冒険者は最強職ですよ?

夏夜弘

決戦の始まり 5


「な、何が起きたんだ!?」

『もう片方も貰うぞ!』

 そう言い、ゼールは猛片方の剣に、自ら向かってくる。ジンは、それを避けられず、剣を掴まれてしまう。

『これは俺の魔法だ。どんな物でも錆びつかせて塵にさせる。まぁ、人間には効かないみたいだがな?』

「…………」

 そのまま為す術もなく、大切に扱ってきた二本の剣が、今、この世から消え去った。

 ジンは少し怒りを覚えた。何故かはわからない。それを、今確かめる。

「お前、今、人間には効かないみたいとか言ったな……? 何人捕まえた……」

『百は超えていたな。まぁ、全て我々の魔法や、研究の実験材料として捨てたがな』

『ゼール、それ以上は言うな。魔王様に叱られるぞ?』

『いいじゃないか。冥土の土産ってやつだ。死ぬ前に聞かせてもいいだろう?』

『……どうなっても知らんぞ』

『ハルッドは動くな?』

 ハルッドは頷き、一歩退いた。逆に、ゼールは一歩乗り出し、喋り出した。

『さ、続きと行こうか? ……人間を捕まえた後、我々はとある命令をされた』

「命令?」

『そうだ。魔王様がな。で、その命令は、我々魔王軍進化のために、実験をする、というものだ。魔法、品種改良、拷問、その他諸々……ありとあらゆる実験をした』

 それを聞いた瞬間、ジンは、自分の爪が食い込むぐらいの力で、拳を握っていた。

『おかげで実験は大成功! 魔族のモンスターと人間を混ぜ、完成したモンスター。新たな魔法の使い道、人間の愚かさ。全てを知れた! 何もかも全てだ!』

「…………」

『人間は脆い! 人間は醜い! 人間は汚い! 人間は皆、死ぬ前にこう言う。「どうか、どうか子供と妻だけは……」と。あほか?』

「…………」

 ジンの苛立ちは募るばかり。なんとか抑えようと、女神は必死に言葉を投げかける。

『奴らは我々にベタベタと触り、何かとブツブツブツブツとのたうち回り、結局殺される。人間如きが我々魔族に触れられるとでも思ってるのか? 否! そんな訳がない!』

「……めろ……」

『何故こう人間は我々を苛立たせるのだ!? 何故こう人間は人を庇おうとするのだ!? 理解ができん!』

「……やめろ」

『反吐が出る! 見てるだけで殺したくなる! だから、人間など幾らでも死ねばいい!』

「やめろ!」

 ジンの叫ぶが、ゼールは止まらない。

『それと、何だったか? あのエルフの女。あいつは地下牢で魔法やら新作の武器やらを試す道具にさせて貰った』

「…………」

 その発言が、ジンが抑え込んでいた怒りを爆発させた。

『ゼール、言い過ぎで……』

「お前ら、死ぬ覚悟はできてんだよなぁ?」

 ジンは、ハルッドの発言を遮り、ユニークスキル、"神力"を発動させる。だが、それは以前とは全く違うものとなる。

 それは、発動してもないユニークスキル、"龍人化"の力が見られたからだ。ジンの瞳は赤く輝き、髪の色も赤く染まる。だが、身体には鱗は纏わず、白く輝くオーラが、装備に纏うように広がっていく。

 そう。ユニークスキルが混じり合い、"神力"と、"龍人化"が、"龍神化"に進化したのだ。

『雰囲気が変わった……?』

 ハルッドはすぐさま戦闘態勢に入り、同じく、先程まで嘲笑うかの様な顔をしていたゼールも、それを見て、顔色を変えて、戦闘態勢に入る。

「お前らは俺を怒らせた。人間が醜い? 人間が汚い? ……お前らは知らないんだ。人間がどれだけ凄いのかを。人間が、どれだけ利口なのかを。人間が、どれだけ他人の為に一生懸命なのかを」

『何を言って……』

「ここでお前は知る。人間の強さを。人間を怒らせた時の恐ろしさを」

『ジン、あなた凄いわ……この力なら、きっと……』

 その女神の呟きは、今のジンには届かない。ここまで積み上げてきた努力。それが今、最大限発揮される。いや、ここから先、もっと進化して行く。

「お前らが人間にした事、ランにした事、全て許さない。俺が、俺達が、お前らのクソくだらねぇ考えをぶっ壊してやる」

『面白い……ならやってみろ!!』

「まずはお前からだ、ゼール」

『やれるものならやって……』

 その後の言葉は無く、後ろにいたハルッドは、目の前から突然消えたゼールに、声が漏れる。

『……ゼール?』

 直後、大轟音が鳴り響き、思わずハルッドは、耳を塞いでしまう。

『何だ!?』

 ハルッドは、考えが纏まらず、あたふたとし、消えたゼールを探す。そして、ゼールを見つけたハルッドは、その目の前の状況に言葉が出なくなる。

『あ、あぁ……一体、何が……?』

「ただ一発、お前の顔面を殴っただけだ」

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