記憶のない冒険者が最後の希望になるようです
第40話 最後の希望が目覚める時!
「ウオオオオオオッッ!!!」
チャンスはファルシオンを縦横無尽に振って、炎の斬撃を次々と生み出し、リー・ヘイロンにぶつけていく。
「すごい……大気中の魔力があの人を中心に炎に塗り替えられて……」
「多分、チャンスは本能で理解してる。アレを殺すのは、世界ひとつ殺すつもりじゃないと――届かない」
「………」
静とマトイがエリザベートを助け起こしながら、マー・ヘイロンと戦うチャンスを見守る。
「何のつもりだ?」
マー・ヘイロンは、チャンスが生み出した炎の斬撃を避ける仕草もせずにすべて受けて止めて、不愉快そうに呟く。そして、ただ、無造作に間合いを詰め、無造作に拳を繰り出す。
「ごほっ!?」
その拳を受けたチャンスは森へと吹き飛び、数本の大木を巻き込んでやっと止まる。
「あんな、ただの種火で、私を倒せるとでも? 馬鹿にしているのか? 小僧?」
ただ無造作に拳をふるっただけで普通の人間なら絶命している。もはや、人類の想像の範疇にない。それが吸血鬼の真祖だ。
ましてや、相手は化け物だ。
千年を超える長い時を生き、その術は、現存ずる竜や神に次ぐ――あるいは匹敵する領域にある。
「しばし稽古相手になってやるよ、小僧。素手だけで戦ってやろう、存分に、もがきあがくがいい」
それでもなお尽きぬ向上心、克己心。より高みへ、その想いがこの真祖をここまで引き上げ、更なる上へと押し上げる。
「ウアアアアアア!!!」
「ホウッ! 肉弾戦は、悪くない! 初めから、こっちで来い!!」
チャンスは炎が噴き出すファルシオンを構え、リー・ヘイロンに攻撃を繰り返す。
突き、袈裟斬り、横なぎ、振り下ろし、あらゆる斬撃を繰り出すが、リー・ヘイロンは全てを片手で捌き、逆に乱撃でチャンスをいたぶる。
「うそ……チャンスのあの力でも無理なの?」
チャンスが持つ特別な力を知っているマトイが赤子のようにあしらわれるチャンスを見て信じられないといった顔で驚愕する。
圧倒的だった、腕力だけでチャンスをねじ伏せる――ありえない光景がそこにあった。
「チャン……ス……さん、今助けに……」
エリザベートは一方的にいたぶられるチャンスを見て助けに入ろうとする。
「助けに行っては駄目です! あなたが向かえばそれが致命的な隙を生んで全滅します」
霞がエリザベートを止めに入る。
「そんなの……やってみないと……」
「わかるんです! この目がっ! 神から授かった未来視が、助けに入った貴方を護ろうとしてチャンスさんが死んでしまう未来が!!」
エリザベートは自分を止めに入る霞を忌々しそうに睨む。霞は自分の瞳が持つ能力を伝えて必死に止める。
「チャンスがあいつを倒す未来は見えないの?」
「それが……見えないんです。チャンスさんだけは、どんなに見つめても……まるで回り続けるサイコロの目のように未来が定まっていないんです」
マトイがチャンスの未来を聞けば霞は戸惑ったように答える。いつもなら見つめるだけで明日の天気も村人の未来も何でも分かったはずなのに、チャンスだけはどんなに見つめても何も見えなかった。
「さてと、そろそろ稽古は終わりだ。お前は一番最後に殺してやる。まずはそこでお前が護るはずだった女たちが殺されるのを見てるがいい」
マー・ヘイロンはチャンスの頭を鷲掴みすると、森へ投げ飛ばす。
数本の大木を巻き込むように投げ飛ばされたチャンスは起き上がれずにいた。
「あ、さて……誰から殺すかな」
リー・ヘイロンは興味を失ったようにチャンスに背を向け、マトイ達の方へ向かう。
マトイ達は武器を構えるが、リー・ヘイロンが一歩前進するたびに、無意識に数歩後退して少しでも死から逃れようとあがく。
(や……め……ろ……)
チャンスは動くことはおろか、喋ることすらままならぬ体でリー・ヘイロンを睨む。
「やれやれ、せっかく妻から加護を貰ったというのに、使いこなせてねえな」
(誰だ……)
突如聞こえてくる男性の声。チャンスが声のした方向に視線を向けると逆光で顔が見えない角飾りの兜を装着した大男だった。
「俺の事なんてどうでもいいだろ? それよりも早く立て。このままだと彼女達だけじゃない、これから生まれ来る命すら奪われてしまうぞ」
(―――!)
大男が言った一言にチャンスの目つきが変わる。
「……ようやく、あの時の『目』になったな。相も変わらず、火付きの悪い男だ」
大男は過去にもチャンスと出会ったような口ぶりで喋る。
「あのデブはオリハルコンを欲している。オリハルコン製の水鏡、勾玉、そして剣。この三つを使えば世界と繋がる。ようは、あのデブは神と同じになろうとしているのだ。だが、そのオリハルコンはこの地と繋がり、デブでも手出せない」
大男はエリザベートを指さす。
「だから、吸血鬼化したあの女を殺して、周辺を一気に傾かせる気だ。そうなれば、この周辺は人の住めない地に……まぁ、これは結果か」
(どうすれば……助けれる……)
独り言のように呟いてた大男はチャンスを見下ろす。
「倒すじゃなくて、助けるか……お前は変わらないな。ヒントをやろう。さあ、思い出せ!」
大男はチャンスに顔を近づける。これだけ顔を近づけてもチャンスは大男の顔を認識できない。
≪お前は絶望を希望に変える者、悲劇を喜劇に変える者、変神せよ、汝は最後の希望なり!!≫
大男がそう唱えた時、勾玉が奉納されている洞窟から光が溢れ出し、チャンスの元へと飛んでいく。
「勾玉が……共振している?」
霞は勾玉が奉納されている洞窟からチャンスの元へ降り注ぐ光を見て
「……む?」
マー・ヘイロンは足を止めてチャンスの方に振り向く。
「ハ! オリハルコンと《共振》して力を引き出したか! しゃらくさい真似をするっ!!」
光の中から人影が現れる。人影は一歩一歩しっかりとした足取りで前へと進む。
「ホウッ! 少しは楽しませてもらえそうだな」
「チャンス……なの?」
光の中か現れたのは太陽の如く輝く黄金でできたフルプレートアーマー、黄金のライオンをモチーフにしたフルフェイスヘルム。そして、太陽のように輝く炎を噴き出す双剣のファルシオンを構えていた。
その姿と威圧感を見てマー・ヘイロンは嗤う。
マトイは突如全身鎧を着用したチャンスの姿に困惑する。
「勾玉と《共振》して、潜在していた力も引き出した、か? まぁ、まずは……小手調べだ!!」
マー・ヘイロンは技術も何もない、ただ突っ込んで振り上げた拳で殴る。
ただのパンチですら、真祖吸血鬼のその膂力で繰り出せば、鉄の鎧すら簡単に貫通させる。
チャンスはそれを交差させたファルシオンで受け止める。
「ホウ? 受け止め――」
チャンスは無言で手首のスナップを利かせてファルシオンの刃の向きを変えると、返しの刃といわれる反撃技でマー・ヘイロンの腹部を斬る。
「ハハ!! 拙い、拙いが、コレは――!!」
マー・ヘイロンは後方に飛んで距離を開ける。チャンスは先ほどと同じように炎の斬撃を飛ばすが、その大きさも数も段違いだ。
マー・ヘイロンは避け、弾き、防御して炎の斬撃に耐える。
「ぐ……太陽の概念を完全に使いこなしたか。本当、相性悪い」
直撃は避けたものの、マー・ヘイロンの体には切傷や火傷の跡ができていた。
「長き時を生きる真祖の吸血鬼、マー・ヘイロンに傷をつけた名誉を称えて聞こう、貴様の名前を名乗れっ!」
「僕の名前はラストチャンス、悲劇的結末をぶち壊す、最後の希望だっ!!」
          
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