才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……
第二話
☆☆☆
勝負は一週間後。その内容は、サッカー……フリーキック方式で最初に五点先取した方が勝ちというルールである。そのことが決まってから一日しか経っていないのにも関わらず、翌日にはすっかりクラス中が知っていた。
色彩高校一の美少女――千石揚羽を賭けた二人の男による仁義なき闘いというフレーズでポスターなんかも作られていた。新聞部は熱意があるようで結構だが、オレがいないぞー?ポスターの一面例の男子生徒というのは如何なものか。
男子生徒の名前は五門足弥というらしい。五門は【サッカー】の才能を持つ我が校サッカー部のエースストライカーだという。学年はオレと同じ二学年であり、千石が好きでオレを目の敵にしているようだ。
これ勝てねぇだろ……。
エース?あーん?無理無理。やっぱり、千石さんには是非彼の物になって頂くしかないよね。なんて考えていたのだが、千石から『ルアイン』のメッセージで放課後に校庭に集合というお達しがあった。
特訓する気満々じゃないですかぁ……ヤダァ。
はぁ……ただでさえ今のオレには考えなくてはならないことが多いというのに面倒なことを引き受けてくれたよ本当に。
今のオレがすべきことは最優先に五門に勝つための策を考えること。
次に今日も懲りずに声を掛けてきた四葉の対処である。話しかけるなと言ったのに……無視したがあの目はまだ諦めた様子はない。ギャルギャルグループもゲラゲラ男子も、四葉のやつをジッと見ていたからそろそろ何かアクションがありそうな気配がした。
で、最後に未だオレを尾行(?)している一ヶ崎だ。別に放っておいてもいいのだが、毎日毎日ウロチョロされるのも困る。近頃は、オレが四葉に関する虐めの火消しをするために投稿時間が早いから朝は尾行していないが……相変わらず休み時間や放課後はオレの後ろにいる。
いや、もう本当にどうしてストーカーにジョブチェンジしたのだろうか。
「面倒くせぇなぁ……」
「ど、どうかしたの……?」
お昼休み。オレは千石エリアへ足を運んでいるのだが、やはりというべきかしつこいくらいにオレに構ってくる四葉が隣にいた。ちなみに、後ろの物陰にはじっとオレを見ている一ヶ崎がいる。
下駄箱まで来て、オレは頭を掻いた。
「なあ?オレ、お前に話しかけるなって言ったよな?」
「え?……う、うん」
「じゃあ、なんで話しかけてくるんだ?同情してるんなら……やめろ。オレは誰かに同情なんかされたくねぇ」
無論、四葉が同情した風でオレに構っているのではないくらいは分かった。しかし、どうせ似たようなもんだろうとオレは思う。
そうして流れる沈黙の中……四葉は相変わらずオドオドした様子で口を開いた。
「同情……じゃないよ?アタシは、千葉くんのこと尊敬してるの」
「は?尊敬……?」
は?どういうことだ?
「千葉くんの才能は【器用貧乏】で……な、なのに千葉くんは中間テストであの……あ、あの千石さんに並ぶ一位で……その……すごく恰好良かったの……」
「いや、あれは別に尊敬されるようなことじゃねぇよ。オレだけの力をじゃないしな」
そうだ。アレは千石揚羽が居て成し得た一つの成功である。結局、オレはオレの力で連中を見返すことはできていない。気分が良かったのは認めるけれど……。
そう伝えても四葉は止まらなかった。
「でも……千葉くんはアタシみたいな人からしたらね?あ、憧れの存在なの……。アタシにある才能は……【剣道】の才能って判定されたんだけど、アタシはその……争いごととか誰かと競ったりするの苦手だから……本当はアタシ、二階堂先輩みたいな小説家になりたいの!」
あぁ……あの日本屈指の小説家の二階堂文か。なんか久々にその名前を聞いた気がするが……今はどうていいな!
それよりもそうか……オレの行いでそういう生徒が出てきたということなのだろう。現代の才能社会では、機械で判定された才能の道に進むのが当然とされている。それが成功する道だし、多くの人間はそうする。だが、中にはそうじゃない人もいるのだ。
オレや千石のように……自分の才能を嫌い別の道を進みたがる人間。現代では爪弾き者として扱われるような人間だ。
生まれ持った才能と、自分が夢に描く未来は全く別なものなのだ。才能と夢は必ずしもイコールではない。
だからなのか……オレという存在が突如としてスーパーイケメン的にかっこよく登場してしまったことで、こういう奴らに活力みたいなものを与えてしまったようだ。
…………。
「お前の気持ちは分かった。けど、やっぱりオレには話しかけるな。迷惑なんだ……じゃあな」
「あっ……ち、千葉くん……」
オレは引き止めようと伸びてきた手を無視し、四葉の方を振り返ることなく歩いていく。オレに善性なんてない。オレはどこまで行っても打算的で、誰かのためだと言いながら、その実自分のために自己を犠牲にする偽善者だ。それでいいと思っているし、これからもそうあろうとするだろう。
だからオレはこれからも打算で動く。四葉刀華のためではなく、オレはオレがオレであるために動く。そう心に誓いつつ、オレは千石エリアに向かった。
☆☆☆
「放課後から早速特訓よ!」
「…………何やってんだ?」
千石エリアに着くや否や、サッカーのユニフォームに髪バンダナをしている見るからに撫子な千石が、サッカーボールの上に片足乗せて立っていた。
めっちゃやる気やないですかぁ……ヤダァ。
「ふふ……これもまたいい機会でしょう?」
「何がだ」
「考えれば分かることよ。五門くんはサッカー部のエースストライカー……けれど、私の調べによれば持ち前の才能に頼りきった独り善がりなプレイが目立つ自己中心的なプレイヤーであるそうよ。練習も碌に参加せず、エースという座に胡座をかいて座る腐った人間よ」
「ほう」
「才能に胡座をかく不届き者を打倒する……なんて想像するだけで気持ちいいとは思わないのかしら?」
なるほど……想像してみたがそれは大変気持ちよさそうだ。
「まあそこまで言うなら……」
勉強以外で連中をギャフンと言わせるいい機会だろう。とはいえ、時間にして一週間もないくらいだ。スポーツセンスなんてものは、その期間で埋まるものでもないだろう。だが、そこら辺は千石にも考えがあるらしい。
「彼は才能だけでエースになっていて練習はしていないわ。そんな彼だからこそ……彼にはスタミナがないわ」
あぁ、そういうことか。
今回の五点先取制のルールは、先行が先に五点目を入れてしまっては後攻が不利だ。そのため、後攻は先行が五点目を入れても攻撃できる。そして、そこで点を決めたらサドンデス……どちらかが点を決められなかった時点で試合終了だ。つまり、オレに千石は五門と持久戦をさせようとしているのだ。
「だから、あなたはこれから攻撃と防御をそれぞれ7:3くらいの割合で練習するわ。攻撃は壁当て、防御では私のシュートを受けてもらうわ」
完璧超人のシュートを受ける?えぇー?もう受けるって言っちゃってるんだよなぁ……オレに当てる気満々過ぎて泣ける。
どうせ拒否権もないし、千石の案に乗るのが一番効率的だと判断したオレは肩を竦めた。
「よし……んじゃま、また頑張るかね……」
「ええ、頑張りなさい。私のためにね」
誰がお前のために頑張るかよ!オレはオレのために頑張る。
千石はボールをヒョイっとオレに投げる。オレはそれをキャッチした。どうやらこれからの一週間、オレと共にあるボールらしい。
「プレゼントよ」
いらねぇ……。
ボールは友達なんて言葉があるが、一人ぼっちのオレには相応しい言葉なのかもしれないな……。
オレはそんなことを……渡されたボールを苦笑しながら見つめて思った。
勝負は一週間後。その内容は、サッカー……フリーキック方式で最初に五点先取した方が勝ちというルールである。そのことが決まってから一日しか経っていないのにも関わらず、翌日にはすっかりクラス中が知っていた。
色彩高校一の美少女――千石揚羽を賭けた二人の男による仁義なき闘いというフレーズでポスターなんかも作られていた。新聞部は熱意があるようで結構だが、オレがいないぞー?ポスターの一面例の男子生徒というのは如何なものか。
男子生徒の名前は五門足弥というらしい。五門は【サッカー】の才能を持つ我が校サッカー部のエースストライカーだという。学年はオレと同じ二学年であり、千石が好きでオレを目の敵にしているようだ。
これ勝てねぇだろ……。
エース?あーん?無理無理。やっぱり、千石さんには是非彼の物になって頂くしかないよね。なんて考えていたのだが、千石から『ルアイン』のメッセージで放課後に校庭に集合というお達しがあった。
特訓する気満々じゃないですかぁ……ヤダァ。
はぁ……ただでさえ今のオレには考えなくてはならないことが多いというのに面倒なことを引き受けてくれたよ本当に。
今のオレがすべきことは最優先に五門に勝つための策を考えること。
次に今日も懲りずに声を掛けてきた四葉の対処である。話しかけるなと言ったのに……無視したがあの目はまだ諦めた様子はない。ギャルギャルグループもゲラゲラ男子も、四葉のやつをジッと見ていたからそろそろ何かアクションがありそうな気配がした。
で、最後に未だオレを尾行(?)している一ヶ崎だ。別に放っておいてもいいのだが、毎日毎日ウロチョロされるのも困る。近頃は、オレが四葉に関する虐めの火消しをするために投稿時間が早いから朝は尾行していないが……相変わらず休み時間や放課後はオレの後ろにいる。
いや、もう本当にどうしてストーカーにジョブチェンジしたのだろうか。
「面倒くせぇなぁ……」
「ど、どうかしたの……?」
お昼休み。オレは千石エリアへ足を運んでいるのだが、やはりというべきかしつこいくらいにオレに構ってくる四葉が隣にいた。ちなみに、後ろの物陰にはじっとオレを見ている一ヶ崎がいる。
下駄箱まで来て、オレは頭を掻いた。
「なあ?オレ、お前に話しかけるなって言ったよな?」
「え?……う、うん」
「じゃあ、なんで話しかけてくるんだ?同情してるんなら……やめろ。オレは誰かに同情なんかされたくねぇ」
無論、四葉が同情した風でオレに構っているのではないくらいは分かった。しかし、どうせ似たようなもんだろうとオレは思う。
そうして流れる沈黙の中……四葉は相変わらずオドオドした様子で口を開いた。
「同情……じゃないよ?アタシは、千葉くんのこと尊敬してるの」
「は?尊敬……?」
は?どういうことだ?
「千葉くんの才能は【器用貧乏】で……な、なのに千葉くんは中間テストであの……あ、あの千石さんに並ぶ一位で……その……すごく恰好良かったの……」
「いや、あれは別に尊敬されるようなことじゃねぇよ。オレだけの力をじゃないしな」
そうだ。アレは千石揚羽が居て成し得た一つの成功である。結局、オレはオレの力で連中を見返すことはできていない。気分が良かったのは認めるけれど……。
そう伝えても四葉は止まらなかった。
「でも……千葉くんはアタシみたいな人からしたらね?あ、憧れの存在なの……。アタシにある才能は……【剣道】の才能って判定されたんだけど、アタシはその……争いごととか誰かと競ったりするの苦手だから……本当はアタシ、二階堂先輩みたいな小説家になりたいの!」
あぁ……あの日本屈指の小説家の二階堂文か。なんか久々にその名前を聞いた気がするが……今はどうていいな!
それよりもそうか……オレの行いでそういう生徒が出てきたということなのだろう。現代の才能社会では、機械で判定された才能の道に進むのが当然とされている。それが成功する道だし、多くの人間はそうする。だが、中にはそうじゃない人もいるのだ。
オレや千石のように……自分の才能を嫌い別の道を進みたがる人間。現代では爪弾き者として扱われるような人間だ。
生まれ持った才能と、自分が夢に描く未来は全く別なものなのだ。才能と夢は必ずしもイコールではない。
だからなのか……オレという存在が突如としてスーパーイケメン的にかっこよく登場してしまったことで、こういう奴らに活力みたいなものを与えてしまったようだ。
…………。
「お前の気持ちは分かった。けど、やっぱりオレには話しかけるな。迷惑なんだ……じゃあな」
「あっ……ち、千葉くん……」
オレは引き止めようと伸びてきた手を無視し、四葉の方を振り返ることなく歩いていく。オレに善性なんてない。オレはどこまで行っても打算的で、誰かのためだと言いながら、その実自分のために自己を犠牲にする偽善者だ。それでいいと思っているし、これからもそうあろうとするだろう。
だからオレはこれからも打算で動く。四葉刀華のためではなく、オレはオレがオレであるために動く。そう心に誓いつつ、オレは千石エリアに向かった。
☆☆☆
「放課後から早速特訓よ!」
「…………何やってんだ?」
千石エリアに着くや否や、サッカーのユニフォームに髪バンダナをしている見るからに撫子な千石が、サッカーボールの上に片足乗せて立っていた。
めっちゃやる気やないですかぁ……ヤダァ。
「ふふ……これもまたいい機会でしょう?」
「何がだ」
「考えれば分かることよ。五門くんはサッカー部のエースストライカー……けれど、私の調べによれば持ち前の才能に頼りきった独り善がりなプレイが目立つ自己中心的なプレイヤーであるそうよ。練習も碌に参加せず、エースという座に胡座をかいて座る腐った人間よ」
「ほう」
「才能に胡座をかく不届き者を打倒する……なんて想像するだけで気持ちいいとは思わないのかしら?」
なるほど……想像してみたがそれは大変気持ちよさそうだ。
「まあそこまで言うなら……」
勉強以外で連中をギャフンと言わせるいい機会だろう。とはいえ、時間にして一週間もないくらいだ。スポーツセンスなんてものは、その期間で埋まるものでもないだろう。だが、そこら辺は千石にも考えがあるらしい。
「彼は才能だけでエースになっていて練習はしていないわ。そんな彼だからこそ……彼にはスタミナがないわ」
あぁ、そういうことか。
今回の五点先取制のルールは、先行が先に五点目を入れてしまっては後攻が不利だ。そのため、後攻は先行が五点目を入れても攻撃できる。そして、そこで点を決めたらサドンデス……どちらかが点を決められなかった時点で試合終了だ。つまり、オレに千石は五門と持久戦をさせようとしているのだ。
「だから、あなたはこれから攻撃と防御をそれぞれ7:3くらいの割合で練習するわ。攻撃は壁当て、防御では私のシュートを受けてもらうわ」
完璧超人のシュートを受ける?えぇー?もう受けるって言っちゃってるんだよなぁ……オレに当てる気満々過ぎて泣ける。
どうせ拒否権もないし、千石の案に乗るのが一番効率的だと判断したオレは肩を竦めた。
「よし……んじゃま、また頑張るかね……」
「ええ、頑張りなさい。私のためにね」
誰がお前のために頑張るかよ!オレはオレのために頑張る。
千石はボールをヒョイっとオレに投げる。オレはそれをキャッチした。どうやらこれからの一週間、オレと共にあるボールらしい。
「プレゼントよ」
いらねぇ……。
ボールは友達なんて言葉があるが、一人ぼっちのオレには相応しい言葉なのかもしれないな……。
オレはそんなことを……渡されたボールを苦笑しながら見つめて思った。
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