本日は性転ナリ。

漆湯講義

131.セットク

その人影は大蛇の如くゆっくりと顔を上げる。

『何故だ?』

そのたった一言に様々な意味が込められているのが分かった。

何故こんな時間にここに居るのか?
何故"そいつ"が一緒にいるのか?

…そして、何故お前が"自分"に会いに来たのか?


私たちはまさに"蛇に睨まれた蛙"だった。

彩ちゃんは俯いたまま、静かに震えていた…

私は繋いだ手をぐっと握り覚悟を決める。

「彩ちゃんのお父さん…カジシマさんと彩ちゃんの結婚を無かった事にしてください!!」

沈黙したまま鋭い視線が私を睨む。

『誰だ?お前は?』

その問いかけは、"どういう関係なのか"と言っているようだった。

「私は…私は彩ちゃんを大切に思う人間の1人です!!お父さんも彩ちゃんの事、大切に思っているなら…結婚を無かったことに…『馬鹿らしい。そんな1人の感情で大事なパイプを切れるか!私の会社、そして彩!!お前の為でもあるんだぞ!!』

私には"会社の為"としか聞こえない。
彩ちゃんがどうしたいかなんて考えてもないくせに!!

「彩ちゃんの気持ちは大事じゃないんですかっ!!」

『小娘が知った口を聞くな!!お前らがどのような関係かは知らんが一瞬の感情に流されているだけだ!!お前も彩の為を思うなら私たち家族の事情に口を挟むんじゃない!!』

「そんなの…彩ちゃんの為なんかじゃないと思います!!本当に彩ちゃんの為って言うのなら、彩ちゃんの人生は自分で選ばせてあげてください!!」

『親が子供の面倒を見て何が悪い?いい加減にしろ!!彩!!さっきからコイツばかり喋ってるがお前はどうなんだ?』

彩ちゃんの顔からは血の気が引き、呼吸にも身体の震えが伝わっていた。

口を小さくパクパクさせ、何か言いたいようだが言葉になっていない。

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