本日は性転ナリ。

漆湯講義

After story...Dear Rei .4

ぽつぽつと手紙に染み込んでいく真新しい粒とは別に、最後の部分がインクで滲んでいることに気づく。

"またね"か…

私は顔を上げ涙を拭った。
ふと横を見るとみんなも目を真っ赤にしてぽつぽつと流れる雫を何度も拭っていた。

「稚華さん、今渡したら駄目だよぉ…」

『そうだよっ…こんな顔じゃぁ嶺ちゃんに笑われちゃう。』

そう言って稚華さんの顔の方を向くと『うぐぅ…ぐぉめぇん…』

顔をぐにゃぐにゃにして涙腺を崩壊している稚華さんを見た瞬間、静かな車内に笑い声が響き渡った。

『なにその顔…!!』

『稚華…せめて鼻水くらい…ップ!!』

「ほらっ、ハンカチ…使って…ははははは!!」

稚華さんのお陰…?で明るい雰囲気へと戻った私たちは"目的地到着のアナウンス"に慌てて降車ボタンを押すと、周りの迷惑そうな視線に恐縮しつつバスを降りた。

生温い空気と木々や草花の香りが私たちを包みこむ。
辺りは山に囲まれ、無数の蝉の鳴き声が静かな古い町並みに響き渡っている。

『のどかなトコだねぇー…』

『でしょ?私のお母さんの実家がこっちの方で小さい頃は夏休みとかに来てたんだぁ。』

『ねぇ!!なんかソースのいい匂いがするよっ!!』

『あそのこのお好み焼き屋じゃない?昔食べに行ったことあるけど超美味しかったよ♪』

『ねぇ衣瑠ッ♪…』

「行かないよっ!!まだお昼じゃないじゃん!!」

『でもー…』

「帰りに寄ればいいじゃん、今は駄目ッ。」

『んー…そっかぁ…』

そんな親子の会話のようなやりとりを交わしつつ古い町並みを進んで行く。
交差点を曲がると視界が開け、大きな橋が目に飛び込んできた。
2車線ほどの車道とその両側に歩道を備えた橋の向こう側には聳え立つ大きな山が此方を見下ろしている。

『おぉ、橋だねッ♪』

「え、うん、橋…だね。」

『すっごーい♪川だよっ、衣瑠ッ♪』

その橋の下には澄んだ川がせせらぎの音を奏で、何処までもその煌めきを伸ばしていた。
それ程遠くに来ていない筈なのだが、周りを取り囲む自然と、何処か懐かしい町並み、そして聞き慣れない蝉の声に街の雑踏を忘れさせてくれる。

「ここはいいトコだねッ。んんッ…」

私は眩く光る青空へと腕を伸ばし、少しひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品