本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.62

 それからテーブルにはナイフとフォークがお皿に当たるコツコツという小さな音だけが響いた。リヴィは背筋をピンと伸ばしたまま、慣れた手つきでパンケーキを切り分けては口へと運んでいる。"もう話は終わったのよ"そう言わんばかりの態度に、私はもうリヴィには何を聞いても無駄な気がした。秘密主義の不思議な女の子。そう割り切ってしまえばいいのに、そう簡単には割り切れずに私にはモヤモヤとした気持ちが積もっていく。

「ティアさんって本当にリヴィと似てるよね」

 私は敢えてそんな話題を口にしてみる。もう"本題"には答えてくれそうもないし、ただ無言のままパンケーキを食べたってつまらない。というよりも……、この何とも言えない空気が耐えられなかった。

「そうかしら?」

 紙ナプキンで口元を拭ってからリヴィは素っ気なく言った。でもその表情は柔らかくどこか嬉しそうで、何も聞いてないのにティアさんの事が好きなんだと私に感じさせる。

「似てる似てる。ていうか二人ともアメリカ育ちなんでしょ? 日本語ほんと上手でびっくりしちゃうよ。どこで勉強したのっ? あ、英語もペラペラなんでしょっ?」

 するとリヴィはふっと笑って「一会話文に質問が多いわ」と手を止めた。そしてグラスを手に取りアイスコーヒーを一口飲むと、鞄から携帯を取り出して何度か画面を指でなぞると、私の前へとそっと置いた。
 ……画面には幸せそうな家族の写真が映っている。まだ小さいけど、面影が残るリヴィやティアさんの姿もある。でも何かが足りない。そんな気がした。

「貴女は無関係では無いから……。きっとトクベツなモノよ」

 トクベツ? この写真のどこが特別なのかはよく分からなかった。自分の幼い頃を見せる事が特別って事? そう思って"別に可愛いんだからみんなに見せても構わないと思うけど"と私が言うと、リヴィはまたふっと笑ってこう言った。

「やはり貴女は私のパートナーであって欲しいわ」

 私は疑問を投げ掛けた。どうして今の流れでそうなるの? と。すると、リヴィは"これが私の母"と画面を指差す。"そしてこれも私の母"……ようやく先程抱いた違和感の意味が分かった。家族で撮ったはずのその写真には父親の姿が無かったのだ。"二人の母"が後ろからリヴィとティアさんを優しく抱きしめているその写真に、私は何故父親が居ないことに気付かなかったのだろう。父親はその時シャッターを押していたと思ったから? ……違う。その二人の母親は二人の子の両親であるという事が言わずとも伝わってきたからだ。でも、それは他の人でも変わらないんじゃ……、そう思ってリヴィへと視線を向けた時だった。

「それは違うわ。貴女以外にも同じように思うか、でしょう? この写真を見た人は皆、"どちらが母親か"と尋ねたわ。向こうで暮らしている時もそう。母……、アメリアは私達家族以外の誰にも認めてもらえないと嘆いていたわ。父親と母親、その境で彷徨ったあの人は……、だから貴女に固執していたのかもしれない」

「それはどういう……」

「とにかく、"普通"と言われる枠組みにはアメリアは属していなかったという事」

 その言葉で強引に話は止められた。もちろん私は"普通"という枠組みが何なのか疑問には思うし、この写真にも微かな違和感しか感じられなかった。だけどそれがリヴィの"私でなければならない理由"にはまだ足りない気がして、諦めかけた"本題"がまたモヤモヤと私の奥底で燻り始めたのだった。




コメント

  • 漆湯講義

    ミツキさんお久しぶりです!(°0°)
    コメント有難うございます、嬉しいです٩(๑•̀ω•́๑)۶
    最近は時間を作っても改稿ばかりで(自分の実力の無さに後悔しかありませんw)新しい話の投稿をまるっきり放置してました(。•́ωก̀。)…
    それなのにまた見て下さって本当に感謝ですΣ(◦д..:)
    最近は携帯をいじる時間できてもすぐ寝落ちしてしまうので、またミツキさんの小説を読ませてもらうの楽しみにしてます(文章おかしいですが、いつも読みたいなと思っていても時間が無かったり寝てしまうというのが毎日で……w)!!

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