神獣わーるど!

彼方餅

買い出し【葵・琥珀】

 ある昼下がりの商店街。今日という日が世間でいう週末なだけに買い物に来ている客は多そうだ。
 俺は正直なところ、人が多いところは好んではいない。なのに何故こんなところにいるか、答えは簡単だ。『買い物に行かなければいけない用事が出来てしまったから。』
 それはつい先程のこと、ペンを片手に紙面に向かっていたところ、悠里に話しかけられた。無視するのもあれだから適当に相槌をうっていたら突然怒り出して俺の手からペンを奪い取りそのまま膝で『バキィッ
!』と割って見せた。ペンの破片も垂れ流し状態のインクの液も放置して悠里はズンズンと去っていったのだ。
 そのことを思いだし、思わず溜め息を吐くと、視線をあげた先に見覚えのある姿が視界に飛び込んできた。
「琥珀……?何してるんだ、こんなところで」
 そこにいたのは虎ヶ屋琥珀だった。しかも、駄菓子屋等なら理解もできるが、八百屋の前にいたのだ。ぎょっとしてもおかしくはない。
「あ、葵! 悠里に買い出しに行けって言われてさー。俺画箱(がはこ)見てたのにー!」
「それは残念だったな。ところで、何を買いに来たんだ」
 どうせ琥珀のことだ。ニュースの占いでも見てたところを悠里に捕まったのだろう。結果、使いっ走りにされた、と。
「えっとね……りんご、ごま、酢味噌、バルサミコ酢、鶏肉、セロリ…だって」
「……いったい、何に使うんだ?というか、ナニを作る気だ……?」
「さあ、俺にもさっぱり。ただ男子禁制!とだけ言われたんだけど」
 ……悠里の『男子禁制!』で今までまともな結果になった覚えがない。
「それは、今回は吉と出たかもな」
「葵は何してんの?」
 琥珀はそういえば、という表情をして尋ねてきた。こいつは表情で語るから面白い。分かりやすいから嘘を吐いたときもすぐに分かるが。
「俺?買い出しだよ。ペンとインク。ペンは悠里に折られてインクが垂れ流しでな。拭いて今出てきたところだ。」
「悠里、ばいおれんす、だな…」
 顔をサァッと青ざめさせて後退り、プルプルと震える。確かに、少し強気なところがあるかもしれないな。
「俺の買うものは買ったからな。あとは何がある?付き合う」
「ごまと酢味噌とバルサミコ酢!どこにあんのか分かんなくてさ……」
 途中から泣きそうになり、ボソボソと呟く。
「……はあ、俺が見つけてなかったらどうなってたことやら。ほら、行くぞ。もう悠里の機嫌は損ねたくないだろ?」
「う、うん!あ、置いてくなって~!」
 結果、ごまも酢味噌もバルサミコ酢も買えた。そして、その日は腹も壊したのだった。

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