本日は性転ナリ。

漆湯講義

17.知ってもらいたいから

「おばあちゃんとなに話してたの?」

    部屋の扉を閉めると同時に莉結が口を開いた。何を話してたかと聞かれると何て言えばいいのか分からない。私の解釈が合ってるかは分かんないけど、おばあちゃんの言いたいことはなんとなく分かった。

「えっと……今後の人生について……かな?」

「え、何それ……」

「いや、それは冗談……でも無いんだけど、莉結のおばあちゃん……私の事一瞬見ただけで"瑠衣くんだね?"ってさ。さすがだよ」

「隠すつもりは無かったけど、やっぱおばあちゃんにはバレちゃったか。でもね、瑠衣の事分かる気がした。だっておばあちゃん、いっつも瑠衣の事"もう一人の子供みたいなもんだで"って言ってたもん」

    その言葉は本当に嬉しかった。誰かに大切に思われている……それだけでこんなに安心できるんだな、って。
 人の温かみの大切さを、人生で初めて身に染みて感じた気がする。それは"今日の出来事"も相まっての事だろうけど。

「そっか……嬉しいな」

    その言葉の裏側には、こんなに心配してくれている莉結へ"本当の事"を話すことができない自分への罪悪感が浮かび上がっていた。きっと莉結だって、今日の私の行動に、色々と聞きたい事もあるはずなのに。それを聞いてこない莉結は、やっぱりお人好しだ。

「あっ、もうこんな時間か……明日の準備なんもしてないんだった」

    自分の口から出た言葉に胸が締め付けられる。そうやっていつも逃げてばかりな自分が嫌いなはずなのに。私はまたいつものように逃げ出す口実を口にした。

「まだ……してなかったんだ?」

    心配そうに見つめる莉結の瞳が、衣瑠からその理由を話して欲しい、と言っているようだった。

「えっと……あれから帰ってすぐ寝ちゃってさ。ごめん、だから帰って支度……しなきゃ」

    帰る場所なんてもう無いのに私はまたそんな嘘をついた……いま母さんは何をしてるんだろう。まだ家に居るのかな……それとも……


「うん……わかった。気を付けて帰ってね」

「うん……それじゃ」

    そう言って部屋を出ようとした私の背中に莉結の声が響いた。どこか寂しそうな、でも優しい声が。

「衣瑠っ、何か困った事あったらいつでも相談乗るからね」

 私は"ありがと"と小さく呟くと、喉に詰まった"なにか"に息苦しさを覚えながらも部屋を出た。
 ……ドアを閉めたものの、一歩を踏み出せずに立ち尽くしていた私の脳裏に浮かんでいたのは、莉結にだけは本当の事を知ってもらいたい、という想いと、莉結にこれ以上心配をかけたくない、という想い……
 そして私は、小さな溜息と共にその二つの想いから一つの答えを出したのだった。

「莉結っ!」「瑠衣っ!」

    ほぼ同時に発せられた言葉が静けさに包まれた薄暗い空間に響いた。
 すると、私が手を掛けた扉がすぅっと開いた。

「あっ……びっくりした」

 目を見開いて驚いた莉結の表情は、すぐに柔らかなものへと変わり、二人の笑い声がその場に広がっていった。

「本当にあるんだな、こういうの」

「へへっ、びっくりしたよ本当」

    少しぎこちない雰囲気のまま莉結の部屋に戻ると、私達は隣り合ってベッドの横に腰を下ろした。そしてお互いに下を見つめたまま、私が口火を切る。

「莉結……ちょっと話しておきたい事あってさ」

「うん。私も聞きたい事ある」

「莉結の聞きたいことって今日何かあった? とかでしょ?」

「うん……だって瑠衣おかしかったし」

「ごめん。なんか私も混乱してたっていうか、自暴自棄みたいになっちゃってさ。私が話しておきたい事ってのもその事なんだけど……驚かないでよ?」

「瑠衣の身体に起こった事以上に驚く事なんて無いでしょっ」

「じゃぁ結論から言うけど……私ね、女だったんだ……」

    私は真面目にそう言ったのに、何故か莉結はお腹を抱えて笑い出した。そして莉結は目尻の涙を拭いながら言った。

「そんな事知ってるよ、頭打っちゃったの? 何日か前から女の子ですけどっ?」

「馬鹿っ……知ってるよそんなんっ! なんか拍子抜けさせられちゃったじゃん」

「じゃぁ何が言いたいんですか衣瑠ちゃんはっ」

 小馬鹿にしたような言い方にちょっとだけイラっとしたけど、私は真剣に、莉結の目を見てこう言った。

「……産まれた時は女だったって事」

    そう言った瞬間から莉結の柔らかな表情が強張っていく。そして見たことも無い様な真剣な面持ちで私の両肩を掴んだ莉結は、「えっ……ちょっと待って……? どういう事?」と私を見つめた。
 私はその手をそっと掴んで下へと下ろすと、今日の出来事を始めから話す事にした。

「莉結と別れて家に帰ったらリビングに母さんが居たんだ」

「お母さんが?」

「そう……それで何してるのかと思ったらさ、なんか焦って印鑑とか通帳とかバッグに詰め込んでる最中でさ……すぐに"あぁ、俺から逃げようとしてるんだ"って思った。それで案の定……母さんは何も言わず出て行こうとしたんだよ」

「それで……?」

「なんとか腕掴んで止めたんだけど、何故か泣いて謝られてさぁ、訳わかんないよね。こっちからすれば何に謝ってんの?    みたいな。私もそれ聞いて、なんか人生どうでもいいやみたいになっちゃって、本当に何も考えられなくなっちゃって……仕舞いには母さんも泣き崩れちゃってさ。暫く二人で座り込んでたんだけど……そしたら突然母さんが言ったんだ。"言わなくちゃいけない事がある"って」












☆"本日は性転ナリ"を読んでいただいて本当に有難うございます!!作者?なんていうと偉そうですが…ここは"作者の如月アルと申します!!"と言わせてください!(๑•ૅㅁ•๑)笑
本来こんな事書いていいのか分からないですが、閲覧数が少しでもあるという事はどなたかが見てくださったという事実なので、ここにお礼を言わせていただきたいと思います!!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
こんな仕上がりの"小説"(…と呼べるものではないですが)でもお気に入り登録してくださった方がいらっしゃり感謝感激雨嵐です!!笑
私は"コレ"で3つ目の作品なんですが、正直、他の2作品はよほどつまらなかったのか閲覧数も伸びず…更新ストップ状態ですΣ(・□・;)
あと、只今表紙の画像を描いています♪下手くそながら一生懸命描いてますのでまた完成次第UPします(๑•ૅㅁ•๑)

という事で、今までで1番閲覧数が多くなって、感激のあまりこのような行動に走ってしまった訳で…
要は"引き続きよろしくお願いします!!!"という事です♪笑笑

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