記憶のない冒険者が最後の希望になるようです
第25話 オルグの終焉
「いくぜええっ! ヒャッハー!!」
兄のモヒが半回転して遠心力をのせて二丁の斧を横薙ぎに振るう。
グレートソードでモヒの攻撃を受け止めたベルグが押し返そうとするが………
「足元が留守だぜぇ!!」
間髪入れず弟のカンが鋲付きの鈍器で避けにくい膝上部分を狙って攻撃をする。
「ボラバドッ!」
カンの攻撃を避けきれなかったベルグは悲鳴を上げ、殴られた脚を庇う様に膝をつく。
「オラァッ!!」
膝をついたベルグを見てモヒは二丁の斧を大振りに振り上げて渾身の力を込めて振り下ろす。ベルグはそれを錆びたグレートソートで受け止め、金属同士がぶつかる音とミシッという罅が入ったような音が混じって聞こえる。
「カンッ!!」
「あいよっ、兄者!!」
モヒの合図に阿吽の呼吸で応えるカン。まるで楔を打ち込むように、モヒの斧の背に向けて鈍器を打ち下ろす。
バキンッとグレートソードが音を立てて折れて、モヒの二丁の斧がオルグの両肩に食い込む。
「もう一丁!!」
「ギャガガガ!」
再度カンがベルグの両肩に食い込んだ斧に鈍器を打ち下ろす。打ち下ろした衝撃で斧がさらに肉へ食い込み血しぶきがモヒカン兄弟の顔に飛び散る。ベルグは断末魔を上げ崩れ落ちる。
「いよっこらしょっと!!」
モヒはベルグの両肩に食い込んだ斧を、ベルグの死体に足を乗せて引っこ抜き、両肩に背負うように乗せて一息つく。
「兄者、あとはバグベアードだけですぜ」
「おっしゃ、駆け付けるぞ!」
一方、チャンスとバグベアードは一進一退の攻防が続いていた。
初撃でチャンスの突きがバグベアードの脇腹を斬ったが、外皮が分厚く硬いのか、かすり傷程度のダメージしか与えられていない。
「くっ……うっ!」
その剛腕から繰り出されるバグベアードの攻撃をチャンスは受け流して回避するが、受け流し方が悪いのか伝わってくる衝撃に顔を歪める。
「チャンス、しゃがんで!」
「とっ!?」
後ろから聞こえてくるマトイの声に振り返ることなく、脚を前後に180度開脚して体勢を低くする。
同時に背後から聞こえる射撃音、チャンスの頭上を何か通り過ぎる感触。マトイが撃ったマスケット銃の弾丸はバグベアードの右肩に命中し、銃創を作る。
「チャンスさん、足場をお願いします!!」
続いて聞こえてくるエリザベートの声と駆けてくる足音。チャンスはファルシオンを頭上で交差して十字型の足場を作る。
「ハッ!」
エリザベートが跳躍し、チャンスが作ったファルシオンの足場に飛び乗る。ずしっと両手に伝わる人の重さ。チャンスは歯を食いしばって持ち上げるように腕を伸ばす。
チャンスの足場を利用して更に跳躍したエリザベートはローブをはためかせて踵落としをバグベアードへと振り下ろそうとする。
マトイの銃撃を受けてよろめいていたバグベアードは踏鞴を踏みながらも左手の錆びたショートソードでエリザベートの脚を突き刺そうとする。
「させっかよ! ヒャッハー!!」
「バンザドッ!?」
兄のモヒが手斧の一本を投擲する。モヒが投げた斧はバグベアードが持っていた錆びたショートソードに命中して弾き飛ばす。
「ハァァァッ!!!」
エリザベートの踵落としがバグベアードの鎖骨に命中してゴキリと骨が砕け折れる音が響く。
「ババッ、パパンビンザベゼロリ、ヂズセビギデジャスッ!」
渾身の一撃を放ったエリザベートに向かって王酌を振り下ろそうとするバグベアード。
「おおっと、俺様を忘れちゃ困るぜぇ!!」
エリザベードとバグベアードの間に滑り込むモヒカン兄弟の弟、カン。横に構えた鋲付きの鈍器で王酌を受け止める。
カンの背後から飛び出す影……それは跳躍したチャンスだった。
「セリャァァァァ!!」
チャンスはファルシオンを投げて、柄に焼き付けられた鎖を握り締めて操る。
鎖はまるで意志を持った蛇のようにうねり、牙を突き立てるように左右からバグベアードの首に突き刺さる。
「ボボゼザデスドパ……ルベン……」
バグベアードは吐血しヒューヒューとファルシオンが刺さった部分から空気を漏らし、何か喋って崩れ落ちる。
「完全に死んだな……」
「バグベアードまでいる群れとはな……あの屋敷で財宝見つけてなきゃ、割に合わなかったぜ」
モヒカン兄弟が倒れたバグベアードの様子を見て完全に死んだことを確認して愚痴をこぼす。
「こいつらもいろいろ持ってるよ」
マトイが倒したオルグの死体を漁ると金銀財宝や装飾品が見つかり、思わず笑みがこぼれている。
「これは……今までここを探索した人が見つけてない場所がありそうですね……」
マトイが装飾品をはぎ取るのを見たエリザベートは未探索エリアが存在する可能性を口にする。
「まだオルグがいるかもしれませんし、少し休憩した後探索してみますか」
チャンスの提案に全員が頷く。
チャンス達は小休憩を取った後、領主の城を探索する。
城はオルグ達に荒らされ、かつては栄えたという歴史のかけらすら踏みにじられていた。
「みんな気を付けて、大穴があるよ」
地下貯蔵庫だったと思われる場所に足を踏み入れると、先行していたマトイが注意喚起する。
マトイがいる近くには床板が腐ってできた大穴があった。望郷の鏡に映し出された太陽光で大穴を照らすと、オルグやコボルトたちの死体があった。
「老朽化か腐っててオルグ達の重さで崩れ落ちたってとこかな?」
「おいみろよ、財宝だ!!」
マトイが穴を覗き込み、死体の様子から床が腐り落ちてオルグ達が転落死したのだろうと推測する。
その横からカンが穴を覗き見れば、穴の底はちょっとした部屋になっており、この城の領主の隠し金庫だったのだろうか、財宝が見えた。
「どうやらオルグ達はどっかの冒険者が忘れていったロープで降りてたみたいだな」
雑に結ばれた荒縄を手繰り寄せる兄のモヒ。しっかりとした結びに修正するとチャンス達は隠し部屋に降りる。
「一生遊べるほどじゃねえが、しばらくは贅沢できそうだな。おっしゃ、詰めるだけ詰めて撤収しようぜ!!」
無造作に宝物を鷲掴みして眺めてモヒが叫ぶ。チャンス達は自分たちが持ち運べる限界まで荷物袋に詰め込むと一旦遺跡で一夜を明かし、ホップ村へと戻る。
「冒険者が帰ってきたぞー!!」
村に続く小道をチャンス達が歩いていると、村の見張りがチャンス達の姿を確認したのか、見張りの一人が叫びながら村の中へと走り去る。
「無事でしたか……それでオルグは討伐できましたか?」
すぐに村長であるマレンゴがやってきて、チャンス達の姿を見るとホッと安堵の息をつき、オルグ達の行方を聞く。
「俺様達、冒険者に依頼出して正解だったぜ。バグベアードまでいやがった」
「バグッ!?」
モヒがオルグの王という異名を持つバグベアードの首を見せる。村長のマレンゴはバグベアードの名前を聞いて絶句し、口をパクパクさせる。
村長の後ろにいる村人たちはバグベアードについて知らないが、それでもモヒが持つバグベアードの生首の凶悪さに声を失い、子供たちは恐怖に泣く。
オルグだけでも被害が出ていたホップ村。もしベルグやバグベアードも村を襲っていたら抵抗など無意味に皆殺しされていただろう。
即座に冒険者ギルドに討伐依頼を送って正解だったとマレンゴは自分の判断を心の中で褒めていた。
チャンス達が村に戻ってきた日はオルグ討伐を祝う村祭りが催された。
のちに毎年この日に祭りが開かれることになり、オルグに扮した村人が家々を回り、親の言うことを聞かない子供を怖がらせ、冒険者に扮した村人が親の言うことを聞きよいこになることを約束させてオルグを追い払うという内容の祭りとなった。
後日チャンス達がホップ村の祭りの話を聞いた時、何がどうなってそうなったのか首をかしげていた。
          
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