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才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……

矢追 参

第五話

 ☆☆☆


 そして、一日開けてゴールデンウィークが終わりいよいよテスト週間が始まる。

 テストは三日間に分けられ、一日に二教科の試験が実施される。さすがにテストということもあり神経質な生徒達はオレに構っている暇はないようで虐めはなかった。

 初日の二教科に始まり、二日目三日目とオレは順当にテスト問題を解いて一日一日を生還する。

 勉強の成果だろうか……空欄は一つもなくいつも躓いていた数学の応用問題もスラスラと解いてしまった。不安で何度も見直したが計算式もあっており、間違えは皆無のように思う。しかし、それでも不安なので余り余った時間を使って繰り返し見直した。

 いや……それにしても圧巻の答案用紙だ。ミスが見当たらない。一つ一つ、漢字の一角から英語のスペルミスのような細かいケアレスミスを探し続けて少しでも不安なところは何度も書き直した結果完璧なまでに完全な答案用紙が出来上がってしまった。

 自分でも言うのもなんだが、時間一杯費やした結果がこれだと思うと感動すら覚えるほどだ。もはや模範解答である。オレが自分の時間削ってやってきたことが身を結んだという事実に喜びを感じずにはいられない。

 テスト最終日もそうやって終わり……クラスメイト達は最後の試験終了を知らせるチャイムを聞いて机の上に項垂れたり、逆に余裕そうに友達と喋っている奴と反応は様々だ。

 あ、勿論オレにはそんな友達いないので荷物を纏めて早々に教室を出る準備をする。と、案の定というべきかゲラゲラ男子がオレに相変わらず人を小馬鹿にしたような顔で声を掛けてきた。

「おーい凡人くんは今回のテストはどうだったんだ?俺に教えてくれよ〜?まあ、どうせいつも通り普通なんだろうけどな〜?」

 ゲラゲラ男子の言葉にクラスメイト達はいつも通り俺を嘲笑するように小さくクスクス笑う。

 ははは。

 オレはゲラゲラ男子を無視した。相手にするだけ時間の無駄。あと労力の無駄。テストの手応えを図書室でオレを待つ千石に報告しなければならないのだ。こんなのに構っていて待たせたら、例の如く千石必殺の脛キック☆でオレの脛骨がグッバイする前に図書室へ向かわなければならない。

「ちょ……無視すんなよ!」

 オレはスタスタとゲラゲラ男子を無視して教室出て行く。その際にクラスメイト達が、「根性無しwww」とか何とか嘲笑い教室内で爆笑の渦が巻き起こっていた。

 後で吠え面かいても知らねぇぞ……。

 オレは眉を顰めながらも急いで図書室へ向かい……習慣となった下駄箱の画鋲プレゼントも忘れずに別の誰かへプレゼントして図書室へ走る。

 息を切らせて図書室に到着したオレは、いつものように千石が待つ例の私物化された部屋がある図書室二階まで登り……と、そこで人気がなく周りから目立たない本棚と本棚の間で何やら男の声が聞こえた。

 気になってそっちに目を向けると……何やら千石が見知らぬ男子生徒と二人っきりになっていた。千石はどこか冷めたような眼差しで男子生徒を見ており、男子生徒は顔を赤くして緊張した様子でいた。

 あぁー……そういうことか。

「せ、せせ千石揚羽さん!もし、中間テストで僕が勝ったら……ぼぼ僕と付き合ってもらえませんか!?」
「嫌よ。なぜそのようなことを私がしなくてはならないの?それにあなたじゃ私には勝てないわ」
「そ、そんなこと……やってみなくちゃ分からないじゃないですか!」
「分かるわ」

 凛とした声音が図書室に響く。抜き身の刀身が目の前にあるような錯覚を覚える千石の視線と声音を前に男子生徒はそれ以上何も言えずに立ち尽くしていた。千石はそれを容赦なく一刀両断する。

「あなた程度で私に勝てるわけがないでしょう。その程度の人間と私が寄り添うとでも?」
「な、なら……彼はどうなんですか?」
「彼?」
「千葉修太郎ですよ!二股ヤリチンクソ野郎の!千石さんは彼といつも一緒にいるってみんな言ってるんです!彼よりも僕の方がいいに決まってるじゃないですか!」

 はい、なんで急に僕はディスられたんですか?僕を引き合いに出して出汁にするやめてもらっていいっすかね?ね?

「なら、あなたは私と付き合って何をしたいの?恐らくあなたが想像している通りなら、あまり彼と変わらないと思うのだけどね。大抵の男性は、私の身体を見て情欲を湧かせるもの」

 それを自分で言う君が本当にすごい。

「そ、そんなこと……思ってないです!」
「ならあなたは私と付き合って何をしたいの?その先にビジョンがあるのかしら?なければ無駄な時間を過ごすだけよ」
「い、いいんです……それで!僕は千石さんといられるだけで幸せなんです!」
「私は幸せでもなんでもないから遠慮させてもらうわ」
「ま、待ってください!」

 全くもって話が通じない二人の会話。想いが伝わらない歯痒さ故か、男子生徒は不用意に千石の肩に手を掛けて……千石はその手をとると一瞬で男子生徒の背後へ回って関節を決めて怒気を孕んだ声音でこう言った。

「次、私に触ってみなさい。この肩を外すわよ……」

 絶対零度の視線を向けられた男子生徒は涙目でコクコク頷き、千石はそっと男子生徒を解放して距離を取る。そして、解放されたそいつは恐怖からか脇目も振らずに走り去っていった。

 オレはその後ろ姿を見て、思わず男子生徒に同情してしまう。怖よね……千石さんって!これに懲りたら女の子趣味は良くしよう。千石揚羽なんて人間じゃない奴と付き合いたいなんて酔狂は今後起こさない方がいいだろう……自分のためにな。

 男子生徒が走り去り、一人っきりとなった千石は男子生徒に触れた自分の手を暫く見つめると汚物が付着したような目になり、図書室二階の女子トイレへと駆け込んで行った。

 戻ってきた千石は濡れた手をハンカチで拭いており、そこでようやくオレに気が付いたようで向こうから声を掛けてくる。

「あら……気持ち悪い顔をしているから誰かと思えば千葉くんじゃない。こんちには」
「挨拶代わりに人をディスるのはやめろ……こんにちは」
「ディスってないわ。単なる事実よ」
「それをディスると人は言う……」
「私は貶しているだけよ」
「似たような意味だろ!」
「そんなことはどうでもいいの。さあ、早く行きましょう。テストの手応えを聞きたいわ」

 千石はそうオレに微笑みかけ……オレとしては十分に聞き捨てならない論題なのだが、講義も虚しく千石はオレの手を取ってすっかり千石の私物化された部屋へと招き入れられた。

 …………あいつはダメでもオレは触ってもいいのだろうか。

 オレは自分の手から伝わってくる千石揚羽の温もりを感じながら、そんなことを思ってしまう。少し濡れて湿気が残った手からたしかな血の通う人間の温かみを感じる。人間じゃないなんて評価は訂正しよう……。


 ☆☆☆


 翌日、二学年のテスト結果が廊下に張り出され……学年全員の総合点と順位が晒される。その一番上には、当然のように完璧超人――千石揚羽の名前があり、その横には600満点中の600満点という記載がある。そして……千石揚羽の名前の下にある蘭には、【器用貧乏】という才能名高い凡人――千葉修太郎という名前が同率一位としてそこにはあった。

 オレの名前の横には千石と同じく600満点の記載があり、オレは見事その他大勢の天才たちを下して堂々の一位を獲得した。

 その下にはあの【万能】の才能を持つ百夜万里の名前があり、点数は598点。僅か問題一つ分の差でしかないが、オレはたしかに勝ったのだ。実力で……。

 オレは自分でも信じられないような結果に呆然と立ち尽くし、今日までの努力が無駄ではなかったと思うのと同時に……やっぱり、千石の奴ははすごいと改めて思わされた。オレに勉強を教えていたのに平然と一位か……オレは本当にあの女に勝てるのだろうかと苦笑してしまう。

 オレを知る多くの生徒がオレの名前を見て驚き、直ぐ様オレを見て詰め寄ってくる。その代表は相変わらずゲラゲラ男子だ。

「お、お前なんかが一位になれるわけねぇだろ!ズルしたんだろ!カンニングしたんだろうがよ!そうに決まってる!てめぇが一位なんておかしいだろ!」
「ははは」
「笑ってんじゃねぇぇぇぇ!!」

 おやおや?君は何位かな?というか名前なんだったけ?ちょっとモブは黙ってて欲しいでござるなwww

 どんでん返しの中間テスト……多くの生徒が張り出された結果を見て唖然とし、見事に見返して度肝を抜いたオレは物凄くいい気分でこの場を去ろうとした時、廊下の奥から誰かがこちらに向かって歩いてきているのが見えた。

 その人物は騒ぐ生徒たちを歩くだけで黙らせ、群れを割いてやって来た。

 国立色彩高等学校三年生徒会長――十文字じゅうもんじつとむ。我が校のトップがどういうわけか二学年のテスト結果を見るために足を運びに来ていたのだ。

 大柄な体躯で厳つい顔、見るからに強そうな人だ。

 十文字先輩は数名の三年生を連れて二学年のテスト結果を見るや否や、その恐ろしくん厳つい顔でオレを凝視した。

 こ、こわっ……。

 そして、十文字先輩はオレのところまでツカツカと歩いてくると耳元で囁くようにこんなことを言った。

「……あまり目立ったことはしないことだ。凡人には凡人なりの役割がある。それ逸脱したなら……出る杭を我々生徒会は打たねばならない」

 そんな忠告を最後に……十文字先輩は来た道を直ぐに帰っていった。その時、十文字先輩が連れて女子生徒――たしか副会長だったか――がオレに一瞬だけ目を向けてすぐに十文字先輩を追って居なくなってしまった。

 突然の我が校トップによる二学年訪問により、場は一気に静まり返る。そんな場に追い打ちをかけるが如く、またまた人の群衆を掻き分けて……百夜万里が現れた。

 百夜の奴もテスト結果を一瞥した後に、一人ポツンと取り残されるオレのところまでやってきて一言声をかけてくる。

「やあ、凡人くん?よく頑張ったみたいだね。おめでとう」
「てめぇ……」
「あぁ〜勘違いしないでね?別に喧嘩を売ってるわけじゃあないんだよ?ただ、無駄な足掻きはしない方がいいと思うよ?」

 どういう意味だと問いかけようとする前に、百夜は肩を竦めて続けた。

「十文字先輩に忠告されたでしょう?出る杭は打たれる……余計なことをせず最底辺で大人しくしているといいよ。じゃあ……忠告はしたからね」

 百夜はただ言いたいことだけ言って女の子達にキャーキャー言われながら去っていく。

 オレは訳が分からないまま、その背中を見送る。

 どいつもこいつも含む言い方しやがって……。忠告忠告と、まるで親切心でオレに言っているようだが……オレからしたら迷惑極まりない。

 オレは嘆息しつつ、これ以上誰かに絡まれる前に図書室へと向かった。




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