名無しの魔法使い
#2 森にて出会い
黒髪青目の少女、ナサリは同じく黒髪青目の青年を目前に固まりました。
「なんだお前、妹がいたのか」
猫っ毛の青年が事も無げな顔で尋ねましたが、
「いや、俺は一人っ子だよ」
「私もです」
兄妹ではありませんでした。
驚いた猫っ毛の青年は首を振って二人を交互に見比べました。
顔立ちは似ておらず身長にも差がある二人ですが色はまったく同じです。人間も魔法使いも様々な色を持つクロティカですが、黒髪と青目は珍しく、猫っ毛の青年は隣の男以外出会ったことがありませんでした。
猫っ毛の青年は一度腕を組んで頭を捻り、とりあえず、と言って片膝をついてナサリと目線を合わせました。焦げ茶色の瞳にナサリが映ります。
「俺はジェンだ」
優しい声色で名乗ったジェンは続けて尋ねます。
「お前の名前は?」
「え、と、ナサリです……」
ナサリがそう答えると厳しそうなジェンの釣り目は柔らかく細められ、
「いい名だ」
少しだけ口角を上げました。
「笑った……」
「? 笑ってない」
(ちょっと怖いけど、いい人、かな?)
不思議そうに首を傾げるジェンには無意識の微笑みだったのでしょう。それを見ていたもう一人の青年は、後ろで嬉しそうに笑っています。
「ジェンは子供に甘いもんな」
「はあ?」
「あの、そちらの方、」
ズドン! と大きな音とともに地面が揺れ、ナサリの言葉は遮られました。ジェンが立ち上がります。
ズドン! 一つ前の音よりも大きく森に鳴り響き、比例して地面の揺れも増します。
ズドン! どうやら音は近づいているようで、ナサリはジェンと青年の後ろをじっと見ました。
しかし視線の先には鬱蒼とした広葉樹しか見えません。
「な、なに……?」
「ああ、ナサリには見えないよね。おいで」
不安げなナサリに答えをくれたのはジェンではなくもう一人の青年でした。手招きした青年のそばに寄ったナサリは青年の大きな腕に抱きかかえられ、
「俺、ナサリと安全なとこまで逃げるから。あとよろしく!」
「はあ!?」
驚嘆の声を上げるジェンを残し、
「いざ行かん! 我らを見守る雲の隣へ!」
地から足を離しました。
突然の浮遊感と風圧を全身で感じたナサリは目をきつく閉じました。落ちないように腕は青年の肩へ回し、力を入れます。
え、と小さく驚嘆の声を上げた青年はナサリが震えているのに気づき、徐々に速度を落としました。
「ごめんな。目、もう開けて大丈夫だよ」
青年の言葉にナサリが閉じていた瞼をゆっくり上げれば、そこは地平線まで広がる森でした。街の屋根はおろか、王城の姿も見えません。空は薄紫が広がって、もうじき夜がくるでしょう。頭上で星が瞬いています。
ドスン! 木々よりも山よりも背の高いモノが、者が。雑草の上を歩くような軽々しさで木を踏み倒し、足を進ませ、通った後がくっきりと残っています。
「そらっ、まほっ、きょじ……っ!?」
慌てふためくナサリは腕にさらに力を入れ、青年の首を締めました。
「ぐぇっ」
「ご、ごめんなさい!」
青年の呻き声を聞いて腕の力を緩めたナサリでしたが、身体の震えは今も止まりません。
そりゃそうだ、と呟いた青年はナサリを抱え直して優しく笑いかけました。
「いや、こっちこそごめんな。空飛んだ方が見やすいかと思って」
(確かに、見やすい……)
空に浮かんだ今なら、木の高さを気にせずに音の正体、巨人を見ることができます。
高さおよそ10メートルほどの巨人は広葉樹の森を気にも留めず、まるで雑草の上を歩くように木々を踏み倒しています。その身体は焦げたように黒く、まるで土のような色をしています。
「……いや、土そのもの?」
「お、よく気づいたね。ありゃゴーレムだ」
でかいなー、と感心する青年をよそにナサリは絶句、頭の中はフル回転です。
(ゴーレム? ゴーレム!? ってことはあれ全部土なの!? 嘘でしょ!? あのサイズを作るのに一体どれだけの時間と土が……いやまず魔力がおかしい! こんなのが近くにいたの!?)
「ってジェンさん大丈夫ですか!?」
「ジェン? ああうん、大丈夫。なんとかするよ」
すると突然、ゴーレムの動きが止まりました。片足を上げていたその巨体は次第にバランスを失い、横に倒れます。
バタン! 木々はゴーレムの下敷きにされ、地面は今日一番の揺れが起きました。
「ほらね」
片目を瞑った青年はそのまま辺りを見渡し、ジェンを探しましたが、青年が見つけるよりも早くジェンの方から空へ上がり青年に並びました。
「あ、おかえり」
無傷で戻ったジェンを青年は笑顔で迎えます。そんな青年にジェンは眉間にしわを寄せました。
「おかえりじゃない。後で怒られるぞ」
「人命第一でしょ。ナサリ、大丈夫?」
青年はナサリに顔を向けました。反応はありません。
「ん?」
軽く揺すっても起きる気配は無く、青年とジェンは顔を見合わせました。
「……気絶してる?」
「……ぽいな」
二人の額に冷や汗が流れます。
「……とりあえず、持って帰ろっか」
「誘拐だ!」
黒く染まった空に星がぽつぽつと模様を浮かべる夜のことでした。
「なんだお前、妹がいたのか」
猫っ毛の青年が事も無げな顔で尋ねましたが、
「いや、俺は一人っ子だよ」
「私もです」
兄妹ではありませんでした。
驚いた猫っ毛の青年は首を振って二人を交互に見比べました。
顔立ちは似ておらず身長にも差がある二人ですが色はまったく同じです。人間も魔法使いも様々な色を持つクロティカですが、黒髪と青目は珍しく、猫っ毛の青年は隣の男以外出会ったことがありませんでした。
猫っ毛の青年は一度腕を組んで頭を捻り、とりあえず、と言って片膝をついてナサリと目線を合わせました。焦げ茶色の瞳にナサリが映ります。
「俺はジェンだ」
優しい声色で名乗ったジェンは続けて尋ねます。
「お前の名前は?」
「え、と、ナサリです……」
ナサリがそう答えると厳しそうなジェンの釣り目は柔らかく細められ、
「いい名だ」
少しだけ口角を上げました。
「笑った……」
「? 笑ってない」
(ちょっと怖いけど、いい人、かな?)
不思議そうに首を傾げるジェンには無意識の微笑みだったのでしょう。それを見ていたもう一人の青年は、後ろで嬉しそうに笑っています。
「ジェンは子供に甘いもんな」
「はあ?」
「あの、そちらの方、」
ズドン! と大きな音とともに地面が揺れ、ナサリの言葉は遮られました。ジェンが立ち上がります。
ズドン! 一つ前の音よりも大きく森に鳴り響き、比例して地面の揺れも増します。
ズドン! どうやら音は近づいているようで、ナサリはジェンと青年の後ろをじっと見ました。
しかし視線の先には鬱蒼とした広葉樹しか見えません。
「な、なに……?」
「ああ、ナサリには見えないよね。おいで」
不安げなナサリに答えをくれたのはジェンではなくもう一人の青年でした。手招きした青年のそばに寄ったナサリは青年の大きな腕に抱きかかえられ、
「俺、ナサリと安全なとこまで逃げるから。あとよろしく!」
「はあ!?」
驚嘆の声を上げるジェンを残し、
「いざ行かん! 我らを見守る雲の隣へ!」
地から足を離しました。
突然の浮遊感と風圧を全身で感じたナサリは目をきつく閉じました。落ちないように腕は青年の肩へ回し、力を入れます。
え、と小さく驚嘆の声を上げた青年はナサリが震えているのに気づき、徐々に速度を落としました。
「ごめんな。目、もう開けて大丈夫だよ」
青年の言葉にナサリが閉じていた瞼をゆっくり上げれば、そこは地平線まで広がる森でした。街の屋根はおろか、王城の姿も見えません。空は薄紫が広がって、もうじき夜がくるでしょう。頭上で星が瞬いています。
ドスン! 木々よりも山よりも背の高いモノが、者が。雑草の上を歩くような軽々しさで木を踏み倒し、足を進ませ、通った後がくっきりと残っています。
「そらっ、まほっ、きょじ……っ!?」
慌てふためくナサリは腕にさらに力を入れ、青年の首を締めました。
「ぐぇっ」
「ご、ごめんなさい!」
青年の呻き声を聞いて腕の力を緩めたナサリでしたが、身体の震えは今も止まりません。
そりゃそうだ、と呟いた青年はナサリを抱え直して優しく笑いかけました。
「いや、こっちこそごめんな。空飛んだ方が見やすいかと思って」
(確かに、見やすい……)
空に浮かんだ今なら、木の高さを気にせずに音の正体、巨人を見ることができます。
高さおよそ10メートルほどの巨人は広葉樹の森を気にも留めず、まるで雑草の上を歩くように木々を踏み倒しています。その身体は焦げたように黒く、まるで土のような色をしています。
「……いや、土そのもの?」
「お、よく気づいたね。ありゃゴーレムだ」
でかいなー、と感心する青年をよそにナサリは絶句、頭の中はフル回転です。
(ゴーレム? ゴーレム!? ってことはあれ全部土なの!? 嘘でしょ!? あのサイズを作るのに一体どれだけの時間と土が……いやまず魔力がおかしい! こんなのが近くにいたの!?)
「ってジェンさん大丈夫ですか!?」
「ジェン? ああうん、大丈夫。なんとかするよ」
すると突然、ゴーレムの動きが止まりました。片足を上げていたその巨体は次第にバランスを失い、横に倒れます。
バタン! 木々はゴーレムの下敷きにされ、地面は今日一番の揺れが起きました。
「ほらね」
片目を瞑った青年はそのまま辺りを見渡し、ジェンを探しましたが、青年が見つけるよりも早くジェンの方から空へ上がり青年に並びました。
「あ、おかえり」
無傷で戻ったジェンを青年は笑顔で迎えます。そんな青年にジェンは眉間にしわを寄せました。
「おかえりじゃない。後で怒られるぞ」
「人命第一でしょ。ナサリ、大丈夫?」
青年はナサリに顔を向けました。反応はありません。
「ん?」
軽く揺すっても起きる気配は無く、青年とジェンは顔を見合わせました。
「……気絶してる?」
「……ぽいな」
二人の額に冷や汗が流れます。
「……とりあえず、持って帰ろっか」
「誘拐だ!」
黒く染まった空に星がぽつぽつと模様を浮かべる夜のことでした。
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