異世界スロータイム
3話 旅は道づれ 1
私たちは歩きながら話していた。
ジェイが「どうせついでだから」と、一番近くの村まで連れて行ってくれる事になって、お言葉に甘える事にしたのだ。甘えるとか甘えないとかの問題じゃないか。置いていかれたら私死んじゃうし……。
村まで多目にみて一日かかるとして、座ったままでは時間がもったいないからね。
ジェイの問い。
何故こんな場所に一人でいたかというものに、私は正直に話す事にした。
こことは違う世界にいた事。
突然この世界に現れた事。
どうしてそうなったかはわからない事。
これからどうしていいかわからない事。
「だから見た事もない黒い髪に黒い眼なんだ……。  子供の頃に聞いた事があるけど、稀にユアのように別の世界からやってくる人がいるって」
え!
異世界ものでおなじみの転移者が、今までもいた記録があるんだ!
「で?その人たちはどうやってこの世界にきて、どうなったの?元の世界に戻れたの?」
「ごめん、そこのところはわからない。ただ、異世界人は特別な力をもっているって。  こうやって自分の目で見なかったら、お伽話と思って信じてなかったけど」
あら、残念。どうなったかはわからないんだ。というか、
「特別な力か〜。  私そんなのもってないよ?剣も魔法も使えないし。ただの学生だもん……」
そういえばスマホで読んでた異世界ものは、最初から結構なヒーロー・ヒロインだったりした。そうじゃなきゃ盛り上がらないっていうかね。
「いや、ユアはすごいよ!あんな美味い飯初めて食べたし!水だってあんなの初めて飲んだし!」
「ありがと」
褒められてちょっと照れる。
料理は好きだから、それを褒められたら素直に嬉しい。
それから、ジェイの事と、この世界の事を聞いた。これからどうなるかわからないもんね。情報は大事。色々知っておきたい。
ジェイは、俺の知っている事だけだけど……  と話してくれた。
この国の名前はパエオーニアという王国。
ジェイはずっと南の方のウィオラという村から、国で二番目に大きな都市、リーリウムに向かうところだったんだって。
私を助けてくれた時は、南からやってきて坂を登りきったところで襲われている私を見て驚いたって。
「私も驚いたよ!」
「いや、何もしないで突っ立っている事に驚いたんだよ」
とにかく、すごいタイミングに神様に感謝。
話は続く。
十五歳になってすぐに冒険者登録をして、一年くらいでワンランクアップ。お父さんが亡くなったのを機に、生まれ育った村を出たんだって。お母さんはそのずっと前に亡くなってるそう。
今はDランクの冒険者だけど、リーリウムでAランクまでなって、それから王都に行く人生設計らしい。
同じ年の十五歳。もう、今月の末には十六歳になるそうだけど。
「え!ユアも十五だったのか!もっと小さく見えたよ」
まぁね、百五十二センチと小柄だし。童顔だしね。でもこれから怒涛の成長期の予定なんだよ〜!
だいたい東洋人は若く見られがちだし!この世界に西洋と東洋があるかわからないけど!
十五歳ならジェイだって成長期じゃないか。いや、十六歳に近いのか。それにしてもまぁまぁ育っているなぁ。同級生の男子って、こんな感じだっけ?
私は隣を歩くジェイを横目で観察した。
頭一つ分高い……  という事は百七十センチくらいかな。スラリとしてるのにしっかり筋肉がついていて、冒険者って身体が鍛わるというか、ひきしまるのかも。
茶色の髪に緑色の眼。
西洋人はイケメンが多い私のイメージだけど、ジェイもなかなかのイケメンさんだ。命の恩人だから、五割増しくらい高評価になってるかもだけど。
自分を見ている私に気づいたジェイが、
「ユアはやっぱり、その眼って周りが黒く見えてるのか?」
ぶっ!  何だそれ!
「そんな訳ないじゃん!  じゃあジェイは緑色に見えるの?」
「あ!そうか!  今まで青く見えてるのかとか、茶色に見えてるのかとか思った事なかったのに、黒だけそう思うなんてバカだな」
でもそういうの、ちょっとわかるかも。
私たちは顔を見合わせて笑ってしまった。
「ユアの事も聞かせてよ」
と言うジェイに、私も私の事と、私の国の事を話した。
お父さんとお母さん、弟が二人いる事。
少し離れてて、すぐ下の弟は十歳。その下の弟は七歳。
「最近、上の弟が生意気になってきて超可愛いの!」
「生意気なのに可愛いのか?」
「生意気になるのは成長期だから自然な事なんだよ」
「よくわからないな……  生意気なら、俺なら殴る!」
お姉ちゃんとお兄ちゃんでは、下の子の扱いが違うらしい。
「下の弟は、まだまだお姉ちゃん大好きで、これまた可愛いの!」
「あぁ、それならわかる。  俺も村でちっちゃいのを面倒見てたし」
「ちっちゃい子って可愛いよね〜!」
「可愛いだけじゃないけどな」
それから、私は学生だという事。
高校では野球部のマネージャーになった事。学校や部活やマネージャーの説明もして、お弁当とポットはそのために持っていた事。
お弁当の話題から、両親がフルタイムで働いているから、私が料理の半分を担当している事。朝ご飯とお弁当ね。
夕ご飯はお母さんが担当。料理は好きな事。家事も得意な事。
「両親が働いているのは当たり前だろ?」
「この国ではそうかもしれないけど、私の暮らしている国では、子供が小さいうちはお母さんは働いてないうちもあるの。働いてる人もいるけどね」
貴族でもないのに働かないでも食べていける事に、ジェイはちょっと驚いていた。
「ユアの国は豊かなんだな」
豊かなのかな〜……。
ジェイの声は、羨んでいるような哀しんでいるような、何ともいえない響きがあった。
それからお互い、疑問に思ったことや聞いてわからない事なんかを話しながら、お日さまが西に傾く頃までひたすら歩いたのでした。
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