本日は性転ナリ。

漆湯講義

165.普通って

『何でもないじゃなくて言ってよ!』
稚華さんの訴えにレイちゃんは『いつも通りの姉ちゃん達居て。』と繰り返した。

その後莉結と交代し、廊下でぼーっとレイちゃんの事を考えていた。

"いつも通りの姉ちゃん達で居て"か…

それがレイちゃんの願いなら私は出来るだけ普段通りにしてあげたい。

しばらくして莉結が戻るとやはり同じ事を言った。『私達は前と変わらずいつも通りに接してあげた方がレイちゃんは嬉しいのかも…』

複雑な気持ちのまま面会時間が終わり"病院に泊まる"という稚華さんを残して帰路についた。

『明日もお見舞い行くでしょ??』
足で小石を転がしながら莉結がポツリと呟く。

「モチロン。…あのさぁ、レイちゃんは"普段通りがいい"って言うけど、どうやったら普段通りになれるんだろう。」

『そうだねぇ…普段通りは普段通りじゃない?』
莉結は顎に指を当て、当たり前の事を言い出す。

「ソレ真剣に考えてんのッ?」
私が嘲笑うようにそう言うと莉結は真剣にこう答えた。
『だって普段通りって"こうしよう"とか"ああ言おう"とか何にも考えないでしょ??だから別に普段通りがどうなのかとかは考えなくてもいいんじゃない?』

そっか…そうだよね。レイちゃんは自分の事を心配して特別な対応されたくないんだもんな。

「そうだねッ、さすが莉結だ。頼りになるね。」

『そんなコトないよ。私がレイちゃんの立場だったらそうして欲しいってだけだから。』

自分がレイちゃんの立場だったらか。もし私がレイちゃんの立場だったらどうだろう。
きっとワガママばっか言っちゃうんだろうな…

空に浮かぶ雲が月に寄り添って輝いている。
私はそれを眺めることしか出来ない。
そして、もしも月が輝きを失ってしまえば雲も輝きを失うだろう。




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