冒険者は最強職ですよ?

夏夜弘

もう守られるだけの僕じゃない 12

「この糞女が……そんなに喧嘩がしてぇならやってやるよ」

 そう言うと、グスタフは全身に力を込めオーラを纏う。レベッカも同じくオーラを纏い、二人は構えをとる。

「ほほぅ? お前は武闘家か……同じく職業どうしだと張合いがあるなぁ」

「短剣を持ってるくせに張合いがあるですって? 武器にしか頼れないおバカさんとは張り合いたくはないものね」

「さっきから舐めた口ばかり……徹底的にぶちのめす」

「ぶちのめすだのぶち殺すだのと……さっきから聞いてればそればかり。少しは行動に移してみてはいかが?」

「そんなに言うならやってやらぁ!」

 グスタフは声を荒らげながら地面を蹴る。周りにいた仲間の暴走族達は、遠くから何かと野次を飛ばしている。

 グスタフが超速で動くのに反応し、レベッカは身構える。

 目の前に現れたグスタフは、短剣を完璧なまでに使いこなし、次々に攻撃していく。

 レベッカは、武器がない分反撃をする事ができず、ただ避けるだけとなってしまう。

「おら女ぁ! 避けるだけじゃつまらねぇぞぉ!」

「ふふっ……そんなに喋っていると舌を噛みますよ?」

 グスタフが短剣を上へ斬りあげた瞬間に、レベッカは左足でグスタフの顎を蹴りあげる。

 グスタフはギリギリそれに反応するが、レベッカの攻撃はグスタフの顎を少し掠める。

 グスタフは数歩後ろへ下がると、あごから垂れてくる血を荒く拭う。

「クソ……てめぇそれなりにレベルが高ぇな?」

「貴方以上ではない、とだけ言っておきます」

「そうか……なら俺も久々に本気でやるしかねぇようだなぁ……」

 すると、グスタフの目付きが鋭いものへと変わる。その瞬間、レベッカは全身に鳥肌が立った。

「ま、まずい! ボスが本気になったぞ! 皆離れろぉ!」

 グスタフの部下達は、顔色を変えてどこか去っていく。それを見ていたマーシュは、エレンを抱きかかえ距離を取る。

 レベッカとグスタフの周りには、いつの間にかマーシュとエレン以外、誰も居なくなってしまった。

「舎弟が消えたか……これで伸び伸びできるなぁ?」

「……」

 レベッカは、一瞬も気を抜くことができない程にグスタフを恐れていた。

『これはまずいわ……最近格上の人達と闘いすぎですわ……あの魔王幹部ほどではないですがこの人も相当に強い。……ジン! 早く助けに来てよね……』

 レベッカの額からは汗が垂れる。その汗が、地面へ落ちた瞬間、グスタフは先ほどよりも早いスピードでレベッカの元へ現れる。

 それになんとか反応し、先に蹴り攻撃を仕掛けるがそれは躱される。

「しまっ……!」

 片足が浮いた状態のレベッカに、グスタフは容赦なく短剣で斬りかかってくる。

 グスタフの短剣は、レベッカの顔めがけて出されるが、間一髪のところでレベッカは避ける。が、右頬にかすり傷がつき、血が垂れる。

「ほぉ? 今の体勢で避けるか……だが次は外さねぇ」

 レベッカは、バックステップをして距離を取ろうとするが、その瞬間にグスタフが突進を仕掛け、レベッカは後方へ吹っ飛ばされる。

「……クッ!」

 なんとか両手で突進を受けるが、あまりの強さに数十メートル飛ばされる。

 着地をして、すぐに構えをとると、既に目の前には不敵な笑みを浮かべたグスタフがいた。

「がはははは! そんなもんかおめぇは!?」

 荒々しい笑い声を上げながら、レベッカの全身を短剣で斬りつけていく。

 その攻撃は全て正確なもので、わざと急所を外した攻撃をする。まるで、痛めつけるのを楽しむかのように。

 レベッカは痛みに耐えながらも、グスタフを振り切るために回し蹴りをする。

 グスタフは攻撃をする事しか頭に無かったため、視野が狭くなっておりその攻撃を横っ腹に食らう。

 グスタフは数メートル飛ばされると、脇腹を抑えてしゃがみ込む。

 その隙にレベッカはマーシュの元へ行き、回復魔法をかけてもらう。

「レベッカ大丈夫!?」

「えぇなんとか……ですが正直なところ厳しいですわ……さすが、と言ったところですわ」

「そ、そこまで……」

「まぁ、ジンが来るまでの辛抱ですわ……もし私が負けたら……エレンさんを連れて逃げてね?」

「何をぉ! 一人だけ助けてもらおうなんて甘い考えはお見通しですよぉ!?」

「ふふっ……バレちゃいました?」

「当たり前です! それに、私は一緒に闘っているんです! 逃げろなんて言わないでよね!」

「そうね……マーシュ。まだまだ回復頼むわよ!」

「まかせぇい!」

 レベッカは、一度深呼吸をして自分の頬を二度叩くき「頑張るわ!」と一言呟いてから、グスタフの元へ向かう。

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