記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第42話 勧誘



「よぉ、もう起きて大丈夫なのか?」
「休んだおかげか知らないけど、前より調子が良くなった気がする」


チャンスが休んでいると吉比姫を肩に乗せた富貴が見舞いに来る。
チャンスは元気であることを表すように両肩を回す。


「それは重畳。しかしお主、あのマー・ヘイロンとやりあったと? 犠牲者も出さずに撃退したとは、吾はにわかに信じられぬ」
「……アレのこと、知ってるんですか?」


富貴の肩から降りた吉比姫がチャンスの顔をまじまじと見ながら喋る。
チャンスは吉比姫が真祖の吸血鬼マー・ヘイロンの事を知っていることに驚く。


「当然じゃ、スオウではもはや伝説の存在じゃからのう。千年の歳月を生きる吸血鬼の真祖、加えて卓絶した道士でもあるのじゃ……実際、東で起きる呪術関連の騒動では、よく影を見せておる」


吉比姫はマー・ヘイロンが起こした凄惨な事件を思い出したのか青い顔で肩を震わせる。


「マトイやエリザベートからも確認を取ったが……何ともはや、『大領主就任式で待っている』か、吹いてくれるものじゃのう……」
「何にせよ、アレと遭遇して生きてたのはお前らぐらいだ。運がよかったぜ? チャンス」


吉比姫は深い溜息をついて目頭を揉む。富貴がチャンスの肩を叩いて生き延びた幸運を誉める。


「結局倒せず、僕は気絶して……あいつの気まぐれに助けられただけだよ……」
「いやいや、大したものだぞ。のう、チャンス…… いっそ、フソウで仕官しないか? 引く手あまただぞ?」
「え、えー……それは、ちょっと……考えもつかないなぁ……」


吉比姫からいきなり仕官しないかと勧誘され戸惑うチャンス。


「まあ、すぐに返事をせよとは言わぬ。考えておいてくれ――それから話がある、ちょっとついてまいれ」
「え? うん……」


吉比姫はまた富貴に抱き上げられ肩に乗るとチャンスを手招きしながら移動する。
チャンスは戸惑いながら寝所から出て、吉比姫達の後を追う。


「あらあら、もう起き上がられて大丈夫なんですか?」
「あ、ご心配、おかけしました。……? あれ、そっちの人は?」


社の外に出れば空は紅く染まり、太陽は半分近く沈みかけている。
境内を掃除していた霞と樟葉ともう一人の女性がチャンスの姿に気づき、声をかける。チャンスは挨拶を返しながら霞の後ろにいる女性に視線を向ける。


「あ、私は水鏡静、ユイさんやアズラエルちゃんにはお世話になりました、お父さん」
「あ、いや……ども……」
「ほれ、挨拶はそのぐらいにして、まずは、マー・ヘイロンのことについてこの場の全員に話したいことがある」


チャンスは静にアズラエルのお父さんといわれて照れながら静にも挨拶を返す。
パンパンと吉比姫が手を叩いて空気を入れ替えて話を続ける。


「神器について、ですね」
「うむ、ここ玉守神社には勾玉が――」
「うん、うちの『奥の社』にはご神体の鏡が祭ってあるよ? 元々は、この玉守神社の勾玉と一緒に、ウチのご先祖様が手に入れたって聞いてる」


吉比姫が真祖の吸血鬼エルダー・ヴァンパイアマー・ヘイロンについて話し始めると、霞が口を挟み、静が神器について話す。


「……二人とも、その神器の出自は知っておるのか?」
「こう、周囲と同調する能力のあるすんごいの、としか……」


吉比姫が神器の出自について聞くと、静は神器の能力は知っていても、出自は知らないという。


「共にヒヒイロカネ……神の金属の特性を持つ神器でございます」
「……何故、そのことを?」


樟葉が神器がヒヒイロガネでできていると口にすると、吉比姫が警戒したように樟葉を見る。


「代々、水鏡神社にお仕えしてますゆえ。ヒヒイロカネとは神の力を宿した共鳴金属。世界と共鳴し、一つになる効果を持ちます。ただ……」
「既に、土地と繋がりのある鏡と勾玉は、土地からは簡単に引き剥がせない、と?」


樟葉はヒヒイロガネの能力を説明し、最後に言いにくそうに口を閉じる。
吉比姫は樟葉が言いにくそうにしている理由を言い当てる。


「はい、ですので――」
「あ、剣ならメイリュウ神社に奉納してあるぞ?」
「ふえ!? な、何故それが!?」


吉比姫はいたずらが成功した子供の顔で樟葉を見ながら剣を奉納していることを知らせる。


「西大陸に隠されておったのじゃ。で、それを吾たちが回収した、のじゃが……」
「神器を奉納している三神社が同時に襲われた。幸いチャンス達と大名の徳川が派遣した冒険者のおかげで強奪は防げた」


そういって富貴はチャンスの背中を叩く。


「いやー、奇妙な縁もあったもんだねー」
「ですね、こうして依頼を受けてもらっていなければ……どうなっていたか、見当もつきません」


静と霞もチャンス達が来なければ神器を奪われていたかもしれないと、安堵の息を漏らす。


「うむ。じゃがこうして無事に3つ揃えることができた。剣の奉納の儀が終われば奴も手が出せぬ」
「え? どういうことです?」


吉比姫の言葉にチャンスは疑問を述べる。マー・ヘイロンは神器を求めており、神器の所在は全てわかっている。なのに吉比姫はマー・ヘイロンが手出しできないと確信している口ぶりであった。


「うむ、三種の神器による三位一体、その共振があれば奴でも手が出せん。いや、より正確には奴だから、だな」
「え?」
「元々、三というのは強固な結束を起こせる数です。それにより、国の災いを治める護国の守とするのが三種の神器です。……吸血鬼の真祖は、力が大きすぎるゆえに近づけないのです」


吉比姫の言葉にチャンスは理解が追い付かず、クエスチョンマークを浮かべ、見かねた樟葉がチャンスに説明する。


「だから、死霊の大群や落とし子スポーン、時間をかけての勾玉の汚染など、しち面倒な手を使っておったのじゃろう」


吉比姫はそれぞれの神社が襲われた経由を思い出し、マー・ヘイロンがなぜそのような手段を取ったのか推理する。


「あ、そうじゃ! チャンス、仕官が乗り気でないなら、神器の守護者にならぬか? 真祖の吸血鬼であるマー・ヘイロンを撃退したお主が守護者なら、神社も神器も安泰じゃろうて」
「え、えー……そ、そんないきなり言われても……」


吉比姫がチャンスの顔を見ると妙案を思いついたようにポンと手を叩いて、今度は守護者にならないかと勧誘してくる。
その話を聞いていた静と霞がなぜか頬を染めて期待を込めた目でチャンスを見ていた。


「……もう、どこまで本気なのやら……」


チャンスは苦笑しながらも、誰かに必要とされることに喜びと心地よさを感じていた。





「あ、チャンス。もう動いて、大丈夫なの?」


夕餉に呼ばれた為、食堂へと向かうと、マトイがチャンスの姿に気づいて声をかけてくる。


「あ、うん、マトイこそ大丈夫?」
「まぁ、ほとんどチャンスが戦ってくれたんだし……ところで、どうしちゃったの? それ」


マトイが指さす先にはチャンスと手を繋いで上機嫌のアズラエルの姿があった。


「いや、さっきそこで会ってね?」
「ほうほう」


チャンスが食堂へ向かう途中、アズラエルと出会い、アズラエルは何を思ったのかチャンスと手を繋いでひと時も離れる様子もなくにこにこと笑顔でついて回る。


「……よし」
「ん? マトイ?」
「……ん」


アズラエルとチャンスが手を繋いでる姿を見たマトイは何か思いついたのか、席を立つと、空いているチャンスの手を握り、肩を寄せる。


「……マトイ殿」
「え? なに、これ?」
「まぁまぁ、空いてるんだしいいじゃん? それとも、母上以外がこうするのはやだ?」


アズラエルはやきもちを焼いたのか、ジト目でマトイを睨むとチャンスの手を引っ張る。
マトイも同じようにチャンスを引っ張り、チャンスだけが意味が分からないといった顔で双方から引っ張られて右往左往する。


「……本当、無茶しちゃ駄目だよ? 最後なんて、すごく冷や冷やしたんだから」
「ああ……うん」


不意にマトイが引っ張るのをやめたかと思うと、チャンスの腕に顔をくっつけて表情を見せないようにして、無茶をするなと注意する。


「ああしたかった、しちゃったってのは理解出来るけど……人間なんて、簡単に死んじゃうんだって忘れちゃ駄目だよ?」
「いや――」
「死んじゃうの! そんなつもりがなくたって」


マトイの言葉にチャンスは、いや、僕は死なないと答えようとした。
だがマトイはその言葉を阻止するようにチャンスの手をぎゅっと握ってチャンスの言葉を遮る。


「……ね?」
「……うん」


チャンスとマトイはお互い口を閉ざし、見つめあう。
しばし見つめあった後、お互いの顔が相手に近づこうとして、マトイがアズラエルの視線に気づき、離れる。


「ま、私が言いたいことはそれだけ、アズラエル、すごい心配してたんだからね。ちゃんと家族サービスしてあげなさい、お父さん。ちょっと外の風に当たってくる」
「あ、うん、ありがと、マトイ」


マトイは頬を赤く染めてそそくさと出ていく。
チャンスはマトイの後姿を視線で追いかけていた。
アズラエルはそんなチャンスの姿に嫉妬したのか、こっちを見てと訴えるように何度もチャンスの手を引っ張る。


「……アズラエル?」
「すみません……私以外の方々も、父上を心配してらしたんですよ? その事を、絶対に忘れないでくださいね? 父上」
「……うん、わかった」


チャンスはアズラエルの頭を撫でながら頷く。
その後は水鏡神社での出来事をアズラエルはチャンスに報告する。
落とし子と呼ばれる怪物がいた事、士郎という謎の剣士に助けられたこと、母と協力して落とし子を討伐ことなど、アズラエルは興奮した様子でチャンスに語っていた。



「…………」


夜風に当たっていたマトイはチャンスの手を握っていた自身の手をまじまじと見つめている。


「エヘヘヘ……」


マトイは自身の手を愛しそうに握り、チャンスの温もりを思い出していた。

          

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