3次元嫌い・隠れヲタの俺の家に歌姫が転がり込んで来た件
13 なんでこいつも
家を追い出されて途方に暮れた俺は、とぼとぼとその辺を歩いた。
早希さんが落ち着くまで、どれくらい時間が必要だろう。とにかく、彼女が泣き止むまで俺は自分の部屋に帰ることができない。
浮気も何にもしてないのに、彼女を傷つけて泣かせてしまった。
早希さんを傷つけてしまったらしいことは分かったが、俺はそもそもオタクだから同人誌やフィギアにヤキモチを焼かれても困る。それとこれとは別腹だろ。早希さんは傷ついたと泣くけど、俺だって本当の自分を気持ち悪いとまで言われてショックだ。それにも増して、ミコの本とフィギュアを捨てられたことがショック過ぎる。
早希さんは俺のことを何にも理解していない。(隠してたんだから当たり前だが)俺の本質を理解もせず、好きだと言う、早希さんのその気持ちはありがたいけど、本物じゃない気がする。それに気づいてしまったことと、勝手にミコ本とフィギュアを捨てられた恨みで、早希さんに対する気持ちは一気に冷めてしまった。
だいたい勝手だ。そっちが好きだと言うから付き合ったのに、俺の本質を知ったら気持ち悪い浮気だなんだと泣くなんて。しかも、俺が土岐みくるを好きだと気持ちを勝手に決めつけて。
俺が土岐みくるをまだ好きだと決めつけて来るのは、オーナーも店長も一緒だ。みんな勝手すぎる。勝手に期待して、勝手に裏切られたと俺を責める。
だいたい、俺が土岐みくるを好きな訳ないだろ。
あんな裏切られ方して、まだ好きとか、どんなマゾだよ。
俺はまだ許してない。一生許す気もない。
俺はイライラしながら足の赴くままに歩き回り、気がついたら、店(バイト先)の方面まで歩いて来ていた。そうだ、とふと閃く。俺が土岐みくるを好きじゃないこと、むしろ嫌っていることを、土岐みくるに証言させられないだろうか?
皆はきっと、土岐みくるが消えたから、その存在を大きく感じているんだろう。実際に土岐みくるを目の前にして、あいつのヘラヘラした態度を見れば、リスカだなんだの不安も解消されて、俺があいつを傷つけただのと皆が俺を責めることもなくなるに違いない。
それに、俺が土岐みくるを好きじゃないことは、土岐みくる本人が一番よくわかってるだろうから、本人にそれを証言させれば、このくだらない誤解もとけるってもんだ。
早希さんの言ってたように、土岐みくるを探そう。
そして、あいつに誤解を解かせよう。
まずは聞き込みだな。店関連の人間とは音信不通のようだから、それを除いたあいつの知り合いと言えば、セフレだ! たしか、キャバクラにセフレのボーイがいたはずだ。そいつに聞けば、案外あっさり土岐みくるの居場所もわかるかもしれない。そうじゃなくても、元勤務先なんだから、みくると仲のよかったキャバ嬢の1人や2人いるかもしれない。
俺は、イライラとする足を、土岐みくるの元勤務先のキャバクラに向けた。
◇
オーナーに付き合ってキャバクラのハシゴなども経験済の俺だったが、みくるの元勤務先、キャバクラ「アフロディーテ」に来るのは初めてだった。
スマホで調べてなんとかたどり着いたそこには、綺麗に管理されたビルが建っていた。夜になればネオンが光る小さめの長方形の看板に、しっかりと「アフロディーテ」と書かれているのを確認して、ビルを見上げる。このビルの5階がキャバクラ「アフロディーテ」らしい。
歓楽街の端に位置しているため、昼間の光に照らされたビルは無機質で、看板がなければオフィスビルに見えなくもない。しかし、向かいには城のようなラブホテルが建っていた。
営業時間でもない雑居ビルの前に立ち尽くし、俺は途方に暮れていた。
どうしよう。
意気揚々とやって来たはいいが、その後の展開はノープランだった。頭に血が上り過ぎてたな。少し落ち着こう。俺はため息をついた。
場所はわかったんだ、どこかで時間をつぶして、営業が始まってから客として潜入すればいい。
俺はキョロキョロと辺りを見回した。近くには汚らしい定食屋しかない。大通りまで戻って、コーヒーショップでも探すか。
俺が思案していると、キャバクラが入っている雑居ビルから若い男が出て来た。茶髪でサングラスをしていて、気後れするほどのイケメンだった。
俺が思わず凝視してしまっていたら、そのイケメンもこちらを見てきた。そして、サングラスを外して、さらに不躾に俺をじろじろと見てくる。な、なんだよ。俺の顔になんかついてるのか!?
警戒していると、イケメンは白い歯を見せてにっこりと笑った。
「やあ、君、ゆう君じゃないか。こんなところで何してるの?」
「はあ!?」
「ああ、ごめんごめん。俺は池野。ここのキャバクラでボーイやってる。土岐みくるちゃんの悪友だよ。君のことはみくるちゃんから聞いてる。スマホで撮った寝顔の写真見せてもらってたから、君の顔がわかったんだ」
「はあ」
ボーイの池野で、みくるの知り合いって、つまりみくるのセフレか!
しかも、土岐みくるのやつ、俺の寝顔を勝手に撮って、その上他人に見せて回ってるとはどういうことだ。殺意が芽生える。
「ところで、一体何しにこんなとこへ?」
池野は首を傾げた。仕草のいちいちが鼻につく程のイケメンだった。こういう奴との会話は早く終わらせるに限る。俺は口を開いた。
「お前に聞きたいことがあって来た。単刀直入に聞く。土岐みくるの居場所を教えてくれ」
「みくるちゃんの? なんで? 俺より君の方が詳しいでしょ。君たち同棲してるんだろ?」
俺は驚いた。
「お前、土岐みくるから何も聞いてないのか!?」
「聞くって何を? みくるちゃんとは、彼女がキャバクラを辞めてから一切連絡をとってないけど」
本気で言ってるのか?
池野を凝視するが、均整のとれた顔に間抜けな表情を浮かべて俺をまっすぐに見つめてくる。瞬きが多くなったり、右斜め上を見るといったような嘘をついている兆候もなければ、愛想笑いで誤魔化そうという風でもない。
土岐みくるの居場所を知らない、あるいは知ってても俺に教える気がないのであれば、池野に用はない。
「そうか、じゃあな」
俺は躊躇せず踵を返した。
「ちょっと待った! なんだよ、気になるじゃないか。訳を教えてよ。みくるちゃんに何かあったの?」
肩を掴まれて、俺はげんなりする。仕方なく振り返った。ため息がこぼれる。
「土岐みくるが姿を消したんだよ。一ヶ月前くらいか、俺の家から出て行ったきり戻って来ない。土岐みくるに紹介したバイト先にも姿を現さなくなって、完全に行方知れずだ。LINEも電話も返って来ないしな。俺は訳あって土岐みくるを探してるんだが、手がかりがなくて。元勤務先へ来れば、何かわかるかと思ったんだが」
「みくるちゃんが消えた? なんで? 君にベタ惚れのみくるちゃんが、なんでわざわざ君の前からいなくなるのさ?」
問われて、俺は返事に困る。
ベタ惚れって……。なんでこいつも土岐みくるが俺のことを好きだと言い出すんだ?
「おまえ、池野って、土岐みくるのセフレなんじゃないのか? なんでお前まで、土岐みくるが俺のこと好きだとか言い出すんだよ」
「なんでって、だってあれだけノロケられれば、誰だってわかるよ。よっぽど鈍感な人でも分かるんじゃないかな」
何を言い出すんだ、とでも言いたげな顔で一蹴されて、俺は尚更イラつく。
「みくるちゃんも馬鹿だなー。本命にわざわざ俺のことなんてバラさなくて良いのに。言っとくけど、みくるちゃんとは、彼女が君と再会する前に一度しただけで、君と再会した後は何もないからね。毎日まっすぐ君の家に帰って来てたんだから、君もよく知ってると思うけどさ」
俺は黙る。どうやら、土岐みくるは俺の言いつけを守って、不純異性交遊を絶っていたらしい。だからなんだって言うんだ。
「そんなことより、俺は土岐みくるの居場所を探してるんだ。お前が連絡とってないって言うなら、他に土岐みくるが連絡とっていそうなキャバ嬢とか知らないか?」
俺が話を元に戻すと、池野は考えるように頭をかいた。
「いや……みくるちゃん、可愛いから客にモテ過ぎて、先輩のキャバ嬢の贔屓の客も根こそぎ奪っていくもんだから反感買っちゃって……。仲のいい女の子はいなかったと思うなあ。仲のいいお客ならいたかもしれないけど」
「そうか……」
ありそうなことだな。あいつの女ウケの悪さは筋金入りだ。
「女の子に頼んで、お客の中にみくるちゃんと連絡とってそうな人がいないか聞いてもらってみるよ」
「ああ、悪いな。頼む」
「でも、心配だな。レストランで働けるの、すごく嬉しそうにしてたのに」
「……」
俺は、池野と連絡先を交換して別れた。
◇
帰宅すると、部屋に早希さんの姿はもうなかった。
安堵した。女の子に泣かれるのは困る。早希さんは、よく泣く人だった。
俺たちの関係はどうなってしまったんだろう。別れたことになるのだろうか。判断できなかったが、わざわざ連絡をとって確かめる気にもなれない。
俺はやるせない気持ちでため息をついた。
早希さんに言われた通り、土岐みくるを探しに行ったが、意外なことに土岐みくるはセフレとの連絡も絶っていた。
だが、男とならすぐに仲良くなってしまうあいつのことだから、どうせ客の中に1人や2人贔屓がいるだろう。そこから伝っていけば、すぐに見つかる。
土岐みくるが見つかれば、早希さんに弁解させよう。そうすれば、俺が土岐みくるを好きでもなんでもないことを早希さんも分かってくれるかもしれない。
けど、果たして俺は、そこまでして早希さんと仲直りしたいんだろうか?
もはや仲直りになんて興味はないが、俺が悪いみたいな、こんな後味の悪い終わり方は気に食わない。
大音ミコの同人誌とフィギュアがなくなった今、早希さんへの気持ちも本当になくなってしまったようだった。
早希さんが落ち着くまで、どれくらい時間が必要だろう。とにかく、彼女が泣き止むまで俺は自分の部屋に帰ることができない。
浮気も何にもしてないのに、彼女を傷つけて泣かせてしまった。
早希さんを傷つけてしまったらしいことは分かったが、俺はそもそもオタクだから同人誌やフィギアにヤキモチを焼かれても困る。それとこれとは別腹だろ。早希さんは傷ついたと泣くけど、俺だって本当の自分を気持ち悪いとまで言われてショックだ。それにも増して、ミコの本とフィギュアを捨てられたことがショック過ぎる。
早希さんは俺のことを何にも理解していない。(隠してたんだから当たり前だが)俺の本質を理解もせず、好きだと言う、早希さんのその気持ちはありがたいけど、本物じゃない気がする。それに気づいてしまったことと、勝手にミコ本とフィギュアを捨てられた恨みで、早希さんに対する気持ちは一気に冷めてしまった。
だいたい勝手だ。そっちが好きだと言うから付き合ったのに、俺の本質を知ったら気持ち悪い浮気だなんだと泣くなんて。しかも、俺が土岐みくるを好きだと気持ちを勝手に決めつけて。
俺が土岐みくるをまだ好きだと決めつけて来るのは、オーナーも店長も一緒だ。みんな勝手すぎる。勝手に期待して、勝手に裏切られたと俺を責める。
だいたい、俺が土岐みくるを好きな訳ないだろ。
あんな裏切られ方して、まだ好きとか、どんなマゾだよ。
俺はまだ許してない。一生許す気もない。
俺はイライラしながら足の赴くままに歩き回り、気がついたら、店(バイト先)の方面まで歩いて来ていた。そうだ、とふと閃く。俺が土岐みくるを好きじゃないこと、むしろ嫌っていることを、土岐みくるに証言させられないだろうか?
皆はきっと、土岐みくるが消えたから、その存在を大きく感じているんだろう。実際に土岐みくるを目の前にして、あいつのヘラヘラした態度を見れば、リスカだなんだの不安も解消されて、俺があいつを傷つけただのと皆が俺を責めることもなくなるに違いない。
それに、俺が土岐みくるを好きじゃないことは、土岐みくる本人が一番よくわかってるだろうから、本人にそれを証言させれば、このくだらない誤解もとけるってもんだ。
早希さんの言ってたように、土岐みくるを探そう。
そして、あいつに誤解を解かせよう。
まずは聞き込みだな。店関連の人間とは音信不通のようだから、それを除いたあいつの知り合いと言えば、セフレだ! たしか、キャバクラにセフレのボーイがいたはずだ。そいつに聞けば、案外あっさり土岐みくるの居場所もわかるかもしれない。そうじゃなくても、元勤務先なんだから、みくると仲のよかったキャバ嬢の1人や2人いるかもしれない。
俺は、イライラとする足を、土岐みくるの元勤務先のキャバクラに向けた。
◇
オーナーに付き合ってキャバクラのハシゴなども経験済の俺だったが、みくるの元勤務先、キャバクラ「アフロディーテ」に来るのは初めてだった。
スマホで調べてなんとかたどり着いたそこには、綺麗に管理されたビルが建っていた。夜になればネオンが光る小さめの長方形の看板に、しっかりと「アフロディーテ」と書かれているのを確認して、ビルを見上げる。このビルの5階がキャバクラ「アフロディーテ」らしい。
歓楽街の端に位置しているため、昼間の光に照らされたビルは無機質で、看板がなければオフィスビルに見えなくもない。しかし、向かいには城のようなラブホテルが建っていた。
営業時間でもない雑居ビルの前に立ち尽くし、俺は途方に暮れていた。
どうしよう。
意気揚々とやって来たはいいが、その後の展開はノープランだった。頭に血が上り過ぎてたな。少し落ち着こう。俺はため息をついた。
場所はわかったんだ、どこかで時間をつぶして、営業が始まってから客として潜入すればいい。
俺はキョロキョロと辺りを見回した。近くには汚らしい定食屋しかない。大通りまで戻って、コーヒーショップでも探すか。
俺が思案していると、キャバクラが入っている雑居ビルから若い男が出て来た。茶髪でサングラスをしていて、気後れするほどのイケメンだった。
俺が思わず凝視してしまっていたら、そのイケメンもこちらを見てきた。そして、サングラスを外して、さらに不躾に俺をじろじろと見てくる。な、なんだよ。俺の顔になんかついてるのか!?
警戒していると、イケメンは白い歯を見せてにっこりと笑った。
「やあ、君、ゆう君じゃないか。こんなところで何してるの?」
「はあ!?」
「ああ、ごめんごめん。俺は池野。ここのキャバクラでボーイやってる。土岐みくるちゃんの悪友だよ。君のことはみくるちゃんから聞いてる。スマホで撮った寝顔の写真見せてもらってたから、君の顔がわかったんだ」
「はあ」
ボーイの池野で、みくるの知り合いって、つまりみくるのセフレか!
しかも、土岐みくるのやつ、俺の寝顔を勝手に撮って、その上他人に見せて回ってるとはどういうことだ。殺意が芽生える。
「ところで、一体何しにこんなとこへ?」
池野は首を傾げた。仕草のいちいちが鼻につく程のイケメンだった。こういう奴との会話は早く終わらせるに限る。俺は口を開いた。
「お前に聞きたいことがあって来た。単刀直入に聞く。土岐みくるの居場所を教えてくれ」
「みくるちゃんの? なんで? 俺より君の方が詳しいでしょ。君たち同棲してるんだろ?」
俺は驚いた。
「お前、土岐みくるから何も聞いてないのか!?」
「聞くって何を? みくるちゃんとは、彼女がキャバクラを辞めてから一切連絡をとってないけど」
本気で言ってるのか?
池野を凝視するが、均整のとれた顔に間抜けな表情を浮かべて俺をまっすぐに見つめてくる。瞬きが多くなったり、右斜め上を見るといったような嘘をついている兆候もなければ、愛想笑いで誤魔化そうという風でもない。
土岐みくるの居場所を知らない、あるいは知ってても俺に教える気がないのであれば、池野に用はない。
「そうか、じゃあな」
俺は躊躇せず踵を返した。
「ちょっと待った! なんだよ、気になるじゃないか。訳を教えてよ。みくるちゃんに何かあったの?」
肩を掴まれて、俺はげんなりする。仕方なく振り返った。ため息がこぼれる。
「土岐みくるが姿を消したんだよ。一ヶ月前くらいか、俺の家から出て行ったきり戻って来ない。土岐みくるに紹介したバイト先にも姿を現さなくなって、完全に行方知れずだ。LINEも電話も返って来ないしな。俺は訳あって土岐みくるを探してるんだが、手がかりがなくて。元勤務先へ来れば、何かわかるかと思ったんだが」
「みくるちゃんが消えた? なんで? 君にベタ惚れのみくるちゃんが、なんでわざわざ君の前からいなくなるのさ?」
問われて、俺は返事に困る。
ベタ惚れって……。なんでこいつも土岐みくるが俺のことを好きだと言い出すんだ?
「おまえ、池野って、土岐みくるのセフレなんじゃないのか? なんでお前まで、土岐みくるが俺のこと好きだとか言い出すんだよ」
「なんでって、だってあれだけノロケられれば、誰だってわかるよ。よっぽど鈍感な人でも分かるんじゃないかな」
何を言い出すんだ、とでも言いたげな顔で一蹴されて、俺は尚更イラつく。
「みくるちゃんも馬鹿だなー。本命にわざわざ俺のことなんてバラさなくて良いのに。言っとくけど、みくるちゃんとは、彼女が君と再会する前に一度しただけで、君と再会した後は何もないからね。毎日まっすぐ君の家に帰って来てたんだから、君もよく知ってると思うけどさ」
俺は黙る。どうやら、土岐みくるは俺の言いつけを守って、不純異性交遊を絶っていたらしい。だからなんだって言うんだ。
「そんなことより、俺は土岐みくるの居場所を探してるんだ。お前が連絡とってないって言うなら、他に土岐みくるが連絡とっていそうなキャバ嬢とか知らないか?」
俺が話を元に戻すと、池野は考えるように頭をかいた。
「いや……みくるちゃん、可愛いから客にモテ過ぎて、先輩のキャバ嬢の贔屓の客も根こそぎ奪っていくもんだから反感買っちゃって……。仲のいい女の子はいなかったと思うなあ。仲のいいお客ならいたかもしれないけど」
「そうか……」
ありそうなことだな。あいつの女ウケの悪さは筋金入りだ。
「女の子に頼んで、お客の中にみくるちゃんと連絡とってそうな人がいないか聞いてもらってみるよ」
「ああ、悪いな。頼む」
「でも、心配だな。レストランで働けるの、すごく嬉しそうにしてたのに」
「……」
俺は、池野と連絡先を交換して別れた。
◇
帰宅すると、部屋に早希さんの姿はもうなかった。
安堵した。女の子に泣かれるのは困る。早希さんは、よく泣く人だった。
俺たちの関係はどうなってしまったんだろう。別れたことになるのだろうか。判断できなかったが、わざわざ連絡をとって確かめる気にもなれない。
俺はやるせない気持ちでため息をついた。
早希さんに言われた通り、土岐みくるを探しに行ったが、意外なことに土岐みくるはセフレとの連絡も絶っていた。
だが、男とならすぐに仲良くなってしまうあいつのことだから、どうせ客の中に1人や2人贔屓がいるだろう。そこから伝っていけば、すぐに見つかる。
土岐みくるが見つかれば、早希さんに弁解させよう。そうすれば、俺が土岐みくるを好きでもなんでもないことを早希さんも分かってくれるかもしれない。
けど、果たして俺は、そこまでして早希さんと仲直りしたいんだろうか?
もはや仲直りになんて興味はないが、俺が悪いみたいな、こんな後味の悪い終わり方は気に食わない。
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