本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.18

『ねぇ、そろそろ起きなよっ』

耳元で囁かれた言葉に、私は暗い闇の中から煙のようにすぅーっと明るい方へと導かれていった。
思い瞼を開けると柔らかな日差しが私の瞳へと飛び込んでくる。
朝食の準備をすると言って部屋を出た莉結を見送ると、机の上に置いたままの卒業アルバムが目に映った。
私はゆっくりと立ち上がってアルバムを手に取る。
それから唾を飲み込み深く息を吸い込んだ。
喉が痛い…風邪でも引いたのかな。
そして再びあのページを開くと、ドクンと脈打つ心臓の音と共にそのページを閉じた。
私は着替えをすませると、階段を降り台所へと顔を覗かせた。

『あら、瑠衣ちゃん、おはよう。顔洗ったらご飯だからなあ』

お婆ちゃんの優しい笑顔に少しだけ気分が軽くなった。
こんな温かい家庭が私にもあったらな…
私は莉結の背中を見つめながらそんな事を考えて、視線を引き剥がすようにその場を離れたのだった。

朝食を終えて部屋に戻ると、莉結が私の横へと座り『あの話どうする?』と私の鞄を指差した。
「手紙の事?」
それに頷く莉結。
私は天井を見つめると「やっぱり、やめようかな…」と呟いた。

『えっ、どうして?私はてっきり電話してみるのかと思った…』

「だってさ…」

そう言いかけたところで私は「なんでもないっ、その…やっぱり知らない人からいきなりあんな手紙もらってもちょっと心配」と言い直した。

『それはそうだけどさぁ…衣瑠はそれでいいの?』

「うん…いいんだと思う。それがきっと」

頬に莉結の視線を感じる。
私は黙ったまま机の上のアルバムを見つめ続けていた。
すると、突然頬に柔らかなモノが突き刺さった。

「えっ、なに?!」

私が莉結に視線をやると、訳もわからずに不機嫌になってしまった子供に、その理由を尋ねる母親のような、そんな困った顔が映り込んだ。

『どうかした?』

その優しい口調に全てを話してしまいそうになる。だけどそれは私には出来なかった。

「なんで?別になんともないよ」

『だって衣瑠、朝からなんか元気ない』

そんなつもりは無かったのだけど、幼い頃から私を知る莉結には、その微妙な変化にも気付かれてしまうんだろう。
私は嘘はつきたくなかったけど、その理由を別のものとして置き換えた。

「喉が痛くてさ。風邪、引いたかも」

『なぁんだ、大丈夫?薬持ってくるからちゃんと飲んで早く治してよねっ♪』

本当にそれで納得してくれたのかは分からないけど、私は部屋を出た莉結の背中に小さく"ごめん"と囁いた。

コメント

  • 漆湯講義

    あいすさんありがとうございますっ!!(。>ω<。)ノ
    色塗りしただけですいませんc(・ω・`ww
    最近更新率低めで申し訳ありませんが頑張ります(。^ω^。)
    忙しかったり新しい小説考えたりで中々時間が取れなくて(´°ω°`)
    あいすさんは更新の度にいいねをくれるので嬉しいです( ・`ω・´)キリッ

    0
  • あいす/Aisu

    お気に入り300おめでとうございますっ!
    ♡ ( ๑⃙⃘ˊᵕˋ๑⃙⃘ ) ♡
    表紙可愛い!!(*´ω`*)

    1
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