才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第一話

 近頃、寮の方にまで虐めが侵食して来ている。玄関に備え付けられているポストにゴミが投函されるようになった。オレはそれをちゃんと分別して自分の部屋にあるゴミ箱に捨てて置く。

 止まらないんですけどゴミの虐め。

 まあ、この程度の幼稚な虐めならオレは問題ない。猫被る必要もなくなった今、素面でいられるオレの精神力を舐めないで欲しい。仮にも一年間猫を被り続けて、嫌な顔を一つせずに他人のお願い事を聞いてきたオレだ。今更挫けるほど、柔な鍛え方はしていない。

 はぁ……と、どこからともなく溜息が漏れていく。そうは言っても……やはり、堪える。具体的に言えば、オレがあれだけ身を削って他人のために働いていたことが全て水の泡となったのだ。

 自業自得もあるし、猫を被ってたのも一種の裏切り行為だと言われてしまうとぐーの音も出ない。しかし、猫被ってたとはいえオレがあいつらにしてやってきたことが消えるわけじゃない。

 一人でも……オレに手を差し伸べてくれるやつがいるかもしれないなんて、淡い期待だった。今じゃ、学年問わずオレは笑われ者。オレを見る目は男女共に敵意で溢れている。

 それは良い子面していた教師陣も同様だ。所詮、オレは誰にとっても便利な道具。道具のオレが窮地に立たされたところで、それを助ける酔狂な持ち主はいないということだ。

 都合が悪くなれば切り捨てる……簡単な世の中の方程式である。

 その日もオレは学校に行くために制服を身に纏い、教科書で重くなった鞄を持って寮を出る。堂々と……オレはオレであるために、全ての嘲笑を受けながら自分の教室のまで行く。

 教室へ着くと談笑していたクラスメイト達がオレを一暼して黙り、クスクスと笑った。チラッとオレの机を見やると、案の定オレの机に毎度の如く罵詈雑言の落書きがされていた。

 どこの天才が作ったが知らないが、消えないインクで書かれており、しかもあるスプレーを掛けると見えなくできるため授業中に教師へ虐めがバレることはない。

 いやいや、さすが天才犇めく色彩高校……無駄なことところで才能を使う。

 オレは嘆息しながらも……罵詈雑言の机を見下ろし、オレを指差して大笑いする男子生徒がいたのでオレはそいつのところまですたすたと歩いて行く。

「な、なんだよ……や、やんのか!?」

 男子生徒はオレがキレて当然のように殴りかかってるくるのを知っているため、目の前まで来られるさすがに怯えていた。

 チキンが……。

 オレはそいつの机を掻っ攫い自分の机と交換した。

「ちょっ……!な、なにすんだよ!このっ」
「…………ふんっ」

 オレは憤慨して殴り掛かってきた男子生徒の拳をヒョイっと避けて、その腕を掴み上げて背後に回り、関節技を決めて鼻で笑った。

「いでででっ!」

 男子生徒は痛みで悶えていた。オレはそれで拘束を解いて、男子生徒を突き飛ばす。

 恨めしそうに肩を抑えながらオレを見る男子生徒だが、今度は襲い掛かってくるような真似はしない。なぜなら、こいつではオレに勝てないからだ。仮にも【器用貧乏】という才能を持っているオレは、大抵のことを人並み・・・とはいえこなすことが出来る。つまり、喧嘩のど素人にオレが負けるわけがないということだ。

 けっ!一昨日来やがれ!バーカ!バーカ!!

 フンスーっとオレはクラスメイト達に睨みを利かせて交換した机に頬杖をついて座った。そうやって幅を利かせ、オレは虐めと徹底抗戦の意を示す。

 オレが虐めに屈するような安い男だと思うなよ?オレは弱い者虐めを決して許さないスーパーヒーローだぜ?

 そんなことを内心で考えながら、オレの目の前に何やら大きな陰が差したなと不思議に思って顔を上げると……目の前にラグビー部のクラスメイトが鬼の形相で立っており、その隣にはオレがさっき懲らしめたいじめっ子がそいつに告げ口していた。

 こんの金魚の糞がぁぁぁぁぁ!!

「お前……こいつに手ぇあげたんだってな?覚悟できてんだろうなぁ!?」
「いっ!?」

 ラグビー部の腕力で胸倉を掴み上げられたオレは簡単に浮かび、そしてオレはそいつの腹パンをモロに受けて悶絶する。

「ぐっ!?」

 床に蹲り、痛みに喘いでいるオレにそいつは容赦なく肋骨が折れない程度にいい加減にオレが痛い蹴りを腹部にかましてきた。

「……がっ!?」

 腹パンと蹴り上げの二重苦……痛みで薄れる意識の中でラグビー部の金魚の糞となったあのクソったれ野郎がゲラゲラとオレを指差して笑っている姿が見えた。

 なんとかそいつに意趣返しをしようにも、オレはこのラグビー部の男子生徒には勝てない。体格差が違う。鍛え方が違う……勝てない。

 あぁ……くっそ……。

 クラスメイトの嘲笑が聞こえる。笑われている。惨めに蹲るオレを嗤っている。笑う。嗤う。嘲笑う。

 惨めだ。今のオレは……惨めだ。



 ☆☆☆



 その後も、様々な虐めにあったオレだが……本日も何とか生還し、無事に(?)放課後を迎えることに成功した。

 しかし、身体は疲労困憊だ。帰路に立つオレの足取りは覚束ないものでヨロヨロと下駄箱でローファーに履き替える。案の定、画鋲が備え付けられていたのでいつも通り適当な奴にプレゼントしておいた。

 フラフラとそのまま玄関口を出て校門の前までやってきたオレのところに……突然、 パイを持った集団が現れた。迂回しようとしても、ササッとオレの前に移動してくる。

 見ると、多くが女子生徒で構成されており……その中にはオレのクラスメイトもいた。たしか、料理研究部だったか……。

 そんなことを場違いながらも考えたオレは、果たして何の用だとそいつらに問いかけようとした時だ。そいつらは一列になって、真ん中の生徒が何やら掛け声をした。他の生徒はその掛け声に合わせ……、

「「せーの!」」

 と叫んで手に持っていたパイをオレに投げ飛ばしてきた。あまりにも突然のことで避けられず、見事オレの顔面や制服にビチャとパイが直撃……真っ白になった。

 どうも、サンタクロースです。なんちって……。

 オレが呆然としている間に、やり返されないうちに料理研究部と思われる面々は颯爽と消え去り……周りにはオレを笑う生徒が集まっているのみ。

 オレはただただ、この壮絶な虐めの意味を考えていた。料理研究部の奴らに、オレが恨まれる筋合いがない。あいつらのクソ不味い研究成果を、美味しい美味しいと言って食ってやったのだ。なぜオレはパイを投げられたのか……もはや、訳が分からない。

「…………」

 オレはサンタクロースにな姿のまま、道行く生徒たちに爆笑されながら寮まで帰った。寮に着いた際に、寮母さんに、「どうしたの!?」と問いかけられたがオレは、「サンタクロースです」とだけ答えてさっさと部屋に戻った。

 明日、着ていく制服がない……洗って落ちればいいんだなぁ……。え?精神的ダメージ?めっちゃあるに決まってんだろ……だが、ここで折れるわけには行かない。オレは理不尽になんか絶対に負けない。いつか、学校の奴らを……オレを都合の良い道具だと思ってる奴らを見返してやりたい。

 何をすればいいのか思いつかないが……いつか必ずオレは、オレをバカにする奴らを見返してみせる。

 そう心の中で誓い、オレは風呂場で制服を洗うのだった。


 ☆☆☆


 目まぐるしく虐めがエスカレートとしていく中、オレも懲りずに目には目を歯には歯をの精神で虐めと戦っている。そうして激戦の中でやってきたお昼休み……残念ながら、お昼休みも油断ならない。どここら消しゴムのカスが飛んでくるか分からないのだ。

 オレにとって教室とは、戦場である。って、なんかカッコいいな!

 未だ余裕綽々であるオレは、昼飯を食べようと……。

「2年2組……千葉修太郎くんはいるかしら」

 凛とした透き通るような声が、我がクラスに響き渡った。思わずオレの手も止まり……というか、オレをご指名のようなので今度は一体どんな虐めだと思いながら教室の出入り口へ目を向けると……そこには驚きの人物がいた。

 クラス連中も、まさかその人物がオレを何の理由か知らないが呼びに来るとは思わなかったのだろう。その人物とは……我が校一の才女――千石揚羽だった。





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