本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…Aya.13

"ねぇ、彩ねぇは姉ちゃんのコトどう思ってるの??"

この声…

私は声の主を知っている。しかしその姿が思い浮かべずに記憶の糸を辿った。
すごく身近なのに遥かに遠い存在のような気がする…
そして記憶の糸の芯から私の脳内へと瞬く間に芽を伸ばし、咲き誇った記憶の花が私の中に満ちたとき、声の主のその顔がハッキリと脳裏に浮かんだ。

『レイちゃんッッッ!!』

そう、この声は紛れもなくレイちゃんの声…私はその声の方向に目を凝らすも、漆黒に淀んだ暗闇が広がるだけでレイちゃんの姿は見えない。
そして再び透き通った声が私の耳へと突き刺さった。
"ふーん…あのさぁ、もう彩ねぇも分かってると思うんだけどさっ、姉ちゃんの事ヨロシクね♪"

姉ちゃんの事…よろしく…か。嗚呼、そんな事言われたっけ。

あれはだんだんと暑さが増してきた頃だったかしら…稚華とレイちゃんと遊んだ帰り道、そのままバイトへ行くと言って稚華と別れたあの公園で、夕陽に染まるベンチに腰掛けながらレイちゃんがそんな事を言っていた。

あの時、私は何て答えたっけ…

そんな事を考えていると、再び澄んだレイちゃんの声が耳のすぐ側…いや脳に直接伝わるかのような不思議な感覚で伝わった。

"お姉ちゃんも衣瑠ねぇも莉結ねぇも、みんな彩ねぇがダイスキだよ♪もちろんワタシも。だから…ほら、起きて。みんな待ってる…"

すると目の前に針の穴程の小さな小さな光の点が現れる。それは太陽のように眩い光を放ち、私を照らす。
『彩…行かないで。私を置いていかないで…』
背後ではアヤの声が響いていたが、私はその光に目を奪われ、眩しくて目を閉じたいのに閉ざす事も出来ずに、だんだんと強まるその光を見つめ続けていた。

その光の"白"が視界を支配しようとした時、ブラウン管のテレビを消したかのように横一筋の閃光の後、目の前が再び闇に包まれたのだった。

いや、完全なる闇では無いみたい。
私がそう理解した時、ぼぅっとした声が耳へと伝わり始める。
それは水中で外からの声を聞いているかのような、布団の中で部屋の外の声が聞こえてくるような…そんなカンジ。

そして視界に映る黒色にだんだんとオレンジが混ざってくる。それはだんだんと明度を増し、ぼぅっとした声も徐々にハッキリしたものになってくる。

『ヤ………き…よ』

そして私は耳に届くその声に安堵する事になる。

稚華の声だ…

私はその姿をこの目に映そうと重い重い瞼を持ち上げた。






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