役にも立てない転移者ですから……。気にしないでもらえた方がありがたいです。

という事で、先に村長さんにお湯を使ってもらう。その時に、奥さまにちょっとした事を頼む。
さてさて……  村長さんの感想は?

「ユアさん!あのお湯はいったいどういうものなのですか?」

しばらくたつと、湯上りでサッパリとした村長さんがやってきた。
よかった。気に入ってくれたらしい。

「ハーブバスですよ。本当はブーケにして浴槽のお湯に浮かべるんですが、木桶ではジャマになるかと思って、奥さまに煮だしたハーブ液をお湯の中に入れてもらいました」

ハーブバス……  村長さんは、ほうほうとつぶやいていた。

「私には香りのリラックスが一番なんですが、ハーブには色々な効能があるんですよ。  今日お湯に入れたタイムというハーブは、疲労や夏バテなんかに効くといわれてるんです。  肌をきれいにする効果もあるので、これからの汗をかく季節にはいいと思います」

ちょっとうろ覚えのところもあるけど、だいたいそんな感じだったと思う。
うちでは夏場には、このタイムや、セージなんかの時もあるし。色々ミックスしたりして。弟たちのあせも対策なんかにも活用している。何より、いい香りでお風呂タイムを楽しんでいるのだ。

「香りのリラックスできましたか?」
「ええ、とっても」

村長さん、いつものスマイル。

「でしたら、昨日言われていたお風呂の問題、これで試してみるのはどうでしょう?」

私も笑顔で提案してみた。




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