才能が全ての世の中で、オレの才能は器用貧乏……
第六話
☆☆☆
「まずはおめでとうとだけ言っておきましょう」
「すげぇ上から目線なことについて抗議したい」
「却下よ」
「ちっ」
図書室にある千石エリア(オレ命名)にて、オレと千石は祝勝会(笑)を開いていた。何やらノリノリな千石が持ち前の才能で部屋を飾り付け、どこから出したのかお菓子と炭酸飲料を引っ張り出し……結果、そんな感じになった。
「本当によく頑張ったわ」
「オレのため……だからな」
「それでもよ。あれだけ追い込まれれば、誰でも投げ出すようなものなのに」
たしかに……容赦のない追い込みで大分気が滅入っていたが最終的にここまで来れた。それもこれも全て千石のおかげとなってしまうのだから、正直頭が上がらない部分もある。
「だからこのすごく可愛い私が褒めてあげるわ」
「果てしなくうぜぇ……いいよ?可愛いのは認めるよ?」
「あら、ありがとう。でも、あなたに言われても嬉しくない上に気持ち悪いからやめてもらってもいいかしら?」
「…………」
うん。泣いちゃおっかなぁ……。
千石は楽しそうに笑うとテーブルに広げたポテトチップスをボリボリ食べて、至福の笑みを浮かべた。さらにチョコも食べ、それからは両方交互に食べ始める。
「や、やっぱり塩味のポテトチップスとチョコは悪魔的な美味しさね……私、驚愕だわ!」
せ、千石揚羽さんがここ一番の笑顔を浮かべてる!?
オレは信じられないものを見る目で千石を見つめ、千石はそれに気付くことなくポテトとチョコを食べ続け……やがて、口の中がパサパサになったからか炭酸飲料――コラ・コーラの二リットル入りをラッパ飲みした。ゴクゴクと喉を鳴らしてである。
「ん――ッ!?この炭酸の弾ける感覚……なんて罪深いのかしら!」
「罪深いのはお前だぁぁぁ!」
「え?急に何かしら?」
「何かしらじゃねぇよ!」
キャラぶっ壊れすぎだろ!
そう……そうだ。オレの中での千石揚羽といえば、いつも凛とした佇まいで、清楚で、可憐で、完璧でうんたらかんたら……ともかくだ。少なくともお菓子食べて恍惚とした顔をし、コーラをラッパ飲みして至福の笑みを浮かべるような人間じゃねぇよ!
「お、お前……もしかして……」
オレが何か言う前に、千石はふっとした笑みを浮かべて先んじて答える。
「そうよ。私、本当は猫被っていたの。とはいっても、あまり本来の私とかけ離れたものでもないわ。ただ、苦いコーヒーを本当は嫌いなのに無理して飲む……その程度の見栄を張るくらいなものよ」
「いや……結構衝撃的だよそれ……」
「そうかしら……コーヒーを出した時にあなたが甘いコーヒーが好きだと言ってくれてあの時ホッとしていたのよ。私、苦いの嫌いだもの。高級な料理よりもお菓子やジャンクフードの方が好きよ。……そう、だから私は天才よりも凡人の方が好きよ?」
「なに?遠回しな告白か?オレのこと好きなの?」
「死んだらいいんじゃないかしら?」
えぇ……そういうアレだったよね今の!どう考えても無理ゲー過ぎる。オレは苦虫を噛み潰したような表情で千石を見つめ、変わらずお菓子を食べて幸せそうにしている彼女を見て……苦笑した。
千石はそれが癪に障ったのか、凛とした瞳をオレに向けてこう言った。
「私、あなたのこと好きではないわ。飽くまでも私たちはパートナーよ。私は努力が天才を超える美談を証明したいわ」
「オレは才能だなんだと騒いでる奴らを黙らせてぇ。今回のテストで、そう思った」
見返すとかそういうのはもう終わり……ここからオレの、オレたちの快進撃が始まるのだ。
「あなたならきっと出来るわ」
「お前がオレのパートナーだからか?」
「いいえ。私は手助けするだけ……頑張るのはあなたよ」
「へいへい」
また中間テストのように骨身を削らなきゃいけないと思うとげんなりするが……それも仕方がない。オレが進もうとする道はきっと茨の道であり、その道をオレは突き進むのだ。
千石という道標を目指しながら……目下オレの目標は千石揚羽。この女を超えること……敵自らオレに協力するというのなら甘んじて利用しよう。それがオレと千石の正しい関係だ。
☆☆☆
中間テストが終わって早くも一週間。変わり映えのない日常(虐め)に辟易しながらも登校している最中のこと。
学校の校門まで来て……ふと、妙な視線を感じるなと振り返って見ると一ヶ崎色葉がオレを尾行(?)していた。オレが振り返ると同時に、慌てた一ヶ崎はササッと近くの電柱に隠れるが全然隠れられてない。
頭隠して尻隠さずどころの隠せなさじゃない。丸っと丸見えである。やはりアホの子か。
まあ、今更何の用か知らないが一ヶ崎や二階堂のせいで酷い目にあっているのだから関わり合いたくない。というか、話したくない。
無視しよう。
オレは改めて学校に向けて足を進める。学校へ到着してからも全く隠れられていない尾行を一ヶ崎は続けるのだが……それはオレが学校にいる間ずっと行われた。
教室に入るところから始まり、休み時間、トイレ、お昼休みまでその日はずっとオレの後を付いてきた。正直鬱陶しい……。
バレバレな尾行を続ける一ヶ崎に一言何か言ってやるべきなのか……しかし、たしかに一ヶ崎のせいで色々大変な面もあるがあの時百夜に陥れられた時に暴露したオレの本心は本物だ。一ヶ崎の貧相な身体とか全くもって興味ない。
…………はぁ。
さすがに昼休み、オレが千石のところへ向かうまで見られるのも困ると思ったオレは仕方がなく一ヶ崎に声を掛けてやった。
「なんか用かよ」
「っ!?」
一ヶ崎は小柄な身長で大きく肩を揺らし、突然の出来事に焦ったのかアタフタと辺りを見回して隠れられそうなところを探すが……見つかった後に隠れても後の祭りである。
一ヶ崎は観念したように俯きつつ、ふんっと鼻を鳴らして両腕を組んだ。
「別にうちはシュウくんをビコウなんてしてないもんねー!」
「いやしてただろ……朝から」
「ば、バレてたの!?か、完璧なビコウだと思ってたのに!?」
※バレバレです。って表記されるくらいにはバレバレです。尋常じゃないほどバレてました。
「どっからどう見たら完璧なんだ?アホか」
「あ、アホって言った!アホって言った方がバカなんだもんね!……あれ?アホって言われたら……バカ……う?」
アホだ。
誰だよこのアホを天使とか何とか言ってた馬鹿たれはよ。
あ、オレか。
「と、とにかくシュウくんのバーカ!うちは悪くないもん!」
「は、はぁ?急になに言ってんだお前は……意味わかんねぇぞ!」
「意味分からなくないもん!シュウくんが悪い!悪いのー!うわーんっ!!」
一ヶ崎は子供のように泣き叫びながらどこかへ走り去ってしまった。
な、なんだったんだ?今のは……。
☆☆☆
その後直ぐに予定通り千石エリアに着いたオレは甘々なコーヒー片手に、千石へ先ほど一ヶ崎とカクカクシカジカあったことを説明するとうんざりしたような顔をしていた。どうしたというのだろうか……。
「一ヶ崎色葉さん……ね。私は彼女が苦手なのよね」
「へぇー天下の千石揚羽に苦手な相手がねぇ」
「だって彼女、話しが通じないから……どれだけ理路整然としていても相手に意味が伝わらなければ何の役にも立たないのよ」
「あー分かるわ」
たしかに一ヶ崎には難しい言葉は通じない。知能が小学生並みなのだろう……そういう意味で千石とは相性の悪い相手というのが正に一ヶ崎というわけだ。
「しっかし……なんで今更オレに構ってきたんだか」
オレはふとそんなことを呟く。今更、興味もヘッタクレもないが変に干渉されては敵わない。面倒なことになる前にさっさと一ヶ崎の件を片付けるべきか否か……。
あれこれ考え込んでいるオレに対し千石はどこか微妙そうな顔で、珍しく面倒くさそうにため息を吐いていた。
「あなた絡みなのは確定でしょうけどね……誘惑されないようにね」
「ははは。誘惑?今更そんなことしてオレが言うこと聞くわけないだろ?」
「どうでしょうね?あなたがチラチラと私の胸を見て欲情していることに今まで気が付いていないとでも?」
おっと、ゴミを見るような目ですね。
なんならその見事な双丘を揉み揉みしたこともあるが、きっとこれをカミングアウトした瞬間にオレの人生がカミングスーンとか言ってそのまま永遠に終わりかねないので死んでも言わないことにする。
「あら?なにかしら……まるでもっとすごいことをしているとでも言いたげな目をしているわ」
「してない」
「とても気持ち悪い顔だったわ……あ、それはいつものことだったわね。ごめんなさい……」
「常時気持ち悪いと言いたいんですね?」
「言わないと分からないのかしら……?鏡は毎日見ている?」
はい、分かりました。もう勘弁して下さい。そろそろ泣きますよ?うえーんうえーん。
千石はコロコロと微笑み、コーヒーを飲む。前のじゃんけんのように、またこの女を負かして鼻で笑ってやりたいのだが……何かないか?千石揚羽をギャフンと言わせるような……何か。
…………。
オレはニヤリと笑みを浮かべ、優雅にコーヒー(激甘)を飲む千石に言った。
「よし、千石ゲームをしよう」
「……?ゲーム?」
「そうだ。先に『30』を言った方が負けで『1』から交互に言い合う。で、一回に数字を三つ進めることができて、それで『30』を先に言うまで言い合うゲームだな」
「ふぅん?」
「じゃあ、いくぞー?『1』
「え?え……もう?そ、それじゃあ……『2』」
千石揚羽は天才だ。考える暇は与えるな。
「『5』」
「え?……そ、それじゃあ『7』」
「『9』」
「え、えぇ?あ、あの……『12』」
「『13』」
「…………『15』」
千石はとんでもなく悔しそうな表情をしており、もはや負けが確定した勝負に震えていた。
そう、既にこのゲームはオレが勝つことが決まっている。この『30』を先に言ったら負けゲームはどんな天才にも必ず勝てる……必勝ゲームなのだ!なぜなら、このゲームは決まった数字を相手に言わせず自分が言えば勝てるゲームなのだから!
「ほれ『29』だ」
「うぅ!?…………『30』」
「はいぃぃ!オレの勝ちですねぇ!」
「こ、こんなの無効よ!どうやっても私に勝ち目がなかったわ!再戦を要求するわ!」
さすがは天才少女である。割と序盤から負けが見えていたのだろう。それで律儀にゲームを続けるのだからお人好しだ。
だが、それとこれとは別。オレの勝ちは揺るがない!
ははは。
「勝ち逃げするでござるwww」
「――――ッ!!」
「いって!?」
オレはこれで何度目かも分からない脛キックを喰らって悶絶した。
「まずはおめでとうとだけ言っておきましょう」
「すげぇ上から目線なことについて抗議したい」
「却下よ」
「ちっ」
図書室にある千石エリア(オレ命名)にて、オレと千石は祝勝会(笑)を開いていた。何やらノリノリな千石が持ち前の才能で部屋を飾り付け、どこから出したのかお菓子と炭酸飲料を引っ張り出し……結果、そんな感じになった。
「本当によく頑張ったわ」
「オレのため……だからな」
「それでもよ。あれだけ追い込まれれば、誰でも投げ出すようなものなのに」
たしかに……容赦のない追い込みで大分気が滅入っていたが最終的にここまで来れた。それもこれも全て千石のおかげとなってしまうのだから、正直頭が上がらない部分もある。
「だからこのすごく可愛い私が褒めてあげるわ」
「果てしなくうぜぇ……いいよ?可愛いのは認めるよ?」
「あら、ありがとう。でも、あなたに言われても嬉しくない上に気持ち悪いからやめてもらってもいいかしら?」
「…………」
うん。泣いちゃおっかなぁ……。
千石は楽しそうに笑うとテーブルに広げたポテトチップスをボリボリ食べて、至福の笑みを浮かべた。さらにチョコも食べ、それからは両方交互に食べ始める。
「や、やっぱり塩味のポテトチップスとチョコは悪魔的な美味しさね……私、驚愕だわ!」
せ、千石揚羽さんがここ一番の笑顔を浮かべてる!?
オレは信じられないものを見る目で千石を見つめ、千石はそれに気付くことなくポテトとチョコを食べ続け……やがて、口の中がパサパサになったからか炭酸飲料――コラ・コーラの二リットル入りをラッパ飲みした。ゴクゴクと喉を鳴らしてである。
「ん――ッ!?この炭酸の弾ける感覚……なんて罪深いのかしら!」
「罪深いのはお前だぁぁぁ!」
「え?急に何かしら?」
「何かしらじゃねぇよ!」
キャラぶっ壊れすぎだろ!
そう……そうだ。オレの中での千石揚羽といえば、いつも凛とした佇まいで、清楚で、可憐で、完璧でうんたらかんたら……ともかくだ。少なくともお菓子食べて恍惚とした顔をし、コーラをラッパ飲みして至福の笑みを浮かべるような人間じゃねぇよ!
「お、お前……もしかして……」
オレが何か言う前に、千石はふっとした笑みを浮かべて先んじて答える。
「そうよ。私、本当は猫被っていたの。とはいっても、あまり本来の私とかけ離れたものでもないわ。ただ、苦いコーヒーを本当は嫌いなのに無理して飲む……その程度の見栄を張るくらいなものよ」
「いや……結構衝撃的だよそれ……」
「そうかしら……コーヒーを出した時にあなたが甘いコーヒーが好きだと言ってくれてあの時ホッとしていたのよ。私、苦いの嫌いだもの。高級な料理よりもお菓子やジャンクフードの方が好きよ。……そう、だから私は天才よりも凡人の方が好きよ?」
「なに?遠回しな告白か?オレのこと好きなの?」
「死んだらいいんじゃないかしら?」
えぇ……そういうアレだったよね今の!どう考えても無理ゲー過ぎる。オレは苦虫を噛み潰したような表情で千石を見つめ、変わらずお菓子を食べて幸せそうにしている彼女を見て……苦笑した。
千石はそれが癪に障ったのか、凛とした瞳をオレに向けてこう言った。
「私、あなたのこと好きではないわ。飽くまでも私たちはパートナーよ。私は努力が天才を超える美談を証明したいわ」
「オレは才能だなんだと騒いでる奴らを黙らせてぇ。今回のテストで、そう思った」
見返すとかそういうのはもう終わり……ここからオレの、オレたちの快進撃が始まるのだ。
「あなたならきっと出来るわ」
「お前がオレのパートナーだからか?」
「いいえ。私は手助けするだけ……頑張るのはあなたよ」
「へいへい」
また中間テストのように骨身を削らなきゃいけないと思うとげんなりするが……それも仕方がない。オレが進もうとする道はきっと茨の道であり、その道をオレは突き進むのだ。
千石という道標を目指しながら……目下オレの目標は千石揚羽。この女を超えること……敵自らオレに協力するというのなら甘んじて利用しよう。それがオレと千石の正しい関係だ。
☆☆☆
中間テストが終わって早くも一週間。変わり映えのない日常(虐め)に辟易しながらも登校している最中のこと。
学校の校門まで来て……ふと、妙な視線を感じるなと振り返って見ると一ヶ崎色葉がオレを尾行(?)していた。オレが振り返ると同時に、慌てた一ヶ崎はササッと近くの電柱に隠れるが全然隠れられてない。
頭隠して尻隠さずどころの隠せなさじゃない。丸っと丸見えである。やはりアホの子か。
まあ、今更何の用か知らないが一ヶ崎や二階堂のせいで酷い目にあっているのだから関わり合いたくない。というか、話したくない。
無視しよう。
オレは改めて学校に向けて足を進める。学校へ到着してからも全く隠れられていない尾行を一ヶ崎は続けるのだが……それはオレが学校にいる間ずっと行われた。
教室に入るところから始まり、休み時間、トイレ、お昼休みまでその日はずっとオレの後を付いてきた。正直鬱陶しい……。
バレバレな尾行を続ける一ヶ崎に一言何か言ってやるべきなのか……しかし、たしかに一ヶ崎のせいで色々大変な面もあるがあの時百夜に陥れられた時に暴露したオレの本心は本物だ。一ヶ崎の貧相な身体とか全くもって興味ない。
…………はぁ。
さすがに昼休み、オレが千石のところへ向かうまで見られるのも困ると思ったオレは仕方がなく一ヶ崎に声を掛けてやった。
「なんか用かよ」
「っ!?」
一ヶ崎は小柄な身長で大きく肩を揺らし、突然の出来事に焦ったのかアタフタと辺りを見回して隠れられそうなところを探すが……見つかった後に隠れても後の祭りである。
一ヶ崎は観念したように俯きつつ、ふんっと鼻を鳴らして両腕を組んだ。
「別にうちはシュウくんをビコウなんてしてないもんねー!」
「いやしてただろ……朝から」
「ば、バレてたの!?か、完璧なビコウだと思ってたのに!?」
※バレバレです。って表記されるくらいにはバレバレです。尋常じゃないほどバレてました。
「どっからどう見たら完璧なんだ?アホか」
「あ、アホって言った!アホって言った方がバカなんだもんね!……あれ?アホって言われたら……バカ……う?」
アホだ。
誰だよこのアホを天使とか何とか言ってた馬鹿たれはよ。
あ、オレか。
「と、とにかくシュウくんのバーカ!うちは悪くないもん!」
「は、はぁ?急になに言ってんだお前は……意味わかんねぇぞ!」
「意味分からなくないもん!シュウくんが悪い!悪いのー!うわーんっ!!」
一ヶ崎は子供のように泣き叫びながらどこかへ走り去ってしまった。
な、なんだったんだ?今のは……。
☆☆☆
その後直ぐに予定通り千石エリアに着いたオレは甘々なコーヒー片手に、千石へ先ほど一ヶ崎とカクカクシカジカあったことを説明するとうんざりしたような顔をしていた。どうしたというのだろうか……。
「一ヶ崎色葉さん……ね。私は彼女が苦手なのよね」
「へぇー天下の千石揚羽に苦手な相手がねぇ」
「だって彼女、話しが通じないから……どれだけ理路整然としていても相手に意味が伝わらなければ何の役にも立たないのよ」
「あー分かるわ」
たしかに一ヶ崎には難しい言葉は通じない。知能が小学生並みなのだろう……そういう意味で千石とは相性の悪い相手というのが正に一ヶ崎というわけだ。
「しっかし……なんで今更オレに構ってきたんだか」
オレはふとそんなことを呟く。今更、興味もヘッタクレもないが変に干渉されては敵わない。面倒なことになる前にさっさと一ヶ崎の件を片付けるべきか否か……。
あれこれ考え込んでいるオレに対し千石はどこか微妙そうな顔で、珍しく面倒くさそうにため息を吐いていた。
「あなた絡みなのは確定でしょうけどね……誘惑されないようにね」
「ははは。誘惑?今更そんなことしてオレが言うこと聞くわけないだろ?」
「どうでしょうね?あなたがチラチラと私の胸を見て欲情していることに今まで気が付いていないとでも?」
おっと、ゴミを見るような目ですね。
なんならその見事な双丘を揉み揉みしたこともあるが、きっとこれをカミングアウトした瞬間にオレの人生がカミングスーンとか言ってそのまま永遠に終わりかねないので死んでも言わないことにする。
「あら?なにかしら……まるでもっとすごいことをしているとでも言いたげな目をしているわ」
「してない」
「とても気持ち悪い顔だったわ……あ、それはいつものことだったわね。ごめんなさい……」
「常時気持ち悪いと言いたいんですね?」
「言わないと分からないのかしら……?鏡は毎日見ている?」
はい、分かりました。もう勘弁して下さい。そろそろ泣きますよ?うえーんうえーん。
千石はコロコロと微笑み、コーヒーを飲む。前のじゃんけんのように、またこの女を負かして鼻で笑ってやりたいのだが……何かないか?千石揚羽をギャフンと言わせるような……何か。
…………。
オレはニヤリと笑みを浮かべ、優雅にコーヒー(激甘)を飲む千石に言った。
「よし、千石ゲームをしよう」
「……?ゲーム?」
「そうだ。先に『30』を言った方が負けで『1』から交互に言い合う。で、一回に数字を三つ進めることができて、それで『30』を先に言うまで言い合うゲームだな」
「ふぅん?」
「じゃあ、いくぞー?『1』
「え?え……もう?そ、それじゃあ……『2』」
千石揚羽は天才だ。考える暇は与えるな。
「『5』」
「え?……そ、それじゃあ『7』」
「『9』」
「え、えぇ?あ、あの……『12』」
「『13』」
「…………『15』」
千石はとんでもなく悔しそうな表情をしており、もはや負けが確定した勝負に震えていた。
そう、既にこのゲームはオレが勝つことが決まっている。この『30』を先に言ったら負けゲームはどんな天才にも必ず勝てる……必勝ゲームなのだ!なぜなら、このゲームは決まった数字を相手に言わせず自分が言えば勝てるゲームなのだから!
「ほれ『29』だ」
「うぅ!?…………『30』」
「はいぃぃ!オレの勝ちですねぇ!」
「こ、こんなの無効よ!どうやっても私に勝ち目がなかったわ!再戦を要求するわ!」
さすがは天才少女である。割と序盤から負けが見えていたのだろう。それで律儀にゲームを続けるのだからお人好しだ。
だが、それとこれとは別。オレの勝ちは揺るがない!
ははは。
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