本日は性転ナリ。

漆湯講義

37.朝の木漏れ日

 ……思い出せない"何か"に名残惜しさを感じつつも、私の耳に響く誰かの話し声に違和感を覚えた。それがクラスの子の話し声だと認識した時には、私は林間学校に来てるんだっけ、と理解できていて、私の目には暗闇に浮かぶチカチカとした赤色の粒が見えていた。
 重い瞼をゆっくりと開けると、昨日の夜とは雰囲気の全然違う高い天井が映って、木の香りのするひんやりとした空気が私の肺を満たす。

「衣瑠ちゃんおはようっ」

 声のした方に目をやると、ほのかさんが布団を畳みながら私を見ていた。

「おはよっ」

 私はそう答えると、腕をぐんと伸ばしてから起き上がった。
 周りを見渡すと、大半の子が布団を畳み終えていて、歯磨きをしている子やジャージに着替え終わって談笑する子、未だにすやすやと寝息をたてている子もいる。そして……私の横にもすやすやと寝息をたてている子がいた。
 きっといい夢でも見てるんだろう。莉結は寝ながらも微笑んでいて、私はその顔をそっと見つめた。

「ほんと可愛いよねっ莉結ちゃん」

 後ろからほのかさんがそんな事を言った。私は"そうだね"と答えてしまいそうになったけど、昨日の件もあって「何笑ってんだろうねっ」と言っておいた。

「あっ、私もそろそろ朝食バイキング行ってくる」

 ほのかさんはそう言って、部屋を出て行く子達の列に混ざっていく。確かに、バイキング形式なら早めに行かないと良いものはすぐに無くなっちゃいそうだ。私は横ですやすやと眠るお姫様を少しだけ見つめると、優しく声を掛けた。

「莉結っ、起きなよ」

 私の言葉に反応は無く、そっと身体を揺すっても莉結は起きず、かなり熟睡してるみたいだった。私は莉結の横へと座ると、その長く綺麗な髪を指に絡めた。
 綺麗な髪だなぁ……今まで気にした事無かったけど、案外莉結ってそういうとこに気を遣ってたりするのかな。
 すると、莉結の瞼にぎゅっと力が入って、薄く開いた莉結の瞳が陽の光を反射してキラリと輝いた。

「ん……衣瑠? おはよ」

「おはよっ。みんな食堂に行っちゃったよ? 莉結も起きなよっ」

 すると莉結は、もごもごと口を動かして何か言いながら、髪に伸ばしていた私の手をその両手で握った。
 莉結の体温が私に伝わってくる……あの頃の莉結の手と同じ感触。そして私がもう片方の手を伸ばした時、突然莉結が身体を起こした。




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