本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.43

「そうです。ところで昨日、私の家の前で何…してたんですか?」

すると彼女は再び細めた目で視線を少し下へと移すと、『私の…家?』と再び私の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳に込められた不思議な力に私の視線は下を向く。

「えっと…私は如月瑠衣の双子の妹なんです。だから…」

私がそう言いかけ、ゆっくりと彼女へと視線を向けると、彼女は『そう…』と何故か悲しそうな瞳で私を見つめた。
そしてその青い瞳は私の中へと入り込んで来るように私の視線を彼女へと縛り付けたのだった。
するとその視線を断ち切るようなチャイムの音が辺りに響く。そしてそれを合図にしたかの様に莉結がパッと口を開いた。

『衣瑠っ、行こっ。それじゃぁセレスティアさん、さよなら』

莉結が私の手を掴んで校舎の方へと足を進めた。
そして、「でもっ…」とその場に留まろうとした私を再び莉結の手が引っ張り「…それじゃぁどうも」と私は彼女から視線を引き剥がしたのだった。

校舎へと小走りに向かう中、私は莉結に「どうしてなの?」と少し不機嫌な声で尋ねた。
せっかく勇気を出して彼女の正体を突き詰めようとしていたのに、私にとって授業なんかよりも大切なコトだったのに、そう思ったからだ。
すると莉結は私の前を歩きながら言った。

『なんでだろ…ごめんね、せっかく頑張って聞きたかった事聞いてくれたのに』

そう言った莉結の表情は見えなかったけど、きっと不安でたまらない表情なんだって思った。だって声が少し震えてたから。

『…瑠衣はどこにも行ったりしないもんね?』

突然、昇降口の前で莉結の足が止まり、振り返らずにそう言った莉結に私はなんて返せば良いのか分からなかった。

「どうしたの?突然…」

そんな気の利かない答えをしてしまった私に莉結が振り返る。
そして不自然な程の笑顔で『ううん、何でもないっ』と静まり返った校舎へとその足音を響かせたのだった。






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