異世界スロータイム

ひさら

4話 旅は道づれ 2




北へと向かっている私たち。
最初に北の方角を見た時は、道はずっと先の方で森に入っているように見えたけど、実際には森に沿うようにしてあった。森の中は魔物がいて危険なんだって。魔物じゃなくても野生の肉食獣なんかも危険だしね。

この辺は比較的魔物は少ないらしくて……  というか、そもそもそういう所に道は作られるんだって。うん、納得。
たま〜にレベルの低い、私が襲われたようなのがいるくらいで、私は運が悪かったらしい。



どのくらい歩いたか、お日さまがずいぶん西に傾いてきた。
小川があった所で水を汲んで、離れた所で野宿の準備。水を飲みにくる野獣がいて、川の近くは危ないからだって。

ちょっとした岩場を背に、焚き火を起こす。起こすといっても、私は見てるだけだけどね。テレビで見た事がある、摩擦で火を起こすのかと思ったら、魔石といわれる魔法のかかった?小さい石を取り出して、それで何やら火を起こしていた。

魔石!魔法!
ちゃんとファンタジー世界ご用達のアイテムがあって、何だか感動した!
ジェイも魔法が使えるのかしら?聞いてみる。

「あ〜、俺は魔法は使えない。魔法使いは、また特別な能力だからな。俺はなろうと思えば誰でもなれる剣士だ」
「剣士ってカッコいいじゃん!私を助けてくれた時なんて、ヒーローに見えたもん」
「襲われてる人がいたら、助けられそうなら助けるよ」

顔を赤らめて言う。
どうやらジェイは照れ屋さんのようだ。
イケメンさんはみんな自信過剰かと思っていたよ。

夕ご飯は、部活帰りに食べようと思っていた菓子パンふたつ。太るぞ!なんて言わないで。育ち盛りなもんで……。お昼にお弁当を食べたら、夕方にはお腹も空くって。たとえ午後のお茶でお菓子を食べようと。
メロンパンとチョコチップたっぷりのチョコパン。ジェイにどっちがいいか聞くと、

「何それ!見た事ない!」  と興奮したので、
「半分ずつにして、両方味見してみる?」

ジェイは、ウンウン!!と大きくうなずく。期待大だ。ふっふっふっ……  しかしその期待は裏切らないと思うよ。
私は笑顔で、半分にちぎった二種類のパンを手渡した。

「いただきます」  と手を合わせる。
「ユア、何してるんだ?」
「私の国の、食べる前の……  あいさつみたいなものだよ」
「神様に感謝の祈りみたいなものか?」
「感謝だけど、たぶん神様じゃなくて……  食べ物に対して?」
「ふ〜ん、そっちの方がいいな!」

ジェイも手を合わせている。

「うまっ!すっごい甘いな!こんなに甘いもの初めて食べた!」

大興奮であっという間に食べ終えて、残念そうな顔をしたのは笑えた。
メロンパンにチョコパン、これでしばらく食べられないか……。私もちょっと残念そうな顔になっていたかもしれない。

パンと沸かしたお湯を飲んで、夕ご飯終了。
川の水は一度沸騰させて煮沸消毒。川の水なんて初めて飲んだよ。



すっかり日も落ちて、焚き火は明るいけど、周りの暗さがハンパない。
電気のない世界なんだな〜と、また心細くなってくる。

私、これからどうなるんだろ……。

涙目になったので、ジェイに見られないように焚き火に背を向ける。

すると……

「わぁ〜!すっご〜い!」

ものすごい数の星の空!
長野の、某避暑地のはずれにあるおばあちゃんちは山の上の方だったからすごい星空だったけど、これとは比較にならないわ!街中のうちより明かりは少なかったけど、ご近所さんの窓の明かりとか、街灯くらいはあったもんね。
これはぜひ、焚き火の明かりも届かない所で星を見てみたい!

「すごい綺麗な星空だね!  もうちょっと暗い所で見てきていい?」
「星なんか見てどうするんだ?ユアは変わってるな。  火から離れると危ないから一緒に行くよ」

焚き火から少しだけ離れて空を見上げる。

「わぁ……  やっぱりすごい綺麗〜!」
「そうなんだ、こういうのを綺麗っていうんだ。  今までそんな風に考えた事なかったよ」

一緒に星空を見上げながらジェイは言う。

日本で見ていた星座は見当たらなかったけど、銀の粒をまき散らしたような星空。焚き火の少しの明かりも届かなくなると、さらに壮絶に美しい。
こんな綺麗なものが見られて……
この世界にきて、初めてよかったと思える事だった。
あ。ジェイに出会えた事もよかった事だね!隣にいるジェイを頼もしく感じながら、そんな風に考える。

もしかして、しばらくとか……  もしかしてこのままずっととか。
この世界にいる事になるのなら、少しずついい事や楽しい事を見つけていこう。
もしかして、また突然日本に帰れるかもしれないし。
それまで楽しく過ごそう。

無限に広がっているような、暗くて美しい空を見上げながらそう思った。




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