本日は性転ナリ。

漆湯講義

185.一輪の桜

レイちゃんの声が聞こえる。
"衣瑠ねぇッ"
あの笑い声だってまだ私の鼓膜に確かに残っている。

きっとコレは夢なんだ。昨日の夜起きた奇跡が私に与えた幸せと安堵の"フクサンブツ"。

私は目の前に広がる悪夢に何度も叫び続けた。

覚めろ。

覚めろッ。

「覚めろォォォォッ!!」

すると次第に聴覚が私の身体へと戻ってくる。

ぼーっとしていた視界も段々とそのピントを合わせ始める。

そして私は"現実の世界"へと戻ってきた。

すやすやと微笑みながら眠るレイちゃんの周りにはいつもの稚華さんの姿。

『嶺ーッッ!!!…なんでぇ……』

莉結だっていつも通り。

『ぁぁぁぁん……ぅぅ…』

アヤちゃんだってほら。

『………』

なんで…みんな泣いてるの…??

そこには受け入れられない"現実"が広がっていた。

レイちゃんにすがりつき泣き喚く稚華さん。
床へと崩れ落ち声を出して泣いている莉結。
立ちすくんだままポロポロと涙を流すアヤちゃん。

そんな中、私は…

私は…泣いていた。
止まることのない大粒の雫が頬から顎へと伝い大きな粒となり床へと落ち続けている。

私の身体は理解していたのだ。ただ、私の脳だけは目の前に広がる現実を拒否し続けていた。

そんな私を横目に、レイちゃんに取り付けられた器具が淡々と取り外されていく。

「レイちゃん…ねぇ、レイちゃん。」

横になったままのレイちゃんへ歩み寄り、桜の枝が握られた右手にそっと手を添えた。



ほのかに伝わるレイちゃんの体温。その手はまだ柔らかく、今にも私の手をぎゅっと握り返してくれそうな気がした。






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