才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第四話

 ☆☆☆


「ふむ……このスーパー美人で、しかも人生の先輩としても頼りになりすぎてヤバイ私に、相談かい?」
「ちょっと真面目な話なので黙って貰ってていいですか?」

 昼休みになると、すっかり千石エリアに入り浸るようになった二階堂先輩が頭の悪いことを抜かしたので、オレはそれを一蹴した。

 そういえば、最近は一ヶ崎を見ていないなと思いつつ……まあ、どうでもいいかと記憶から抹消した。ちなみに、四葉は憧れの二階堂先輩と同じ空間に居たら緊張でどうのこうのと言って、二階堂先輩が来ている時には顔を出さないようにしている。

「最近、私が空気な気がするのだけれど……」
「ちょっと黙ってろ。それで、二階堂先輩いいですかね?」
「…………」

 オレは千石がどうでもいいことを言って来たので、率直に黙れと申し上げたところ、拗ねて本にめをおとしてしまった。後で、適当に飴玉でもあげて機嫌を取っておけば問題ないだろう。

 オレは続けて、二階堂先輩にお願いした。

「相談なんですけど……」

 オレはとりあえず、ついさっきの休み時間に三枝から聞いた話を、名前は出さず二階堂先輩に話した。二階堂先輩は、少し考え込むと肩を竦めて言った。

「ふむ……なぜ、それを私に?」
「別に特別な意味とか……そういうのじゃないですよ? 前に、『それくらいの行間は読める』って言ってたんで……人の感情とかそういうのに敏感なのこなって。そういう意味じゃ、人間関係の相談なら二階堂先輩かなと」
「あのぉー私もぼっちなのだが」
「知ってますが」

 なんならオレもぼっち……というか、オレの知り合いでぼっちじゃないのは一ヶ崎だけだ。だが、この場合一ヶ崎に相談するのは違う気がする。あいつは猫をかぶり、偽りの姿を晒して仲良しこよしを演じているに過ぎない。まあ、前のオレと一緒だ。

 今回のケース、三枝が普通にバスケが出来ればいいわけだし……仲直りまで行かなくとも、ある程度関係が修復すれば問題ないだろうと、オレは考えている。

 そのための二階堂先輩だ。

「で? どうですか? 何か妙案とか……」
「ふむ……仲直りまでしなくとも、普通にプレーできるようになればいいのだろう? 普通に仲直りした方が早いと思うが……ここは私を頼ってくれた少年のために考えるとしよう! ふむ……強いて言うなら、力を示すといったところか」
「力……?」
「そうだ。嫌いな相手でも実力を認めれば、ある程度態度も緩和するというもの……」

 なるほど……何となくライバルみたいな感じか。嫌いだけど、相手の実力だけは認めている……そういう風な状況を作ればいいわけだ。

 とはいえ、三枝は元々大型ルーキーだ。実力自体は示しているわけだし、もっとすごいと思わせる方法を考え出さなくてはいけないということなのだろう。

 オレは頭を掻き……ふと、千石が本から目を離してずっとオレを見ていることに気が付いた。

「なんだ?」
「いえ……あなたが、他人のために何かしようとしていることが信じられないと思ったのよ」
「別にいいだろ? 悪いことしてるわけじゃねぇし……」
「いい……? あなたにそんな余裕があるの?」

 ピリッと空気が張り詰めていくのが分かる。オレは眉根を顰め、怒れる獅子と睨み合った。

 千石揚羽が怒っている。

 可愛い嫉妬ならいざ知らず……これはそういう類いのものじゃないだろう。軽蔑の色が、僅かだが千石揚羽から感じ取れた。

「別に……人が困ってるのを助けてやることの何がいけないってんだ?」
「少なくとも、前のあなたならそんなことしなかったわ」
「いやいや、全然するんですけどー?」
「嘘ね。それはただの自己満足でしょう? 四葉さんの時もそうだったじゃない。勝手にやって自爆して、助けた気になって、結局無意味。あなたには、まだやらくてはいけないことがあるでしょう? 今日まで勝って、余裕が出来たとでも? あなたの最終目標が……この私だと、忘れたわけではないでしょうね?」
「っ……」

 オレは、その通りだと思い出す。

 オレは慈善家ではなく、偽善者だ。所詮、誰かを助けるのは打算であり、好意はない。そこに善意はない。あるのは打算と自己満足。

 オレと千石の関係は、元々オレが千石を超えることを約束した関係。オレの復讐劇は、二の次なのだ。

 千石は固まるオレを差し置いて立ち上がると、二階堂先輩の方を向いて一言放つ。

「いいでしょう……その件、私が任されましょう」
「む? どういうことだい?」
「私がその……実力を認めさせる役を担うということです。バスケ部……だったかしら? この件を千葉くん、その子に伝えてきなさい。……とね」


 ☆☆☆


 放課後、慌てて学校中を駆けずり回ったオレは、三枝を見つけると昼休みのことを話した。

「す、すまん……オレが余計な気を回したら変なことになった。今なら、断ってくれれば何とかなると思うんだが……」
「いえ! あの千石揚羽先輩と戦うチャンス……ここで逃すわけには行きません!」
「お、おう……」

 という風に、物凄い勢いで迫られたオレはなし崩し的に千石VS三枝というマッチングを完成させるに至った。

 翌日にはこのことが校内に知れ渡り、オレと五門の時みたいな感じでポスターが作られていた。で、何故か主催者みたいに書かれていたので、風紀委員と人からの目が痛い……おい、誰だこのポスター書いた奴。あとで机の中にゴミを入れてやる!

「ふむ。なんだか、すごいことになってしまったな……」
「本当に……」

 放課後の帰り道、オレと二階堂先輩は並んで歩いている。

 千石が怒って、千石エリアは現在立ち入り禁止。そのため、千石エリアに寄ることもなく下校しようとしたら、相変わらず玄関で倒れていた二階堂先輩がいたのでパンを与えて現在に至る。

「第三者から見れば、まるで男の取り合いに見えなくもないな」
「やめてください。男冥利には尽きますが……オレは燃え尽きたくないっす」
「はっはっはっ! 童貞のままじゃ燃え尽ききれんだろうな!」
「張っ倒すぞ……」
「押し倒す?」
「言ってねぇよ!」

 しかし、割と似たような感じがするのも否めない……。二階堂先輩はポヨリン☆と、胸を弾ませながら何か考えるように人差し指を顎に当てる。

「揚羽くん、相当怒っていたようだが……君と揚羽くんはそもそもどういった関係なのだい? 前々から気になっていたのだ」
「か、関係って言われても……利害関係ってのが、一番しっくり来ますかね」
「利害……」

 そう。そうだ。

 オレがあいつを超えるために、あいつはオレに何でもする。元々は、そういう約束だった。けれど、近頃は他人がどうのと言い訳し……オレはダラけていたように思う。

 たった二回……されど二回、オレは頑張った。頑張って、中間テストで一位をとり、サッカー勝負で勝利した。まだ頑張らなくちゃいけないのは分かっているが、何となく身が入らない。

 それを愚痴のように、二階堂先輩に零すと……二階堂先輩はポツリと呟く。

「バーンアウト……燃え尽き症候群だな」
「え?」
「平たく言うと、頑張った分やる気が喪失してしまう精神的な病さ。病と言っても重いものではないが……君は二度、勝利のために人の限界を超えて頑張った。そのツケが回ってきたのだろうね」
「オレ、どうしたらいいと思います……?」
「モチベーションを上げる他ないだろう……ふむ、次の休みで良ければ、私が小説を書く時に行うモチベーションを上げる方法を伝授するが?」

 オレはバッと腰を折ってお願いした。

「お願いしまーす!」
「ふふん? よろしい! では、デートプランはこの私が考えておこう」

 こうしてオレと二階堂先輩は、二回目のデートを約束したのだった。日にちとしては、今週の日曜日。土日でここ最近溜まっていたアニメを消化し、ゲームをしようと思っていたのに……仕方ない、土曜日に消化できるだけしておくか。

 あれ? オレ、土曜日に何か予定があったような……気のせいか。




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