本日は性転ナリ。

漆湯講義

160.知る

「稚華さんッ!!大丈夫…?」

稚華さんは何も言わず正面を見つめている。
しばらくすると我に返ったように私たちに視線を向けると叫ぶように私たちに問いかけた。

『嶺は?!』

『レイちゃんは私たちもまだ会ってないよ。稚華さん。お医者さんになんて言われたの?』

するとその言葉に再び涙が溢れ始める。

『あ…嶺は…嶺は……ゔ…』

呼吸もままならず子供のように泣き喚く姿に、最悪のケースを覚悟する。

「そんなに悪いの?レイちゃん…」

稚華さんは必死に呼吸を整え、少しずつ話し始める。
『嶺ッ…ぞんな…ながぐ…いぎられなぃ…っでぇー…』

え…

言葉として聞いてしまった途端、私の意識がスゥーっとどこか遠くへと飛んで行った。

そして私は"無"の空間へとたどり着く。

何も考えられない。
いや、なにかを考えようとする度に私の脳が全てを拒否していた。

レイちゃんが…

そして私に"痛覚"が訪れ無の空間から現実へと戻された。

『衣瑠っ、大丈夫?!』

目の前には天井と…私を覗き込む莉結。
それと背面に残る鈍痛。

「痛っ…あれ?なんで…」

『稚華さんが急に飛び出してっちゃって…』

莉結の手を借り立ち上がる。

「私たちも行かなきゃ。」

私たちは部屋を後にし、レイちゃんの病室へと向かうことにした。

受付に行きレイちゃんの病室を尋ねていると、"私の担当"の先生が姿を見せた。

私たちを見るなり深々と頭を下げる先生。
『こんな事になって申し訳ない。私たちも前々から入院を勧めていたんだが…』

今は…今は"それ"じゃないだろっ!!

「そんな事よりレイちゃんはどこですかッ!!」
先生は俯いたまま目も合わせる事なく歩き出した。
『……すまない。着いてきてくれ。』

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