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才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第一話

 ☆☆☆


「…………」

 オレは無言で学校に向かって歩を進める。一ヶ崎色葉は相変わらずオレの後をウロチョロ付いてきており、すっかりお馬鹿ストーカー美少女――色葉ちゃんとなつていた。

 チラッと振り返ると、ササッと隠れるが隠れられていない。他にいた登校中の生徒は一ヶ崎を見て驚いている。

 アホだ。

 まあ、声を掛けてもよく分からなかった訳だし金輪際オレから話しかけることはないだろう。時間を無駄に費やすわけには行かないのだ。テスト終わったから暇なんですけどね……。

 とはいえ、勉強がすっかり習慣になったオレは予習とまでは行かずとも復習だけは毎日していた。偶にダラけてやらないこともあるが、やはりもっと苦しい思いもした経験からか三十分くらいの簡単な復習なら苦じゃなくなってしまった。というか勉強しないと妙に落ち着かなくなっていた。人間の身体ってすごい……というか怖い。

 教室に着いたオレは毎度毎度変わらない罵詈雑言が書かれた机と面向かい、いい加減逆に愛着が湧いてきた机ちゃんと今日も一日頑張ろうと思った時である。

「…………お、おは……よう」
「……?え?あ、あ??」

 はて?今のは誰に向けた言葉なのだろうと辺りを見回すが……朝の挨拶をしてきたクラスメイト女子生徒はオレの方を不安げにじっと見ていた。

 え?オレ?

 他にも既に教室にいたクラスメイト達は、オレに挨拶するような物好きがいるとは思わなかったのか驚愕の表情を浮かべていた。

 オレは思わず反射的に口にする。

「お、おはよ……?」
「……っ!……うん」

 女子生徒は嬉しそうに自分の席へ向かい、鞄を置いていた。暫し、クラス内に沈黙が走るが次第にヒソヒソと先程の女の子についての話題が耳に聞こえた。

 えっと……彼女の名前はなんだったか。クラスではあまり目立たず、一人でいることが多い子だ。悪くいえば陰キャラであり、三つ編みお下げの眼鏡っ娘である。地味な見た目故に、我がクラスのギャルギャルしてるグループから小馬鹿にされて嘲笑されている子だ。

 目下ギャルグループの攻撃対象はオレであるが故に、彼女への被害はあまりなかったはずだが……もしや、彼女は馬鹿なのだろうか。こんな状況でオレに声を掛ければ……オレに向けられた虐めの一部が彼女に向けられてしまう。

「…………」

 しかし、それはオレに関係があることでもないだろう。勝手に声を掛けてきたのは彼女の方だ。このままオレに同情なんてせず、虐めを見て見ぬ振りをしていてもオレは気にしなかった。それが当然の集団心理だし、オラの自業自得というのも理解している。

 …………。

 オレは『ルアイン』を開いてお気に入り欄にあった千石揚羽の名前を選択してメッセージを送った。


 ☆☆☆


 案の定、翌日から彼女も虐めの対象となっていた。机にはオレのところと同じインクで様々な酷い言葉が書かれていた。

 ブスとか死ねとか……何ともまあ幼稚なことが書かれている。他に書くことはないのだろうか?頭悪すぎでござるwww

 現在時刻はまだ他の生徒が来ていない七時である。大体、八時過ぎにチラホラと人が集まってくるので、その一時間前ともなると全く人がいない。居たとしても部活連中が朝練をしている時間であるため、教室にはいない。

 オレは昨日、オレが朝に連絡して直ぐ放課後までに千石揚羽に作らせた物を己の鞄から取り出した。取り出したのは千石お手製のインク消しである。さすが完璧超人……消えないインクを消すのもお手の物である。

 千石はオレが使うものだと思っているようで憐れみの表情でオレを見ていたが、オレはあれを消すことはない。あれはあれで愛着がある。あ、Mじゃないんですよ?

 オレは雑巾にインク消しの液体を含ませてキュキュッと女子生徒の机を綺麗にしておいた。そういえば、彼女の名前は何かなと教卓にある名簿を見てみると――四葉よつば刀華とうかとあった。

 お、オドオドとした雰囲気の割にカッコいい名前してるな……。オラは苦笑しつつ親御さんの顔を思い浮かべた。自分のところの大事な一人娘が虐めなんか受けてたら……嫌だよな。

 オレはただ一人の教室でそんなことをポツリと考えた。


 ☆☆☆


 それからというもの……四葉は懲りずにオレへ声を掛けてきた。朝の挨拶から始まり、お昼や放課後帰る時……四葉刀華はオレに声を掛けてきた。同情とかそういうものではなく、ただひたすらにオレに声を掛けていた。

 なぜ彼女はオレに声を掛けてくるのだろうか。オレのことが好きなのか?おやおや?まあ、オレってほら……すごく普通の顔してるもんな!

 おや?目から汗が……。

「ち、千葉くん……お昼一緒に食べない……?」
「ん?」

 お昼休み。四葉はそう言ってオレを誘う。その瞬間に、ギャルギャルグループの皆さんが忌々しそうな顔で四葉を睨んだ。

「ヒューヒュー!陰キャラ同士で連んでやんの〜。お似合いじゃねぇか!ギャハハ」

 アハハハハッ!

 ゲラゲラ男子は再びオレを突くことができるネタを手に入れたからか、気分良さげに大笑いしていた。それに釣られて他のクラスメイト達も嘲笑を浮かべている。

 四葉は俯き、悲しそうな表情でオレに申し訳なさそうな目を向けてきた。そういう目を向けられても今更なんですが……。

「はぁ……ちょっとこい」
「……え?あ、あの……」

 オレは有無を言わせず自分の昼飯を持って、空いている方の手で四葉の手を握り教室に出る。その際にギャルギャルグループとゲラゲラ男子の笑い声が聞こえたが無視だ。

 オレは暫く歩き続け、人気のないところまで来ると立ち止まって振り返る。四葉はどこか困惑したままオレを見つめており、オレはそんな四葉の手を離して問い掛けた。

「お前、なんのつもりなんだ?」
「……?」

 いやいや、不思議そうに首を傾げられても……。

「だから……オレに声かけたらこうなるって分かってただろ?」
「……うん」
「う、うんって……お前なぁ。じゃあ、なんでこんなことしてんだよ!訳わからんぞお前」
「…………うん。アタシもよく分からない……かな。でも、千葉くんとお話ししたいと思ったから……」
「お話しってなぁ……」

 馬鹿なのか。

 本人に訊いてもよく分からない場合、基本的に追及したところで解決は出来ない。それは一ヶ崎色葉の尾行の件で分かっていることだ。聞いても分からないことは分からない……特に人の感情という麺は分からない。

「…………分かった。だけど、もうオレに話かけるなよ。迷惑だ」

 オレは少し怒気を孕ませた声音で四葉を睨みながら言った。オドオドしている四葉ならこれでもう大人しくなるだろうと考えていたのだが、四葉はどこ吹く風だった。

 考えれば直ぐに分かることだった。四葉刀華はオラがクラスどころか学校から虐められている状況にも怖気付くことなく声を掛けてくるくらいには肝が座った女子生徒だった。ちょっと睨まれたりした程度では――折れない。

 …………。

 オレは四葉を置いて少し遅れつつも千石エリアへと着き、先にオレを待っていた千石と昼食を済ませる。それから、千石が淹れたコーヒー(激甘)を飲みながら頭を掻いた。すると、千石は訝しげな目でオレに問いた。

「……?あら、何か悩み事でも?」
「は?なんだ急に?」
「あなたは自分で気付いていないでしょうけれど、考え事をしている時の癖があるわよ」
「え、マジで?」
「マジよ。気持ち悪いわ」
「口癖のように言うのやめてもらっていいっすかね!?」

 いやいや本当に精神的苦痛がキツイ。マジで。

 千石はファサッと肩から胸の方に垂らしていた一本に結わえた長い髪を払って背中へ垂らすと、下らなそうな表情で肩を竦めた。

「まあ、あなた程度の悩みは私に理解できることではないでしょうけど……」
「そっすね」
「私、可愛いものね」
「付け上がりまくってやがりますねぇ〜」

 思わず手が出かかったぞ☆

 まあ、手を出したら問答無用に千石の足が飛んでくるのでやらないけど。あれ?千石に喧嘩で勝てる気がしないんですけど……ヤダァ。

 というか、可愛いのと理解できないのとじゃ話が噛み合わないんだよなぁ……。

「分かってる。お前が可愛いのはよ〜く理解してるからよ。ちょっと黙ろうぜ」
「あら、ありがとう。でも、あなたに言われても嫌悪感しか湧かないからやめてちょうだい。あと気持ち悪いわ」
「張っ倒すぞ」

 オレは意趣返しのつもりに千石が好物としているうす塩のポテトを掻っ攫うように食うと……千石は絶望した眼差しをオレに向けてきた。

「あ、あなた……なんてことを」
「え、そんなに落ち込むことか?」

 千石は力なくソファにへたり込み……目を見開いて呆然としていた。どんだけ好きなんだよ。というか、全部食べてないんですけど……。

 え?なになに?もしかしてオレの手が触れた食べ物は食べられないとか?あーん?死んじゃっおかなぁ……。

 そう思ったが千石はヒョイッとポテトを口にすると、もうオレに食べさせまいと細い腕で守るようにポテトに覆い被さった。

 ガキがいるぞここに……明らか精神年齢高校生以下なんですけど。ポテトの一枚や二枚くらいいいじゃないかと思う。それを言うと、千石は憤慨した。

「全部、
「へいへい」

 まるで大きな子供である。プクッと頬を膨らませる千石は、普段の冷ややかな目で他者を見る千石とは思えない。なるほど、まんま猫被ってたというわけだ。

 そうしてオレと千石はお昼休みが終わるまでコーヒーを飲み、お菓子を食べる。どう考えても素行不良な所業なのだが……さすがは千石揚羽だなと思いつつ、オレは予鈴を聞いて千石と一緒に教室棟へ戻るために千石エリア出た。

 すると、その直ぐ目の前にオレと千石が一緒に出てきたところを見て絶望した表情を浮かべる男子生徒がいた。

 あれ?こいつ……前に千石に告白してこっ酷く振られてた奴か……。

 千石を尻目に見ると、千石はうへぇっという顔をしていた。アポなしらしい。

「せ、千石さん……そ、その二股ヤリチンクソ野郎ともしかして……つ、付き合ってるんですか?」
「だったら何かしら?あなたに関係があるのかしら?」

 おい待て。まず最初に否定しようぜ!

「付き合ってないぞ」
「あなたは黙りなさい」
「あ、はい」

 どうして巻き込まれているのに怒られたんでしょうか。もう行っていいかな?いい?あ、ダメ?

「千石さん……そんな奴よりも僕の方がいいに決まってるよ!だって……そいつはどうせ千石さんの身体が目当てなんだ!だってだって二股ヤリチンクソ野郎だから……どうせそうなんだ!」

 どうも二股ヤリチンクソ野郎です。長いんですよねこれ。略して二股野郎でいいじゃないですか。ちょっとオレの肩書き減った感じたがしていいし……。

 よくねぇな。

「はぁ……毎度懲りないわね。いくら来ようともあなたのような人とは付き合わないわ」
「っ!なら、なんでそいつと一緒にいるのさ!」
「少なくともあなたよりはマシだからよ」
「なっ……ぼ、僕がこの男よりも劣っているって言うんですか!?」
「ええ」

 あ、そうなんですか?見た目、僕よりもイケメンですけどね。顔で負けてると全部負けてる気しかしないのは僕の気のせいですかね?気のせいですかね?

 千石の冷ややかな瞳と、男子生徒の悔しそうな表情……あ、オレを見るなよ……オレは関係ないぞ!

「なら……僕がこの男よりも優れていると証明できればいいですよね?」
「そうね」
「…………分かりました。おい、二股ヤリチンクソ野郎。僕と決闘だ!」
「断る」

 なんか話の流れからしてそうなると思ったオレは即答した。なぜオレがそんな無益なことをしなくてはならないのだろう。

 男子生徒はワナワナと口を震わせて怒鳴り散らす。

「うるさい!お前は僕と戦え!千石揚羽さんを賭けて僕と勝負だ!」

 なんか勝手に景品にされてますよ?千石さんや。

 そう思って千石を見ると、千石は全てオレに一任しだかのように目を瞑っていた。それなら、オレはオレで手を講じることにする。

「どうぞどうぞ。千石さんを貰ってください」
「え?」
「え?」

 ここまで言われても勝負に乗らないのが意外なのか、男子生徒も千石も素っ頓狂な声を上げてオレを唖然と見ていた。

 勝負するわけねぇだろ。

「ほらほら、可愛い可愛い千石さんをプレゼントしますよー」
「え?」
「イラっ」

 ドスッと隣に立っていた千石に脇腹を肘でど突かれた。悶絶して蹲ったオレの代わりに千石が前に出ると、男子生徒にこう言った。

「その勝負……受けて立つわ」
「……か、勝手に受けんな……」

 しかし、オレの抗議も虚しく……男子生徒との勝負が強行されることになってしまった。

 死ね。



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