スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜

Knight

十四章 ─ 邂逅 ─

カカ温泉から離れ、再びイカルガ内を探索する。
赤鬼によれば、イカルガに『第零師団』が来ているらしい。行動する際は気をつけろと念を押されていた。

「(クリーム色のマントに仮面を付けてるからすぐ分かると思うんだけどな…)」

統制機構には四つの師団がある。その内の一つがその第零師団。賞金首の中でも統制機構の妨げになる者(ラグナとか)を排除する為だけに存在し、他の衛士からは『ゴミ処理部隊』なんて呼ばれ、忌み嫌われる存在。因みに、排除対象は統制機構の衛士も含まれているらしい。兎に角会いたくはない。

「ノエルの親友に第零師団志望した子は居るのか?」

「あ、うん」

「……そうか(だとすると、来てるかもな)」

思わぬ情報を得た所で改めて周りを見ると、一瞬だけクリーム色のマントが見えた。間違いなく第零師団だ。全身マントで隠されている為性別は分からないが、今は不味い。ひとまずノエルを抱えて跳躍。屋根の上を走る。

「ど、どうしたの……?」

「第零師団が見えた。今見つかると不味い」

「…っ!!」

「俺はともかく、ノエルは亡命した身だ。下手すると…『消される』可能性がある」

「詳しいんだね…悠人」

「何、ちょっとした事情でな」

その間にも足音が増えていく。やはりあの時既にバレていたという事か。面倒な事になったなと歯噛みしながら対策を考えていた。

「(ジリ貧だな…ならこうするか)」

突然止まり、後ろを向いて話し掛けてみる。"とある個人の名前をだして"。

「ここまでくるとは思わなかったわ、ツバキ=ヤヨイ殿?」

「……」

「間違いなら無視してくれや。争う気はさらさら無いからよ」

「……その声、貴方ね?」

目の前の零師団の人物が仮面を外す。顔を見た時、内心で"ビンゴ!!"って思った。真っ赤な髪に撫子と呼んでいい程整った顔つき。間違いなくツバキ=ヤヨイ本人だ。

「え、何…悠人、ツバキの事知ってたの?」

「ばっ…はぁ、まぁいいや。ちょっとした因縁的な奴だ」

「……桐生悠人。いえ、アヤメ=ムツキ。"第七機関に亡命した衛士"と聞かされていたけど、本当だったようね」

「俺をその名前で呼ぶな。それと亡命じゃねぇ。ちゃんと辞表は出した。ま、それを簡単に処理するあんたらじゃないわな」

「えぇ。あんないい加減な物、帝が承諾すると思ったかしら」

「いや全然?どうせ頭脳目当てだったのは分かりきってる。だからこそ俺は辞職したんだよ。兵器になり得るもんを作らされるよりは第七機関に居た方がマシだ」

「浅はかね。第七機関の方が危険じゃない。そこに逃げ込むなんてどうかしてるわ」

「自分で進んで第零師団ゴミ処理班に入るあんたにゃ言われたくないね」

ノエルに"こっそり逃げろ。後で追う"と指示し、ツバキの前に立つ。例え俺が倒されでもした所で時間稼ぎにはなるだろう。そもそも、俺に用があるらしい。だったら遠くに逃がすべきだ。

「貴方の罪…断罪します!!」

「やってみろ…」

試作の大剣は闘技場コロシアムに置いてきてしまった為、細剣レイピアを構える。対するツバキは特徴的な短剣と本に似た武具…『事象兵器アークエネミー』の元となった武具、《封印兵装・十六夜》を武装した。

「(噂にゃ聞いてたが、あれが封印兵装か…)」

今最も相手にしたくない奴だが、今回は逃げる時間を稼げればいい。適当にあしらってその場から脱出すればこっちの勝ちだ。




悠人に指示された通りこっそりその場を後にした私は、遠くから二人を見ていた。ここにきて又謎が増えた。悠人は博士に拾われた(その記憶をあの時見た)筈なのにツバキが言うには統制機構元衛士で悠人も私と同じく亡命し、第七機関に身を置くようになった。その時にあの名誉を貰ったという事だろうか。それに、ツバキが呼んだ名前…"アヤメ=ムツキ"。それが悠人の本当の名前なのだろうか。謎は深まるが、私はあの時見た悠人の記憶を信じたい。

「(でも…悠人もツバキも私の大切な人なんだよね…争うのは見たくないけど…)」

これも運命という奴なのだろうか。あの時悠人と何かが繋がった時、先の運命が見えるようになってしまった。だけど、それは未来の事だ。その場その場で言ってしまうと未来が変わってしまう。

「悠人…」

最愛の人の名を呼び、見守る他なかった。あの力は悠人と手を繋いでいる時のみ発揮される為、今の悠人はそれに頼れない。そうで無くても悠人は十分強いけど、ちょっとだけ不安だった。




十分くらい戦っただろうか。今使っている細剣は博士のノウハウを元に作成したものだ。並の兵装では太刀打ち出来ない奴だが、流石事象兵器のオリジナルだけあって強い。既にボロボロだが、十六夜の方は全くの無傷だった。

「ちっ…やりたくなかったが、アレを使うか…」

「何をする気?」

「何、ちょっと愛剣を呼ぶだけだ…来い、ハートネイズ!!」

俺の呼びかけに応じ、漆黒の闇から大剣が形作られる。しっくりくる柄、見馴れた刀身。紛れもなく愛用の大剣だ。それを見たツバキの顔が少し曇る。

「それは…」

「餓鬼の頃から持ってた剣だ。気にする事はねぇ、今から俺ごと消えるからな!!」

「なっ?!」

ブラッドミスト、と呟く。その途端ハートネイズは黒い霧と化す。目くらましに最適な技の一つだ。暗闇に目を取られている間にノエルを連れてそこから離脱する。暫く滞在する上に振り払うのは不可能だ。足止めにも使える。

「悠人。聞きたい事が…」

「嗚呼、俺が何故アヤメ=ムツキと呼ばれてのか諸々含めて後で話す。今は逃げる事に集中しないと駄目だ」

「……分かった」

こんな時にもノエルが可愛いって思う辺り、末期なんだなと内心毒づいた。寂しそうな顔をしているという事は、ツバキはノエルの親友、といった感じか。それよりもまずは追っ手が来る前に出来るだけ離れないと駄目だ。




ハートネイズ、彼はそう言った。おそらく《漆黒剣ハートネイズ》で間違いない。霧が晴れた後、通信機で連絡を取った。その後、一旦身を休める事にした。

「何故彼がアレを持っているの…?アレはムツキ家の…」

考えても仕方ない。私の役目は罪深き者を断罪する事。それがかつての同期であっても、親友であっても。ノエルがあの場を居たのは驚いたけど、上から既に聞いていた。"ノエル=ヴァーミリオン少尉は統制機構から抜け出した"と。ノエルがそんな事する訳が無いと思ったが、あの男、アヤメ=ムツキが関わっているなら納得がいく。一刻も早くあの二人を断罪…いえ、助け出さないと。




「…もう、大丈夫だな」

追っ手が来ない事にほっとし、ノエルを下ろす。さっき無理矢理呼び出した反動が今更訪れ、倒れかける。すぐノエルに支えられ、苦笑いを浮かべた。

「無茶し過ぎだよ、悠人」

「悪ぃな…」

「…悠人の過去はよく知ってる。でも、もう一度聞かせて欲しいの」

「分かったよ。でもその前に…力貸してくれ。何か来た」

「何かって……っ?!」

流石に目を疑った。今目の前に居るのはカグツチで俺達がこの世に存在を定着させてしまった人物、テルミ(本物か?)が立っていた。歪んだ笑みを浮かべている…




さてさて、この後どうなるでしょうか
それは次で分かると思います。では((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

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