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才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第ニ話

 時は流れて放課後……さてさて、やって参りましたと、オレはハイテンションでスキップを――なんなら鼻歌も交えて校門前まで向かう。

 テレテレと浮かれながら校門に向かって歩いていた折にふと、何やらオレの前を歩いている生徒たちが何かを避けるように歩いているのに気が付き……前を注視してみると、ちょうど下駄箱がある玄関の前で生き倒れている女子を発見してしまった。

 見なかったことにしよう。

 オレには色葉ちゃんという天使との約束があるんだ!

 オレは華麗にそれを避けるために倒れている女子を他生徒に習って迂回して、玄関口から外へ出ようと――したところで、ガッシリとその女に足首を掴まれた。

「いっ ︎ な、なにしやがっ…………」

 あぶねっ。人目がつく場所で素面が出てくるところだった。

 オレは平静を装いながら、オレの足を掴んで離さない瀕死の女子に向けて言った。

「離してください……」
「それは紳士的とは言えないな、少年」

 抗議を申し立てたところ、女子からそんな言葉が返ってきた。どうやら抗議しても認められないらしい。紳士的って何なのだろう……と、オレの中に七三分けして、紳士服なんか来た自分が脳裏に思い浮かぶ。

 ダサっ☆

 オレは面倒くせぇなぁと思いながら頭を掻いて口を開く。

「何してるですか……二階堂にかいどうふみ先輩」

 オレが彼女の名前を呼ぶと……二階堂文は、三学年を証明する青いネクタイを見せつけるように、うつ伏せで倒れていた状態から仰向けにシフトした。

 その際に、ポヨリン☆っと二階堂先輩の胸が弾んだ。そう弾んだのだ! なんて弾力だ……奴は化物か ︎

 てか、ポヨリン☆ってなんだよ……。

 弾んだり揺れたりする度に星振り舞いてるんだろうか。

「いやぁ少年。私はこの通りさ」
「どの通りなんですかね」
「あの通り」

 センセー、二階堂さんとオハナシが通じません。

 オレは苦いものを食べた顔で、綺麗な顔立ちをしている二階堂文を見下ろした。

 二階堂文……色彩高校三年で【物書き】の才能を持つ美少女だ。そう――二階堂文は可愛い。長い髪を一纏めのお下げに結わえ、前髪には猫マークのヘアピンがとめられていた。比較的に長身で、170cm後半あるオレよりも少しばかり低い程度だ。

 二階堂文は、現役高校生にして日本屈指の小説家だ。彼女はデビュー作で堂々のベスセラーを飾り、しかもこのルックスにより……一躍有名人となった人物である。まあ、所謂天才ってヤツで……顔の良さもそうだが、一ヶ崎色葉とは別の意味で学校にその名が知れ渡っている。

「さあ、修太郎くん。私にパンを恵んではくれまいかい?」
「持ってないです」
「恵んではくれまいかい?」

 センセー! 二階堂さんに話が通じないんですけどー ︎

 二階堂文は変人だ。変人にして天才小説家――二階堂文。多くの頭お花畑野郎共からは、ミステリアスだとかクールだとか、見た目で判断されては高く持ち上げられているが……彼女をよく知る人間は一言……彼女を変人と呼ぶ。

 ちなみに、オレはこの二階堂文と知り合いだ。出会いは、一ヶ崎色葉と似たようにあわよくば美少女とお近づきになってやるぜと、意気込んだ一年生の頃……今のように生き倒れていた二階堂先輩にパンを恵んだ結果、以来パンをせがんでくるようになった。

 この野郎……せがめばパンを恵んでやると勘違いしてねぇだろうな?

 ここは一言ガツンと、迷惑ですと言ってやろう。今のオレには色葉ちゃんという天使がいるのだ。もはや、二階堂先輩に媚び媚びする時代は終わった!

 だから媚び媚びするってなんだよ……。

 と、オレが口を開きかけたところでそれを遮るように、二階堂先輩の方が先に口を開いた。

「頼む……後生だ! なんなら、私のおっぱいを揉んでもいい!」

 はっ! 全人類――引いては男がそんな誘惑に負けるとでも……、

「で? なに食べます? カレーパン? チョココロネ? メロンパンですか?」
「全部だ」
「畏まりました」

 え? なになに? ガツンって言うんじゃなかったのかって?

 ははは。

 おっぱいに抗える聖人君子みたい男がいたら、そいつはホモだ。オレはホモじゃなく、おっぱいが大好きなおっぱい星人だ。あの双丘に顔を埋め、一生枕に出来るなら何でもやってやる所存である。

 オレはスマホちゃんを取り出し、『ルアイン』から色葉ちゃんの名前を開き、メッセージを送る。

『緊急事態発生。少し遅れます』

 こんな感じでいいやと送信した瞬間に、『ルアイン』に既読が付いた。そして、返信も直ぐにされ、ピコンっと色葉ちゃんからメッセージが返ってくる。

『了解であります!』

 あらやだなーに? この子……とってもノリがいいじゃない……ちょっと好きになっちゃうかもしれないわ〜。

 オレはスマホちゃんをしまい、さっさと購買でパンを見繕って買い、改めて下駄箱まで戻ってくると、さすがにもう仰向けにはなっていない二階堂先輩が、オレを待ち侘びていたかのように、玄関口に背を預けて立っていた。

 オレを見るなり二階堂先輩は、優しい笑みをうっすら浮かべた。

「あぁ……あぁ! ありがとう! 少年には、毎度のことながら感謝しても仕切れん!」

 じゃあ、おっぱいを触らせて下さい。おっぱいを。感謝とかいらないんです。あなたの取り柄は!そのおっぱいだ!(確信)

 残念ながら、色葉ちゃんにそれはないのです。だから、色葉ちゃんの足りない部分は、あなたに補ってもらうしかありませんねぇ……ぐへへ。

「何かお礼をしなければな……この後、時間はあるかね?」
「へ?」

 いや、それよりおっぱ…………え? この後?

 どういう意味だと思考を巡らせたオレは……もしやデートのお誘いか? という答えに辿り着いた。

 え? マジで? いつフラグ立ったんだ? なに……もしかして、二階堂先輩って餌付けしとけば勝手に懐くチョロインなの? チョロチョロなの?(意味深)

 オレがうんうん唸っているからか、二階堂先輩は煮えを切らしたのか、不満げにこう言った。

「むぅ……つ、つまり私とデートしてしないかというかとなのだが……? 言わせるな馬鹿者!」

 なんか理不尽に怒られたんですけどーヤダァ。

 えっと……いや、しかしまさかだけどけれどもぉ……あの二階堂先輩からのお誘い、かなり行きたいが、非常に残念ながら本日は先客がある。

「すみません……今日はこの後用事がありまして……」
「む? そうか……ならば、明日はどうだろう少年。いつも、パンを恵んでもらっているのは申し訳ない……だから、是非お礼させて欲しいのだが……ダメか?」

 はい、出ました。美少女必殺の上目遣い攻撃。ははーん? 童貞のオレには効果抜群ですわ〜。が、そうやって上目遣いでお願いすれば何でもお願いが通ると思うなよ!

「喜んで」

 …………おかしいな。まあ、断る理由ないんだが、自動的に頷いちゃったよ。なに? 魔法でも使ってんの?

 よく分からないが……しかし、二階堂先輩の好感度を上げておくのも悪くない。変人だが顔が良ければ全て良し。色葉ちゃんが大本命だが、あわよくば二階堂先輩ともイチャコラしたい。美人だし。

 え? 最低? おいおい……男性諸君よ。じゃあ、君らは美少女とのハーレムを一度も想像したことがないというのかい?

 オレはしょっちゅう。

 …………いや、よか考えたら最低じゃねぇか。

「では、また明日!」
「はい。また……明日」

 そう言って手を振る二階堂先輩の後ろ姿を見ながら、オレは今度こそ校門前に待つ色葉ちゃんのところへ向かった。


 ☆☆☆


「ねえねえ? さっき、綺麗な女の人と一緒に玄関前で話してなかった?」

 校門で合流し、色彩高校の敷地内にあるデパートまで来ていたオレと色葉ちゃん。そんな折に、色葉ちゃんはオレに向かってそんなことを訊いてきた。

 もしかして、見ていたのか?

 ま、まあ……あの人は良くも悪くも目立つからなぁ。しかし、ここで正直に頷いて色葉ちゃんとの好感度を下げることは避けたい。が、丸っ切り嘘をついて後でバレるのもよくない……ここは、嘘を織り交ぜつつ答えるべきだな。

「うん。なんだか困ってたみたいだから……ちょっとね。でも、全然知らない人だったし特に仲が良いわけじゃないかな?」

 うっそピョーン! 明日デートに誘われる程度には仲がいいですね! 好感度も上がりまくりでオレのテンションも上がりまくり!

 色葉ちゃんは、「そっか!」といつものことながらパァっと明るい笑顔振りまきながら、嬉しそうにしていた。これはやはり、オレに気があるのでは ︎

 いや待て、早まるな……そうやって撃沈した男子連中が何人いたか思い出せ!

 おっと、オレ高校まで友達殆どいなかったんだった。おや? 目から汗が……。

「あれ?どうして泣いてるのー?
「いや……ちょっとね。それで、どこに行くのかな?」

 オレは色葉ちゃんに誘われて、こうして放課後にデパートへやって来ている。色彩高校のデパートにはカフェや洋服店、アクセサリーショップ等、大抵のものが揃えてある。

 色葉ちゃんは、暫く考え込む仕草をとってから、どこかの喫茶店で話そうということになった。ここでオレも、色葉ちゃんは何かオレに話したいこと……相談事があるようだと判断した。

 はて……初対面の男子に相談事というのもおかしいような?

 そうしてテレテレと喫茶店に入り、オレはホットコーヒーを頼み、色葉ちゃんはオレンジジュースを注文していた。

 ヤダァ……色葉ちゃんにオレンジジュースとか超似合うぅ。

 暫くして店員が注文した飲み物を持ってきた。色葉ちゃんはどこからどう見てもブラックコーヒーであるオレの注文を見て、オレンジジュースを飲みながら憧れの眼差しを向けてきた。

「すごーい! ブラックで飲めるなんてシュウくん大人ですなぁ〜」
「え?」

 オレはなにを言ってるんだと色葉ちゃんに目を向け、テーブルに備え付けられていたスティックシュガーとミルクを手に取り……ドバドバとブラックコーヒーにブッ込んだ。

「うわぁ……ブラックじゃないんだ」
「うん。僕、ブラックダメなんだ」

 オレは苦いのが嫌いだ。オレの人生が苦いからな……って、やかましいわ!

 そもそも、ブラック飲めるオレカッコイイアピールとか、甘いの嫌いなオレ大人アピールとか高校一年の時にやった……オレには無理だ無理して嫌いなものを飲むとか無理ゲー。やっぱり、コーヒーも何でも甘いものが正義。可愛いは正義と同じ定義である。

 そこは色葉ちゃんも同様なようで、今度は仲間を見る目でオレを見た。

「たはは〜ブラックって苦いもんね。そういうの飲んでる人見ると、大人だなーって思うんだけど……うちはちょっとムリかなぁ」
「そうだね。僕もちょっと……ね。ブラックの何がいいんだろうね」
「ね!」

 そもそも、オレは「苦」という字面そのものが嫌いだ。もっと楽して生きたい。将来、ヒモになれるなら何だってしてやる所存である(二回目)

 色葉ちゃんとオレは、およそ数十分ほど当たり障りのない会話を楽しんだ後……会話が途切れた辺りで色葉ちゃんがタイミング見計らい、意を決したように口を開いた。

「……あ、あのね? 実は……その…………シュウくんに折り入ってお願いがあるの!」
「お願い……ね。何かな?」

 オレが笑顔で訊ねると、色葉ちゃんはモジモジしながら呟くように答えた。

「うちがイラスト描いてるのは……知ってるかな?」
「うん。もちろん……」

 むしろ、知らない奴の方が少ないはずだ。

「今じゃ色んな作品に引っ張りだこな人気イラストレーター……一ヶ崎色葉。もちろん、知ってるよ。僕、色葉ちゃんのイラストが好きなんだ」

 あんまり見た事ないけどね!

 しかし、嘘ではない。実際、一ヶ崎色葉の描くイラストは目を見張るものがある。自然と目が引き寄せられる独創的で、流連なタッチのイラスト……可愛いキャラクター達が今にも動き出すような躍動感あるイラスト……それが彼女の描く絵、デジタルに特化したイラストレーター色葉ちゃんだ。

「えへへ〜ありがとう! 嬉しいなぁ……うちの絵、好きって言ってもらえてすっごく嬉しい!」
「そっか……それなら僕は何度でも言うよ。で……お願いってそれに関係することかな?」

 うーむ……ぶっちゃけ色葉ちゃんのイラスト関係でオレがお願いされることってなんだ? イラスト関係でお手伝いとかだったら、足を引っ張る気しかしないんだが……。

 色葉ちゃんは意を決したように、頬を赤く染めながらこう言った。

「そ、その……次の作品で実はね? 男の人の……は、裸を描かなくちゃいけないんだけど……」

 ………………。

「それで、ネットとかで調べて描いたりしたんだけど上手くいかなくて……うちのお願いはね? つまりね? 裸のシュウくんを触らせて欲しいっていうのと、写真で撮らせて欲しいってお願いなの!」

 な、なんだそのお願い……。

 そんなもんボディビルダーにでもお願いすればいいし、なんなら他に仲のいい男でもよかったのではないだろうか。なぜ今日知り合ったばかりのオレに……とか、色々考えは巡ったがこれは好機!

 ははは。

 断る理由がありませぬなぁ……向こうから来てくれるなら、オレはいつでもウェルカム! 全然そんなお願い聞きまーす! むしろ、役得だ……。

 オレは色葉ちゃんのお願いを二つ返事で了承した。

「ホントに ︎ あ、ありがとう!」
「いやいや、このくらい全然……」
「やっぱりあの話ってホントだったんだね!」
「……ん?」

 オレは笑顔で喜ぶ色葉ちゃんに、笑顔を向けながら、何やら聞き捨てならない言葉を拾って思考を巡らせる。

 あの……話?

「わーい! わーい!」
「…………」

 そのことについて訊ねようにも訊ねられず……オレは黙って色葉ちゃんを眺めて、その可愛さにホッコリしていた。お馬鹿だけど、可愛ければ全て良しだな!

 しかし、あの話ってなんなんだろうか……。


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