本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…Aya.8

周りがざわつき始め、私はこの子の言うことが理解できないまま「えっ…殺されるって、大丈夫??」と震える肩に手を伸ばす。

するとその手が衝撃と共に空を舞った。

私が戸惑いつつも再びその子に視線を向けると『私を殺しにしたんでしょ!!天堂彩ッ!!』と、透き通った青空を突き刺すような声が辺りに一瞬の沈黙を生み出した。

同時に私の頭の中にその声がこだまする。

何故?私が貴女を殺す?何故…

呆然としたまま、彼女の刺すような視線を受け止め続けていると、『彩…どうしたの?』と言う声が背後から聞こえ我に帰る。

「あ…稚華。私も…わからない。この子が…」

すると彼女が立ち上がり、口元のマスクを外した。

『じゃぁ何で此処に居るのよッ…私を探してたんでしょ…ずっとずっと…殺し損ねた私を追ってここまで来たんでしょッ!!』

あぁ…そういうことだったのね。
私は目の前にいる"同級生"の言葉で全てを理解した。

アヤの…いや、私の旧悪の被害者なのね。

『ちょっと何ワケわかんないコト言ってんの!!彩、行こッ!!』

そう言って掴んだ稚華の手をゆっくりと振り解き、私は小さな声で「ごめん…行けない。」と言った。

『えっ、何で?変な子だからあんま関わんない方がいいよ!!ほらッ…』

しかしそれでも動く事のない私を見て稚華が不安げに眉をひそめる。

「ごめんね稚華…私は彼女に謝らなければいけないの。それは許されることではないけれど…」

『えっ、何…知り合い…なの?謝るって…何でッ…』

『お願い…助けて…私が…私が何したっていうのよ…』

彼女は…いや"ほのかさん"はそう言って泣き崩れてしまった。

そして周りがだんだんと騒めき始めた時、衣瑠の声が背後に響いた。

『ほのかさん…えっと、彩ちゃんも…大丈夫??』

その声に衣瑠を見上げたほのかさんが得体の知れないモノを見るような目で『なんで…衣瑠ちゃんどうしてこの人と居るの…』と消えそうな声で呟いた。

『ほのかさん…まだあの日の事…』

青ざめたまま震えるほのかさんには…もう、委員長として輝いていたあの頃の笑顔は無い。
それ程関わりがあった訳では無かったけれど、委員長として皆んなの為に動く姿はふとした時に目に映っていた。
何故他人の為にあそこまでするのかしら、なんて思っていたけれど、それが彼女の生き方だったのかもしれない。
でも…その生き方さえも捻じ曲げてしまった私の行動は決して許される事では無かったのだと、目の前にいる彼女の心の叫びが無数の針となって私の胸を突き刺した。




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