本日は性転ナリ。

漆湯講義

177.君が為に咲く花

4人だけになった室内で、レイちゃんの手を握っていた稚華さんが『桜…見せてやりたかったな…』と零した。

その言葉を聞いてある事を思いつく。

「ねぇ、最期にお花見…しようよ。みんなで。」

『え…なに言ってるの。無理だよ。』

「探してみなきゃわかんないよ!レイちゃん喜ぶよ!!もしかしたらそれで良くなるって事も…」

『無理だよ!!だって私…嶺のそば…離れたくないもんッ…1分1秒だって…』

『私と衣瑠で探すよ!!』

とは言ったもののこんな時期に桜などが咲いているはずが無い。

私たちは携帯片手に完全に行き詰まってしまった。

『桜、咲いてないんだね…当たり前だけど。』

「だけど…なんとかしてレイちゃんに桜見せるんだ。絶対。」

その時、携帯を眺めていた莉結が突然声を上げた。

『ねぇ!!あったよ!!この時期に咲いてる桜ッ!!』

私は莉結が差し出した携帯の画面に目をやる。すると確かに"開花時期5月下旬〜7月下旬"とある。

「やったぁ!!これでレイちゃん喜ぶよ!!どこにあるのッ??」

『ちょっと待ってね…えっと…名前はタカネザクラ…場所は…』

すると莉結の表情が曇った。その目が見つめる先の文字を読み上げると…「富山県…」

『そんなんじゃ…間に合わないよ…』
瞳を潤わせ莉結が俯く。だけど…希望がある以上諦めるわけにはいかないよ!!

「行こっ!富山!」

『えっ?衣瑠本気??』

「当たり前じゃん!!時間が無いよッ、すぐにでも出なきゃ!!」

『けどどうやって持って帰って来るの??勝手に切っちゃダメなんじゃないの??』

「だけど…そんな事言ってる場合じゃ…」

『その気持ちは分かるけどちゃんとした方法で…』

「そんな方法なんて無いよッ!!早くしなきゃレイちゃんが…」

焦る気持ちばかり先走り、何をしてでもやり遂げなければならないという使命感に追われる。
そんなんじゃダメだと自分でも分かっていても、いつ来るか分からない"その時"への恐怖がグイグイと背中を押してくる。

そうやって葛藤する私に莉結がある提案を持ちかけた。


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