今日も俺は採取系の依頼をこなす。

ノベルバユーザー69231

発見

一通り涙を流し感情を吐露した後は、目の前にたくさん生えている毒消し草の採取に集中した。どれだけ抜けばいいかわからなかったが、全部抜くのは悪いだろうと思って、半分くらい残しておく。





(これ位かな。)
そろそろ帰りの馬車の時間が来る頃だ。俺は抜き終わった毒消し草を収納袋アイテムポーチに入れて、十字路まで戻るために歩き出す。依頼を達成できたといってもはしゃぐ気持ちにはなれなかった。


十字路まで戻ると、行の時とは違った馬車が見えた。待ってくれていたらしいと感じて、俺は少し早めに歩いた。

「すみません。待ちましたか。」
「いいや。今来たところだよ。」
まるで恋人同士がデートの待ち合わせをしているみたいな会話を繰り広げる。相手は見た目30を過ぎたおっさんなので、不覚にも笑ってしまった。商人自ら馬車を下りて、辺りを見回していた。待っていないはずがない。いや、心配してくれたのか。

俺は頭を下げ、お礼を言ってから馬車に乗り込んだ。行きと同じで、護衛らしき冒険者に声を掛けられる。
”どうだった。”と聞かれた俺は”行って毟るだけの簡単な依頼ですよ”と嘘をついた。冒険者の先輩は”まあ、そんなもんか。”と笑いながら言葉を返す。その後も行きと同じように自分の武勇伝を語り始めた。流行っているのだろうか。

ちょうどいい感じで話が切れたので、俺は質問した。
「草原の反対側には、何があるんですか。」
「はぁ。反対側って言ったら・・・。」
先輩は俺の質問に驚いたような声を上げた。それから答えにくそうに口をもごもご動かしている。ある程度予想のついた質問だが、詳しく知りたい。

「えっと。道を間違えてしまって、反対側に行ってしまったんですよ。そしたら一面真っ暗にな・・・」
”真っ暗になって、びっくりした”と言おうとした。が、先輩がものすごい顔をしてこちらに迫ってくるので、気後れしてしまった。

先輩は俺の話を無理矢理止めてしまったのに気付いたかは知らないが、謝って俺に続きを促してくる。
「それで。」
「それでですね・・・。やばいと思って逃げてきました。」

俺は嘘には3種類あると思う。何かを隠す嘘と誰かをだます嘘と、そして誰かを気遣う嘘だ。今回は誰かをだます嘘なので、吐いていい嘘ではないが仕方がない。ちなみに”道を間違えて”は誰かを気遣う嘘だ。先輩は俺の話を聞くと、大きく息を吐き、威圧を消した。むしろこんな威圧の中で平然と嘘を付けた事をすごいと感じるくらいだ。

「ああ、あの森はな。闇の森とか言われる場所でとにかくやばい。一歩踏み出して帰ってこれた事を感謝した方がいいぜ。」
「そうですか・・・。はい、そうします。」
誰に感謝をすればいいのだろう。固有魔法エクストラを使った、俺自身にか・・・。俺が笑っているのを見て、冗談だと思われたととられたのだろうか。先輩は再び威圧をまき散らし、俺に詳しい説明をしてくれる。
「あの森はな・・・。奥にエリクサーと呼ばれる伝説の木の実が生えているらしいんだ。それを欲しがった魔人達が全力を尽くして挑んだが、全滅した場所だぜ。」
俺は”ええっ”と言って、驚いた。勘違いしているだろうが、魔人達が全滅した事にだ。先輩はなぜか調子に乗って話を続ける。


「あの森はな・・・。
・・・。」

その後帰りの馬車では、ずっと先輩の”あの森トーク”が炸裂した。途中から実体験を語りだしたのには、立場を忘れてツッコんでしまった。商人も馬を叩きながら、会話に混ざっていた。嘘んじゃないかと疑ったが、気持ちを楽にできた。街について、馬車を下りる。”楽しい話をありがとうございました。”と言って別れると、二人は笑っていた。落ち込んでいたのがばれていたのだろうか。そして、この世界にはいい人しかいないのだろうか。



依頼内容を報告すると少し騒ぎになった。どうやら、この依頼はたくさんの人が伝達ゲームをして出されたものらしい。別の街から来た商人がこの街の商人に伝え、この街の商人が、この街の薬屋に伝えて・・・最終的にケティさんに伝わったものらしい。その中で、”左右が逆”になったのだろう。ケティさんが代表して俺に謝ってきたが、気にしていないと伝えた。話を聞くうちに、F級冒険者のために、敢えて出されたのらしいし。無事だったんだし。依頼の報酬に加えて、銀貨を1枚もらえたのを感謝しているくらいだ。ちなみに銀貨をくれたのは、別の街から来た商人だ。本当に、この世界の住人はいい人ばかりだと思う。ケティさんも”道端”に生えていると勘違いしていただけだ。だからこそ野原と言いながら、伝わってきたイメージが”道端”だったのだろう。

ふと思いつき、壁に貼られた依頼を見る。”難易度Sランクエリクサーの実一粒金貨500枚”と書かれた依頼を見つけた。他に、高ランクにも”採取系の依頼”があることを確認した。



頭の中に衝撃が走る。



”これ、楽して稼げるんじゃね。”とここの中でつぶやく。高ランクの依頼を見て、にやにやしている低ランクの冒険者はさぞかし滑稽に見えるだろうが、気にしなかった。人は楽をしたいものだ。今までは仕方がないからやってきたのだ。レベルが上がらなくてもステータスが変わらなくてもいいじゃないか。楽できるなら。俺はもう剣を振らないと心の中で決めた。ハーレムには夢があるけれど、命の方が大切だし。

・・・
今日はもう遅いので宿に帰り、夕食をとって明日に備えるために寝た。楽しみでよく寝付けなかった。





朝早く起きて、冒険者ギルドの扉を開けた。俺はEランクの位置に貼られている依頼を1枚迷わずにつかんで、ケティさんの列に並ぶ。意外と空いていて、数分後には俺の番が来た。依頼を受諾すると、これからお世話になるだろう薬屋の元に向かった。今回受けた依頼も常設依頼だ。しかし、今回はギルドが運営している薬屋から出されている依頼だ。そもそもDランクを超えないと、普通の依頼はほとんどないらしい。薬屋に到着して軽い挨拶を交わしたら、すぐに出て行った。今回も馬車での移動になるので、確保する必要がある。


俺は商人達がたむろしている”馬車乗り場”到着すると偶然件の商人を発見した。俺の目的地が偶然にもおじさんの通り道だった。運賃を払い、乗せてもらう。今回は団体で行動するらしく俺が乗っている馬車には俺の他には、荷物しか乗っていなかった。今回はその方が楽だ。ご都合主義の展開に感謝しながら、空いているスペースに腰を下ろした。


馬車に揺られながら、考える。昨日の事件は言わば、”穴”だ。祝福ギフトに頼りすぎていたかもしれない。話し手が勘違いをしていれば、俺も勘違いしてしまう事が分かった。と言っても、どうする事もできないが・・・。


むしろ穴の存在はありがたい。ひょっとすると固有魔法エクストラにも穴があるかもしれない。色々試したいことがあるが、それは機会を見つけないとできない。今回はとりあえず採取系の依頼ならば、”楽”にこなせる事を確かめよう。昨日は逃げたと嘘をついたためなのかをはっきりさせたい。
そのために今回受けた依頼は麻痺消し草をとって来ることだ。途中で魔物が出てくる依頼なので、消せるかどうかを試す予定だ。

目的地に着いたので、おじさんにお礼を言ってから馬車を下りた。目の前にある森の中へ入ってく。すぐに魔物が姿を見せた。あくまでEランクの依頼なので、『鑑定』を使う余裕はあると思うが、めんどくさい。見つけ次第、詠唱する。”サーチアンドデストローイ”だ。今回は人を消すつもりはない。だから人がいれば、発動しないわけだがそっちの方が都合がいい。1発くらっても死なないだろうし、試したいことパート2ができる。ちなみに試したいことパート1は現在実行中だ。

8回くらい詠唱した所で、麻痺消し草を見つけた。どうやら今まで見過ごしていたようだ。そろそろだろうと思って『鑑定』を使ってみたが、森の入り口辺りから大量に見かけた草が麻痺消し草だった。収納袋アイテムポーチが一杯になるまで刈ってから森を抜けた。




帰りは歩きだ。今回は剣も持ってきていないために身軽だが、数時間の徒歩はさすがにしんどかった。
”もう1歩も歩けない。”とか愚痴りながら、街に到着して、薬屋に向かう。銅貨6枚をもらって、麻痺消し草を引き渡した。次に冒険者ギルドに行って、ケティさんに依頼達成を報告した。




今日はいい日だ。固有魔法エクストラの穴を発見する事ができた。”見られなければ”大丈夫らしい。つまり採取系の依頼ならば俺は無双できるという事だ。確かに魔物の死骸はいい値段で売れるが、生活していくうえでは問題ない。剣を買い替える必要もないし、服も血で汚れる事がない。高ランクになれば、採取だけでも十分に贅沢出来るお金を手に入れられる。けがや死ぬ心配もない。

最高だな。







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