闇と雷の混血〜腐の者の楽園〜

音絃 莉月

6話〜父と母 姉と猫〜

父様に頼んだのは、前世でいう自白剤や嘘発見機みたいな物だ。
ファンタジー世界なんだからそういう魔法なり道具なりあるだろう。

父様は少し驚いたみたいだったけど、母様にも伝えて今はリビングで待機中だ。
それにしても、父様が母様にも伝えたのは意外だった。父様って母様の事溺愛してるみたいだったから、てっきり秘密にして話聞いてから判断するかと思ってたんだけどな。

暫くすると父様が戻ってきた。
手に銀で出来た杯を持って。

「アル。これを飲むと良いよ。」

シンプルでも聖なる雰囲気を感じる細かな装飾を施された銀一色の杯を受け取って、首を傾げていると暫く眺めていた母様が言った。

「これって、『真実の水』よね〜?」

「あぁ、霊薬の一種で一応貴重な素材を調合して作る神聖な水だ。これを飲めば暫くの間嘘がつけなくなる。」

銀の杯には一口分くらいの淡く白く光る水が入っていた。杯の大きさと比べると少ない様に感じるけど、そんな凄い効果があるのか。

匂いはミントの様に鼻から身体に染み渡る様な澄んだ感じだけど、スースーした感じではなく甘くはないけど柔らかい感じだ。

「でも、どうして嘘を付けないようにするんだ?探る様な事をしておいてなんだが、言いたくない事なんだろう?」

「うん。言いたくはないけど、言わないと父さまは信じないでしょう?言っても、すぐに信じられることかわからないし。」

それに、前世の記憶を話すのは割と勇気がいるんだ。勇気を出して話しても『嘘だ』と言われ取り合ってもらえないよりも、信じた上で『異端だ』と言われる方が良い。

俺は杯を傾け、淡く光る不思議な水を身体に流し込む。特に味はせずに食道あたりで霧の様に全身に染み渡る感覚がした。
それと同時に体が水と同じ光を放ち始める。

「体が光っている間は効果があるはずだよ。確認の為に質問するね。嘘を付いて。君の名前は?」

嘘を付けば良いのか。本来なら今世の名前が正解だけど。じゃあ、姉の名前でもいうか。

「アルブム・ノベル・ロクト。」

三影みかげ 暖朝はるとき』そう答えようとして口を開いたが、出て来たのは正解の名前。
無意識の内に口が勝手に動いていた。自分の身体が勝手に動いている感じだ。
それに答える瞬間全身を包む光が少しだけ強くなった様に感じた。

「うん。ちゃんと効いてるみたいだね。光も強くなったし、嘘をつこうとした結果だ。」

父様が満足気に言う。物凄く不思議なんだけど、というか嘘をつこうとして意図しない言葉が勝手に出てくるのって物凄い不快感。

「ところで、今どんな嘘をつこうとしてたの〜?」

母様の質問に今度は素直に答える。

「『三影 暖朝』。オレの姉の名前だよ。」

嘘を付かない場合は普通なのか。特に光が強まったりもしないし。
それに、この効果は俺が意図して嘘をつこうとした場合にしか発動しないのか。
つまりは、勘違いの場合でも世界の常識じゃなく自分の中の正解に当てはまってるから、『嘘』にはならない。

「ミカ......トキ?えっと、姉って?」

母様が?を頭上に浮かべて首を傾げてる。
父様は眉間に皺を寄せて顎に手を添えてる。

「細かく言うと、オレのぜんせ『三影 涼夜』の姉だけど。」


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それからは質問責めにあった。
まだ慣れてなくて覚束ないこの世界の言語で必死に伝えていく。
きちんと、正確に誤解のない様に伝わるように。体感にして一時間弱程だろうか。

この世界で死者の魂は未練などで現世に縛られなければ、地獄か天国で悪人には充分な罰を与え、英雄には充分な褒美を与えられた後に、全ての記憶が洗い流され清められて、無垢な魂となり再び肉体へと移る。

そう考えられているから、転生の理論はあったけど前世の記憶を受け継ぐなんて話は聞かないらしい。
ただ、【特異能力ユニークスキル】が百の輪廻を越えてもなお、魂に刻み込まれ洗い流す事が出来なかった想いの欠片として伝わっている為に、父様は記憶が残るのもあり得る話だと一応は納得していた。

でも、別の世界から来たって所が中々理解してくれなかった。
この世界で一般的に他にあるとされているのは、神々の住まう【神界】
人々が住む【アフェルガ】
悪魔族の住む【闇黒界】
妖精族の住む【妖精界フェアリーガーデン
罪人の行く【地獄】英雄の行く【天国】
死者が行き魂を清める場所【冥界】
くらいなのだ。
あとは【精神世界】やら【物質世界】やらはあるらしいけど。

地球という場所があるのが信じてくれないというよりは信じられない感じだったけど。

それでも、だいたいの質問に答え終わって、父様と母様にもある程度理解して貰ったと思う。
今は沈黙が続く中、それぞれが頭の中を整理している状態だ。

かく言う俺もこれからの事を考える。
正直受け入れてくれる可能性は低いだろう。自分の子がこの世界では大人と言えるくらいに前世で生きていたなんで知ったらショックだろうしな。

子なんていた事無いから多分ではあるんだけど。

もし、この二人が俺を危険分子だと認識した場合逃げ切れる確率は低いだろう。ダンジョンマスターいるし。ここダンジョンの最下層だしそれは無いと良いな。

追い出された場合、奴隷落ちだろうか。

俺はこの世界の常識を知らない。
そもそも3歳の子供が魔物が蔓延る世界で生きていられるとは思わないし。この世界の奴隷は犯罪奴隷と違法奴隷以外は割と人権はあるらしいし。

今世の身体は見た目が良いのだ。この独特な『色』がこの世界で迫害される事が無いなら、仲の悪い異種族の間に産まれた希少レア混血ハーフで、魔力の質が高い個体なのだ。それなりに価値があると思ってる。

大金をはたいて手に入れた奴隷を雑に扱う事は多分無いだろう。壊れたら勿体無いし。
俺は人に取り入る事への自信もあるし。
性格的に人の下につくのは好きでは無いのだが、慣れてはいるから出来ないことはないだろうし。

我儘を言うなら、金持ちの貴族様よりも世界を旅する人に買われたいな。一生屋敷の中で飼い殺しとか、せっかく転生したのに勿体無い。

基本、命令に逆らえない事を除けば衣食住が整った割と良い生活が送れるだろう。
違法に売られる前に正規ルートで奴隷に堕ちれると良いな。
一番良いのがここで暮らす事なのは言うまでも無いが。

この世界では血の繋がりというのを割とはっきり感じるらしい。
とはいえ、本当になんとなく触れ合った時に少し感じるくらいではあるが。この二人の側が落ち着くのは、血の繋がりがあるからだろう。
出来れば離れたく無いと感じるのは子としての本能か。

父様はずっと考え込んでいて、母様は俯いたまま固まっている。
父様はあまりショックを受けていないと言ったら変だが、落ち着いているのだが、母様が拒絶すれば間違いなく俺を捨てるだろう。

この状況で俺に出来ることはない。

ただ、すぐに殺さず奴隷として売るくらいには、子への情けがある事を祈るだけだ。


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少し時間を遡って、アルが両親との話し合いになる数日前の映像を見た姉と猫は今日も二度目の再生をしながら語り合う。

手の中のふわふわサラサラな触り心地を堪能しながら、涼夜の1日を盗み見る。

「はわぁぁ〜♡私の弟が可愛すぎる。」

零れ出た呟きに膝の上から返事が返ってくる。

『別に主の弟ではなかろうて。』

「創造神様ともあろうお方が細かい事気にしないでくださいな。」

地球を含めた幾つもの世界を作り出したもんのすごくお偉いお方は今日も私の膝の上で微睡んでいる。

『今の我は神などという堅苦しい存在ではない。ただの毛並みの良い猫だ。』

膝の上の白い猫がゴロゴロと喉を鳴らしながら言う。

「ただの毛並みの良い猫が異世界の光景と人の夢を繋げて、時間の調整までするなんて、そんなの確実に『ただの』じゃないですよね。」

撫でる手を止めて指摘をすると、すぐさま反論しながら手に頭を擦り付け、撫でろと催促してくる。

『神に紅茶を淹れさせて、膝の上の神を撫でながら映画気分で異世界を覗いている主が、細かい事を気にするでないわ。』

いつものやり取りをお互いに空中に浮かび上がっている映像を見ながら行う。今は涼夜の生まれ変わりであるアル君が、母親の難易度が馬鹿げたゲームに付き合っている所だ。

今日のゲームはドッペルゲンガーゲーム。椅子取りゲームの改良版みたいなもので、一つの椅子を取った後に出されたお題に合わせてものまねをして、本物とものまねを他の参加者に見抜かれなければ得点が入る。

勝者には何も無いのに敗者には罰ゲームが待っている。一応両親は加減しているが。

「それにしても猫様。アル君可愛すぎますよね。」

負けて頬を膨らませて父に抗議に行く白い子供を見て思った。

『まぁ、あの世界は基本的に整った顔の者が多くはあるが、その中でも飛び抜けて美しい容姿をしているな。』

確かにアル君の両親も美人とイケメンだな。でも、アル君はもはや別の人種って感じがする。

「でも、中身が鬼畜の涼夜だから表情があまり動かないし、無邪気さが全くと言って良いほど無いですね。
あれでも、身体が子供だからか結構感情を表に出してますけど。」

優しい父におやつをもらって少し機嫌が良くなったのを見て、『よく表情が変わるものだ』と思う。

『あれで表情豊かな方なのか。』

猫様が映像の子供を見ながら言う。
確かに余り知らない人から見れば、感情が薄い様に感じるだろうなぁ。

前世と比べると素の表情なんてBL本を読んで、かなり気に入ったのがあった時に変わるくらいだったから、充分表情豊かなんだけど。

「あの子は元々、感情を隠すのが上手いですしね。あの子の泣いた顔見たのなんて五歳の時以来ですよ。一人では泣いていると良いんですけどね。」

悲しさを感じてないなんて事無いといいけど。
それならまだ、プライドが邪魔して一人で泣けないだけの方がよっぽど良い。

可愛がっていたペットが死んだ時も涼夜だけは泣いてなかった。

『そうか。』

天使の様だと母親が例えたのは共感出来るが、まだ足りないとすら思えるほどに美しい映像の子供を見てため息を吐く。

「......それにしても、可愛すぎる。
長い睫毛は下向きで釣り目な目元を儚げに見せてるし小さい小鼻と少し膨らんだ小さな口。生気を感じない真っ白な肌には薄い朱色がほんのりさして生気と共に色気を醸し出してる。その幼い見た目から漂う色気は禁忌のような背徳感に駆られて、その美しい見た目をさらに高めているし。ふわふわで細い髪は少し癖が付いてるけど、その癖がさらに柔らかさを感じさせる。その幼い見た目に反する涼夜の精神もさらに感情を表に出さない人形の様な雰囲気を放っているし。真っ赤で血の様な色の瞳は不気味さも感じるけど、見つめると奥まで吸い込まれそうな美しさがある。白と赤の色の差が特に両方の色を引き立たせていて、アル君だけが世界に馴染まず、現実味が全くなく触れる事の無い、幻の様な儚さも持ちながら、何者にも染まらぬ圧倒的存在感がある。ふわふわの耳は細かい音に反応して忙しなく動いていて、尻尾もゆったり自分のペースを守る様に揺れている。大きな音がすると時々硬直したりするけど。大きく口を開けた時に少しだけ覗く大きめの八重歯が可愛くて、普段は隠れているから少し口角が上がったりした時に見れると特別感が凄い。普段綺麗で整っていて人形のように美しい顔を大きく崩す事が無いから、欠伸の時の無防備さと普段とのギャップが萌える。両親に抱き上げられた時に尻尾が両親の腕に軽く巻き付いているのを見ると『怖いのか』『甘えているのか』と考えて長い時間を使っている事もある。その仕草を無意識にやっている事がまた萌えを加速させて、腐っている私が死にそうになる。寝る時に丸まって寝るんだけど、その時に少しだけ口が開いていて涎が垂れているのも、可愛すぎる。後、両親が近付くと尻尾が勝手に巻きつくところも可愛くて、もしその様子を本人が知った時の事を考えるとさらに萌える。動く物を無意識のうちに目で追っていたり、高い所を結構気に入っていたりする所もまた。吸血鬼の姿の時に生える小さな白い翼がまた可愛くて。意識すると少しは動かせるみたいだけど、ピクピクとしか動いていない。いつか飛ぶために毎日練習してる。それから、鋭い牙で舌を切るのが怖いんだろう。いつもよりも舌ったらずになるのも可愛い。よく角のある部分を触るのは生えたての歯みたいに気になるのだろうか。異世界の料理はそれなりに美味しいらしく小さい口にいっぱい含んでリスみたいになってるのも癒されるし、まだ自分でする食事に慣れないのだろうよく口の横に付けていて、その姿はあどけない子供の様で可愛いのに、舌で口周りを拭う仕草に途轍も無い色気を感じる。それに......。」

瞬きするのも惜しくて目が乾く事の無い夢の世界に感謝しながら、息継ぎを最小限に抑えて一気に自分が感じた萌えを吐き出す。

『いきなり語り出すのには慣れたが、よく毎回違う所を言い淀む事なく、長時間語れるの。』

呆れた様な猫様の呟きに胸を張って答える。

「腐ってますので。」

猫様の可哀想な子を見る目が印象的だった。






大分間が空いてしまいました。
申し訳ない(−_−;)

それから、初めてのコメントが届いている事に気が付いた時は脳内で小躍りするほどに嬉しかったです(((o(*゚▽゚*)o)))

初めて書く作品なので、面白かった所などをコメントしてくれると物凄く嬉しいですし、読みにくかった所や直した方が良い所などを教えて下さると、とてもありがたいですo(`ω´ )o

これからもよろしくお願いします( ̄^ ̄)ゞ

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