本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.24

きっと先生はこういう場面に慣れているんだと思う。
先生は、冷えたグラスの表面を滑り落ちる水滴のように、静かに、それでいてすんなりと私の心に滑り込んでくるかのような口調で再び口を開く。

『いつかこんな日が来るんじゃないかとは思っていた。いや…申し訳ない、別に瑠衣ちゃんの決意の強さを否定した訳では無いんだがね…人生って分からないものだとは思わないかい?今の自分は常に過去の自分でもあるんだから。その過去の自分の決意がずっと続くって事自体が仮定でしかない、というのが僕の持論でね』

私は俯いたまま手を当てた膝をぎゅっと閉じた。人形みたいに動けなくなってしまった私の鳩尾(みぞおち)の辺りだけが小刻みに震えている。
そして行き場の無くなった全ての感情が今にも涙となって溢れてしまいそうになっていた。
そしてまた、ごほんと咳払いが聞こえると、先生が優しい声で話しかけた。

『勝手に話を進めてしまっているようだけど、瑠衣ちゃんは元の…いや、少し前の男性としての自分に戻りたいって事を言いに来たんだよね?』

私は小さく頷くと、喉の奥深くに埋まってしまったモノを捻り出すように「どうにか…なりませんか?」と消えそうな声で言った。
先生の溜息にも似た吐息が微かに聞こえる。
『前にも話したけど…今の段階では私たちの研究はそのレベルに追いついてない。少し前までならホルモンの分泌量や様々な要素が不安定で、私たちの開発した薬の投与によってそれなりの作用は期待できたんだけどね…今は完全に本来の数値に戻ってしまっているんだ。だから…厳しい事を言うかもしれないが、今の身体が"本来の自分の人生"だって割り切ってもらうしかない…かな』

割り切って…きたつもりなんだけどな…
あればっかりは割り切れないよ。
それとも莉結との関係を割り切ればいいの?わかんない…どうすればいいのか…もう、わかんないや。
ぐちゃぐちゃになった感情は頭の中でぐるぐると渦を巻いていく。
そして次第にその渦は大きくなっていって…

気がつくと私は真っ白な天井を見上げていた。

コメント

  • 漆湯講義

    誰にでもありますよねー(´。-ω-)
    無い人は居ないか(。•́ωก̀。)…w

    0
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