本日は性転ナリ。

漆湯講義

62.薄色の日々

 あれから自分の感情がよく分からないまま数日が過ぎようとしている。
 私はいつものように家の前で莉結の到着を待っていた。いつの間にか路傍には小さなつくし達がその頭を覗かせていて、春の訪れを感じさせてくれる。

「おはよっ」

「おはっ……よう」

 莉結の声に振り返りつつ、私が返事をすると同時に莉結の横顔がスッと私の視界を通り過ぎて消えていく。
 あの日、天堂さんの家に行った日の帰り道。莉結の口から出たあの言葉がずっと離れない。

 "天堂さんと付き合ってあげたら?"

 思わず"何で? "と聞き返した私に、莉結は"その方がお互いの為だと思う"と言った。
 お互いの為……。それは天堂さんと私?
 追い掛ける莉結の背中は何処か小さく見えた。いつものようにテレビの話や学校の会話はするけど、何故だかそれは会話……というよりも対話、意味は同じかも知れないけど会話よりも淡白な、何処か義務的な意味合いの含まれるそれに感じた。
 学校はというと、何か変わった事か起こる訳でもなく淡々と進んでいき、以前なら莉結との話題に持ちきりだった期末テストも話題にあがる事なく当日を迎え、呆気なく終わった。
 終業式までもあと数日と残っていない。悩みのタネだった天堂さんも、学校では通りすがりに挨拶をする程度。莉結も他のクラスメイトとは相変わらずで、あの出来事で変わってしまったのは私の日常だけなのかな、と色の薄くなってしまったような感覚に虚しさを覚えていた。


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