記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第2話 それは最後の希望



「……誰か、来たよ」
「ダーヴィスさん、リマスさん、馬車の中に避難していてください」


焚き火の火の番をしていたマトイが森の暗闇を睨む。チャンスも背中のファルシオンを抜いて警戒しながら護衛対象であるダーヴィス達を馬車に避難させる。


「命が惜しければ荷物をよこせっ!」


森の暗闇から武装した農民の集団が現れる。それぞれの手に武器を持ち、威嚇する。

「悪いけど、手加減してやる道理がない。死んで」


マトイが錬成術でマスケット銃を作り出すと引き金を引く。
深夜の森に響く一発の銃声。銃声は一発しかしていないのに荷物を奪おうとした農民たちは全員体のどこかを撃たれて血を流し絶命して地に倒れていた。


装備を整えた、覚悟を決めた、だがそれでも、彼らは暴力の素人だ。彼ら素人が、暴力の玄人に勝てるはずがないのだ。


「さて、役立ってもらうぞ。死の女神エレナよ、仮初の命を彼らに与え下僕とせよ不死者創造クリエイト・アンデッド


農民をけしかけたローブ姿の人物は農民が全滅したというのに慌てた様子もない。
ローブの裾から拳大のブラックオニキスを取り出すとローブ姿の人物は呪文を唱える。
呪文を唱え終えるとブラックオニキスは溶けて黒い液体となり、ズルズルと農民たちの死体へと滑り進んでいく。



「マトイっ! 危ないっ!!」
「え?」


襲いかかってきた農民の生死を確認しようとマトイが死体に近づく。違和感を感じたチャンスがマトイに駆け寄る。


森の中から這うようにやってきた黒い液体が農民たちの死体の口や耳、鼻に侵入していく。
黒い液体が注入された死体は高速で腐敗し、白骨化し、スケルトンと呼ばれるアンデッドに変貌する。
スケルトンは起き上がると手に持っていった鋤や鎌などを一斉にマトイに向かって投げけてきた。


「やばっ!? 数がおおい!!」
「僕の目の前でっ! 誰も死なさせないっ!!」


雨嵐のようにマトイに向かって降り注ぐ鋤や鎌をチャンスはマトイの前に滑り込み、二刀のファルシオンで弾き落としていく。


「大丈夫?」
「うっ……うん、ありがとう」
「僕が突っ込むから……」
「私は後ろからね、了解」


チャンスがスケルトンの群れに突っ込む。二刀のファルシオンで縦横無尽にスケルトンたちを切り刻んでいく。
時には柄についている鎖を利用して投擲し、振り回し、手元に引き寄せて無双のような活躍でスケルトンたちを粉砕していく。
マトイはチャンスが撃ち漏らしたスケルトン達をマスケット銃で撃ち、ストック部分で殴って粉砕していく。


(凄く動きやすい……攻撃に集中できる)


マトイは全く防御を考えずに動いている自分に驚く。時折スケルトンがマトイを攻撃しようとするが全てチャンスが斬り払い、撃ち落とし、マトイのカバーリングに入る。


「ふむ……なるほど、なるほど……スケルトン程度では相手にならぬか……では――死の女神エレナよ、その黒き吐息を我が下僕に吹きかけよ。邪なる死の吐息の加護リジューヴェネイデヴ


遠くからチャンス達とスケルトンの戦闘を見ていたローブ姿の人物は新たな呪文を唱える。
破壊されたスケルトンの残骸に闇色の風がまとわりつき、スケルトン達を再生し、融合していく。


「なっ!?」
「スケルトン達が混じって巨大化していく……?」


マトイとチャンスの前には破壊されたはずのスケルトン達が逆再生のように復活し、他のスケルトン達と合体融合し、巨大化していく。


「拒絶反応、現在なし。やはり、同郷の者の魂は原風景も近しく【混ざり】やすい。ああ、いい実験成果だ」


ローブ姿の人物は巨大化したスケルトンを確認すると満足そうに頷き、立ち去る。
チャンス達を襲撃した農民達は気付いていないだけで、実は最初から死んでいた。
ローブ姿の人物がその力で全滅させた村の死体の中から、厳正に選別した。
家族を救いたい、守りたい、助かりたい、近しい理由を持つ死者の魂を、更に揺さぶった。


同じ罪を背負わせた。同じ願いを肥大させた。
その結果、『境』がなくなったのだ――同じ妄執を持った群体と化した。
境を失った死霊は、ひとつとなった――その結果が、アレだ。
死者の魂を弄ぶ死霊術師――彼らが禁呪の使い手として迫害されたのは、決して理由がない訳ではない。


巨大化したスケルトンはその拳を振り下ろす。チャンスとマトイはその場から飛び退いて回避する。
巨大スケルトンの拳はそのまま大地を殴り、地響きと土煙を上げる。
土煙が晴れれば巨大スケルトンが殴った地面にはクレーターが出来ていた。


「ひいいいいっ!! 太陽の女神アルテナ様どうかお助けをおおお!!」


地響きを感じて馬車の荷台の隙間から様子を伺った御者のリマスが巨大なスケルトンを見て悲鳴を上げる。


「殴っただけであれほどとは……」
「チャンス、なんとか時間を稼いで!」


マトイは切り札があるのかチャンスに時間を稼ぐようにお願いをする。
だが、巨大スケルトンはマトイの声が聞こえていたのか、攻撃をマトイに集中する。


「!? マトイッ!!」
「だめっ、チャンスこっちに来ちゃ……」


チャンスはマトイに向かう巨大スケルトンの拳を無謀にもファルシオンを交差させて防御しようとする。


「あ……れ……?」


衝撃がして、激痛がして――気付いたら、チャンスの目の前に一杯の夜空が広がっていた。


「チャンス!!」


マトイの声に気づいてチャンスが視界を下ろせば、チャンスは巨大スケルトンに握られて、振り上げられたのだと気付いた。


「が、は……!?」


次の瞬間、チャンスを掴んでいた巨大スケルトンの腕が振り下ろされ、チャンスの背中に強い衝撃と激痛が走る。


「この……!」


マトイがマスケット銃で巨大スケルトンを攻撃し続ける。


チャンスは逃げて、と叫ぼうとしたが声にならない。口を開けば血が噴き出すだけだった。


(諦めてたまるか……もう……もう、僕は、目の前で何もできないまま、大切なものを失いたくないっ!!)


薄れいく意識の中、チャンスの瞼の裏に映ったのはチャンスに向かって祈りを捧げる一人の女性。黄金の天使の輪を浮かべ、太陽のような輝きを持つ光の髪、漆黒の翼を持つ女性だった。


【業怒の時が来た。大いなる業怒は激怒の時。大いなる激怒は憤怒の時。汝、目覚めの時が来た。我、汝を導かん。汝の業怒を解き放て! 汝の名は最後の希望ラスト・チャンスなりっ!!】


チャンスに向かって祈りを捧げる女性がそう述べるとチャンスの体の奥底から力が沸いてくる。


「うおおおおおおおお!!!」
「チャンスっ!?」


雄叫びと同時にチャンスが持っていた二本のファルシオンから炎が吹き出す。
チャンスが炎が吹き出すファルシオンを振るう。チャンスを掴んでいた巨大スケルトンの腕が一瞬で炭化し、崩れ落ちる。


巨大スケルトンが残った腕でチャンスを殴り飛ばそうとする。
チャンスは回避する素振りも見せず、炎が吹き出すファルシオンを上段に構える。


「おおおおおおおっ!!」


二本の炎が吹き出すファルシオンをチャンスは振り下ろす。巨大スケルトンはチャンスを殴ろうとした拳から罅が入り、罅はそのまま拳から腕、腕から頭部、頭部から体全体へと広がっていき、罅から炎が吹き出し巨大スケルトンを包み込み、灰へと変えていった。



「うあああああ――あ? いだだだだっ!?」
「起きた!?」
「みたいだね、大丈夫かい?」


チャンスは雄叫びをあげながら起き上がり、全身に走る激痛に悲鳴を上げる。
荷台で横になっていたマトイはその雄叫びを聞いて起き上がる。
御者席にいたダーヴィスも荷台の方に顔を向けて起きたチャンスに声をかける。


「あ、ああ? ……あんまり……?」


チャンスは激痛に苦しみながらもなんとか答える。


「チャンス、あの力は何? あの巨大スケルトンを倒した力。どう考えても、普通じゃなかったけど……」
「そ、れは、僕もよくわかんなくて、憶えてなくて……?」


マトイはずずずいっとチャンスに自分の顔を近づけて、巨大スケルトンを倒した時の力について聞く。
チャンスはマトイの吐息すら感じる距離にドキドキしながらも、その力がなんなのか分からずにいた。


「まあまあ、彼は病み上がりだ。とにかく彼の力のおかげで助かったんだ。今はゆっくり休ませてあげようじゃないか」
「旦那様、マレルの街が見えてきました」


ダーヴィスがマトイを諌めていると御者をやっているリマスが叫ぶ、リマスが指を指す方向には城壁に囲まれた街が見えていた。


「最初の目的地になんとかたどり着けたようだね。宿を取ってゆっくり英気を養おうじゃなか」




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