スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜
二十四章 ─ 平穏 ─
それから何日か経った。
あれ以来大きな事件も無く、平穏な日々を過ごしていた俺とノエル。その間にも仲は進展していき、いつ撮られた写真なのかは分からないが、テレビでイカルガ一の熱愛カップルと報道された時は流石に焦った。目元は隠されていたが、俺やノエルを知っている人ならすぐ分かってしまうだろう。
「……やっちまったか…」
「いつの間に撮ったんだろうね、アレ…」
「さぁな…」
少しの間変装が必要かと思いつつも、闘いから遠ざかるのはいい事だと頭の中で考えていた。血生臭い戦場に行くのは些か抵抗があったし、そもそも元非戦闘員な俺を駆り出す馬鹿は居ないだろう。
「ま、それだけ平和って事だ…」
「……そうだね」
終始抱きしめたまま、外を眺めていた。
偶に頬を引っ張ってみたりしてふざけ合い、楽しい日々を送れていた。そう、あの日々が嘘のように。
「さて、そろそろ動くか…ったく、準備に手間取ってんじゃねぇっての」
誰も居ない廃墟。そこに居たのは緑髪の男。
黒のスーツを着たその男は粗暴な口調で毒づいた後、被っていた帽子を取る。途端にその髪が逆立ち、緑と黒が混ざったようなオーラを纏う。
その男こそ、六英雄の一人であり悠人やラグナが憎いと思い続けている男。名は、ユウキ=テルミ。
テルミは自分の目的を果たすべく活動を再開した……
「守護者の野郎は気づいてる筈だからな…さっさとやらねぇと」
そう呟いた後、まるでその場に居なかったかのように姿を消すテルミ。悪夢が再び始まろうとしていた。
「(……テルミが動いたか)」
たった今感じ取った気配を分析。その気配がテルミだと分かった時既に牽制している。これも、守護者たる自分がなせる技。本当に化物じみてるなと苦笑いを浮かべていた。
「どうしたの?悠人」
「んにゃ、何でもねぇよ……ノエル」
「何かな…?」
「改めて聞くのもなんだが、俺でよかったのか?告白しておいて何言ってんだと思うが…」
「うん。後悔はないよ。両想いって知った時は嬉しかったし」
「……そうか。よかった」
その後に"俺は化物になってしまったんだよ"と言えなかった。それを言った時は、この関係が崩れる気がしたからだ。なら、化物じみてる事は隠し通さないと駄目だ。俺を愛してくれている人を泣かすような真似はしたくない。何れ話すつもりだが……
「よし、何処か行くか?」
「うん」
このまま何も起きなければいい。
だが、テルミが動いたという事は帝達も動き始めたという事にもなる。ラグナやジン達も動く頃合いだろう。その時考えればいいと頭の片隅で考えながら、街中へ出向いた。
「……」
イカルガの街中で佇む一人の少女。
茶髪を後ろでまとめ、何処かの学校の制服らしき服装でそこに居た。側にはニルヴァーナやイグニスとは又違う人型ロボットが立っていた。それだけでも異質な存在なのに、周りの人々は気にしない…いや、気づいていない。
「悠人は此処に居るってココノエ博士に教えて貰ったけど……本当かな…?」
桐生悠人の事を知っている人はそうそう居ない。
天才研究員だった彼は今、この世の理から外れた存在になっている。見た目は変わっているが、ほかの人々と何ら変わらなく生きている。
「まぁ…探せば見つかるよね、多分。ラグナにも会いたいし」
そう呟いた少女は隣に寄り添う人型ロボットと共に悠人を探すべく行動を開始した。
「……ん?」
「どうしたの?悠人」
「なんか懐かしい雰囲気が近づいて来る気がしてな…」
その予感は的中する。後ろを振り向いたと同時に誰かが体当たりしてきた。突然だった為受け身すら取れず、なんとか踏ん張るものの……腹部に強烈な衝撃を食らった。
「うげふっ?!」
おそらく二度目である。一度目は第七機関にて、意識が戻ったばかりの俺にノエルが体当たりしてきた時。
あの時は眼前に迫っていた川を渡りかけたが、今回はそうでも無かった。
「久しぶり、かな?」
「ん……その声、セリカか?」
「そうだよ、悠人」
よくよく見たら、第七機関でちょっとだけ話した事がある少女、セリカだった。あくまでもほんのちょっとだが、おそらく博士の差し金だろう。何故呼んだのかは後で聞くとしよう…
「なんだって此処に来たんだよ?」
「悠人の力になってやれって、ココノエ博士が言ってたんだ。かなり時間かかったけどね」
「あんにゃろう…余計な真似を……」
ノエルは勿論、セリカも守らないと駄目だろう。
闘いを知らないからこそ、巻き込むのは良心が痛む。
それに、博士の考えが分からない。何故俺の元へセリカを送ったんだろう。少なくとも博士の元の方が安全なのに。
その頃のテルミ。
人知れず訪れた悪寒に身体を震わせていた。原因はセリカだろう。だが、その事をテルミは知らない。
「ちっ…俺様が悪寒を感じるとはな。奴が居るのか、此処に…」
詳しくは分からないが、少なくともセリカがイカルガに来た事は薄々感づいたらしい。
だが、彼の目的は変わらない。滅日を始め、アマテラスを破壊する事。それだけを考え、歩を進める。
ひとまず宿として使っているホテルへ戻ってきた。
セリカとノエルは楽しく話している。暫くは大丈夫だろう。
「面倒事だけは俺に押し付けるんだよな…」
ボヤきながら途中だった武器開発を再開。
事象兵器レベルは無理だが、模倣くらいなら俺でも出来る。出力云々は俺が使っている大剣と同じくらいで大丈夫な筈だ。
寝れないというのは時に困る。代償だから仕方ない所はあるが、時折瞼が降りてくる為、眠いのは感じているんだろう。
「手先が器用じゃないのに何やってんだろうな、俺」
「……」
そんな俺を後ろから見ているのがセリカが連れている人型ロボット。名は"ミネルヴァ"。博士が開発したらしいから俺がメンテするというのは不可能に近い。
「……どうした?」
「……」
「……って、分からないよな」
とはいえ言語解読機能とかは搭載されていない為、喋れないんだが……何故かセリカは分かるらしい。
謎だらけだが、俺なんかが聞いても分からない事が多いだろう。そこは謎のままにしておく方がいい。
統制機構イカルガ支部内部、エントランス。
そこに佇む一人の青年。金髪に師団長が羽織る陣羽織を着ている。ジン=キサラギだ。彼は考え事をしながら天井を見上げている。
「(ツバキ…)」
あの時、苦しむツバキを救えなかった自分の力不足に憤りを覚えていた。今度は必ず救うと固く誓い、その場から去る。
決戦の時は近い。
この闘いが世界の運命を変えるだろう。
その先にあるものは、希望か絶望か。神のみぞ知る。
「さぁ…終わらせるぞ。神の見る夢を」
白髪の青年はそう呟く。そして、自らの運命を変える為に闘いの先へ足を踏み入れた。
彼が救うのは、世界か。それとも自分なのか。
「……頑張るっきゃねぇよな。その為に力を得たんだ」
薄い水色の髪の青年は独り言を言い、闘いが始まるのを待つ。彼が救うのは世界だけなのだろうか。それとも全てを救うのか。
「……愛する人が頑張るのに、私だけ頑張らないのは駄目だよね。出来る事を頑張ろう」
金髪の少女は愛する人の為に闘いへ戻っていく。
守られるだけの存在じゃない事を示す為に。
to be continued…
あれ以来大きな事件も無く、平穏な日々を過ごしていた俺とノエル。その間にも仲は進展していき、いつ撮られた写真なのかは分からないが、テレビでイカルガ一の熱愛カップルと報道された時は流石に焦った。目元は隠されていたが、俺やノエルを知っている人ならすぐ分かってしまうだろう。
「……やっちまったか…」
「いつの間に撮ったんだろうね、アレ…」
「さぁな…」
少しの間変装が必要かと思いつつも、闘いから遠ざかるのはいい事だと頭の中で考えていた。血生臭い戦場に行くのは些か抵抗があったし、そもそも元非戦闘員な俺を駆り出す馬鹿は居ないだろう。
「ま、それだけ平和って事だ…」
「……そうだね」
終始抱きしめたまま、外を眺めていた。
偶に頬を引っ張ってみたりしてふざけ合い、楽しい日々を送れていた。そう、あの日々が嘘のように。
「さて、そろそろ動くか…ったく、準備に手間取ってんじゃねぇっての」
誰も居ない廃墟。そこに居たのは緑髪の男。
黒のスーツを着たその男は粗暴な口調で毒づいた後、被っていた帽子を取る。途端にその髪が逆立ち、緑と黒が混ざったようなオーラを纏う。
その男こそ、六英雄の一人であり悠人やラグナが憎いと思い続けている男。名は、ユウキ=テルミ。
テルミは自分の目的を果たすべく活動を再開した……
「守護者の野郎は気づいてる筈だからな…さっさとやらねぇと」
そう呟いた後、まるでその場に居なかったかのように姿を消すテルミ。悪夢が再び始まろうとしていた。
「(……テルミが動いたか)」
たった今感じ取った気配を分析。その気配がテルミだと分かった時既に牽制している。これも、守護者たる自分がなせる技。本当に化物じみてるなと苦笑いを浮かべていた。
「どうしたの?悠人」
「んにゃ、何でもねぇよ……ノエル」
「何かな…?」
「改めて聞くのもなんだが、俺でよかったのか?告白しておいて何言ってんだと思うが…」
「うん。後悔はないよ。両想いって知った時は嬉しかったし」
「……そうか。よかった」
その後に"俺は化物になってしまったんだよ"と言えなかった。それを言った時は、この関係が崩れる気がしたからだ。なら、化物じみてる事は隠し通さないと駄目だ。俺を愛してくれている人を泣かすような真似はしたくない。何れ話すつもりだが……
「よし、何処か行くか?」
「うん」
このまま何も起きなければいい。
だが、テルミが動いたという事は帝達も動き始めたという事にもなる。ラグナやジン達も動く頃合いだろう。その時考えればいいと頭の片隅で考えながら、街中へ出向いた。
「……」
イカルガの街中で佇む一人の少女。
茶髪を後ろでまとめ、何処かの学校の制服らしき服装でそこに居た。側にはニルヴァーナやイグニスとは又違う人型ロボットが立っていた。それだけでも異質な存在なのに、周りの人々は気にしない…いや、気づいていない。
「悠人は此処に居るってココノエ博士に教えて貰ったけど……本当かな…?」
桐生悠人の事を知っている人はそうそう居ない。
天才研究員だった彼は今、この世の理から外れた存在になっている。見た目は変わっているが、ほかの人々と何ら変わらなく生きている。
「まぁ…探せば見つかるよね、多分。ラグナにも会いたいし」
そう呟いた少女は隣に寄り添う人型ロボットと共に悠人を探すべく行動を開始した。
「……ん?」
「どうしたの?悠人」
「なんか懐かしい雰囲気が近づいて来る気がしてな…」
その予感は的中する。後ろを振り向いたと同時に誰かが体当たりしてきた。突然だった為受け身すら取れず、なんとか踏ん張るものの……腹部に強烈な衝撃を食らった。
「うげふっ?!」
おそらく二度目である。一度目は第七機関にて、意識が戻ったばかりの俺にノエルが体当たりしてきた時。
あの時は眼前に迫っていた川を渡りかけたが、今回はそうでも無かった。
「久しぶり、かな?」
「ん……その声、セリカか?」
「そうだよ、悠人」
よくよく見たら、第七機関でちょっとだけ話した事がある少女、セリカだった。あくまでもほんのちょっとだが、おそらく博士の差し金だろう。何故呼んだのかは後で聞くとしよう…
「なんだって此処に来たんだよ?」
「悠人の力になってやれって、ココノエ博士が言ってたんだ。かなり時間かかったけどね」
「あんにゃろう…余計な真似を……」
ノエルは勿論、セリカも守らないと駄目だろう。
闘いを知らないからこそ、巻き込むのは良心が痛む。
それに、博士の考えが分からない。何故俺の元へセリカを送ったんだろう。少なくとも博士の元の方が安全なのに。
その頃のテルミ。
人知れず訪れた悪寒に身体を震わせていた。原因はセリカだろう。だが、その事をテルミは知らない。
「ちっ…俺様が悪寒を感じるとはな。奴が居るのか、此処に…」
詳しくは分からないが、少なくともセリカがイカルガに来た事は薄々感づいたらしい。
だが、彼の目的は変わらない。滅日を始め、アマテラスを破壊する事。それだけを考え、歩を進める。
ひとまず宿として使っているホテルへ戻ってきた。
セリカとノエルは楽しく話している。暫くは大丈夫だろう。
「面倒事だけは俺に押し付けるんだよな…」
ボヤきながら途中だった武器開発を再開。
事象兵器レベルは無理だが、模倣くらいなら俺でも出来る。出力云々は俺が使っている大剣と同じくらいで大丈夫な筈だ。
寝れないというのは時に困る。代償だから仕方ない所はあるが、時折瞼が降りてくる為、眠いのは感じているんだろう。
「手先が器用じゃないのに何やってんだろうな、俺」
「……」
そんな俺を後ろから見ているのがセリカが連れている人型ロボット。名は"ミネルヴァ"。博士が開発したらしいから俺がメンテするというのは不可能に近い。
「……どうした?」
「……」
「……って、分からないよな」
とはいえ言語解読機能とかは搭載されていない為、喋れないんだが……何故かセリカは分かるらしい。
謎だらけだが、俺なんかが聞いても分からない事が多いだろう。そこは謎のままにしておく方がいい。
統制機構イカルガ支部内部、エントランス。
そこに佇む一人の青年。金髪に師団長が羽織る陣羽織を着ている。ジン=キサラギだ。彼は考え事をしながら天井を見上げている。
「(ツバキ…)」
あの時、苦しむツバキを救えなかった自分の力不足に憤りを覚えていた。今度は必ず救うと固く誓い、その場から去る。
決戦の時は近い。
この闘いが世界の運命を変えるだろう。
その先にあるものは、希望か絶望か。神のみぞ知る。
「さぁ…終わらせるぞ。神の見る夢を」
白髪の青年はそう呟く。そして、自らの運命を変える為に闘いの先へ足を踏み入れた。
彼が救うのは、世界か。それとも自分なのか。
「……頑張るっきゃねぇよな。その為に力を得たんだ」
薄い水色の髪の青年は独り言を言い、闘いが始まるのを待つ。彼が救うのは世界だけなのだろうか。それとも全てを救うのか。
「……愛する人が頑張るのに、私だけ頑張らないのは駄目だよね。出来る事を頑張ろう」
金髪の少女は愛する人の為に闘いへ戻っていく。
守られるだけの存在じゃない事を示す為に。
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