本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.56

    それを見た私は頬に手を当て、莉結の唇が触れた部分を指でなぞってみる。
そんな事をしても何にもならないのは分かっているけど、なんだか私の胸の奥にそっと木漏れ日が差し込んだような感じがした。
    それと同時に私の頬が妙に温かく、湿っていることに気づく。
    そしてそっと手のひらを額へと当てると、汗で額に張り付いた髪と火照った私の体温の感触が私の口から小さな溜息を吐かせた。

"遅い時間にごめん!    今日は寝ちゃってごめんね!    てか熱出てきたかも……"

    携帯の画面の時刻が深夜零時を回っていた事もあって少し迷ったけど"どうせ寝てるからいいよねっ"と自分に言い聞かせて莉結へとそんなメッセージを送信した。
    そして私は気怠い身体を無理矢理起こして机の上のペン立てに差してあった体温計を手に取る。
私は普段、体温計なんて使わない。だって自分が思うより体温が高いって分かると、体温を知らなければなんともなかった体調さえ悪く思えてくるから。
だけど今回はそんな風に思い込みで済むような事じゃないような気がして、念の為にと体温を測ることにしたのだ。
案の定、体温計の数値はみるみる上昇していき、四十度に達してしまう直前でその数値は少し下がった。

……それでも三十九度か。やばいじゃん。

再び私の口から溜息が溢れると、その溜息に呼応するように携帯の画面が光った。

あれ?    莉結だ。

私は少し驚きつつも、すぐにそのメッセージを開く。

"おだあじにね"

私はその文面に口元が緩む。きっと眠くてしょうがないのに、やっとのことで半分開いた目を閉じないよう頑張ってこのメッセージを打ったんだろう。そんな光景を想像しながら私は"ありがと"とだけ返信した。


翌朝、目が覚めると同時に額から私の耳へと汗が伝うのを感じた。
意識はやっぱり昨日の夜と同じ。ぼうっとしたモヤモヤがかかったままだった。
そして再び体温を計ると、やっぱり"39.0°"と昨日とさほど代わり映えのない表示が目に映ったのだった。
溜息を吐きつつ携帯を開くと、いつも莉結が迎えに来る時間が迫っていた。

"もしもし、ごめんね。熱下がんないから今日も学校休んで病院行ってくる"

そういって電話を掛けたのは勿論莉結。
莉結は心配してたけど、"大丈夫だって、ただの風邪だもん"と私は笑った。




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