ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

闇に潜む者

 大部屋から出た僕達は、ウィーグレン達と共に第1階層の最深部を目指していた。
 相変わらず、変わり映えのしない土壁の通路が続いている。
 今までと変わらない通路だが、今回は20人ほどの大人数で進んでいく。

 僕達のパーティは、ウィーグレン達の後方を歩いていた。
 ふと、前方の方から声が聞こえてくる。

「カーティス、他の奴隷を率いて前方の警戒を頼む。俺は後ろにいる」

「はっ!」

 少し歩くと、ウィーグレンが僕達を待っていた。

「来たか……」

 ウィーグレンは、そうつぶやいて僕達を一瞥する。
 そのまま僕の方を向いて口を開く。

「改めて礼を言う。さっきは助かった。……それと、名乗りもせずにすまなかったな。俺の名はウィーグレンだ」

 ウィーグレンはばつの悪そうな顔でそう言う。

 そういえば、名前はリューク達から聞いていただけで、ウィーグレン本人からは名乗ってもらってなかったな……
 僕も名乗っておこう。

「気にしてないから大丈夫だよ。僕の名前はルシエル。こっちはパーティメンバーのリーチェで、リーチェが抱いているのがアステルだ」

「私がリーチェよ。よろしくね」

「ああ。よろしく頼む。こっちがアステルか……まだ幼体のようだが、なんで連れてきたんだ? 戦えるのか?」

「経験を積むために連れてきたんだよ。……寝てばっかだけどね」

 そんな感じで、僕とリーチェとウィーグレンが改めて顔合わせをした。
 あとアステルも。

 こう話してみると、ウィーグレンって意外と律儀なやつなのかもしれないな。
 リュークとリューネとは、過去に何かあったみたいだけど……
 お互いに嫌ってるわけではなさそうだし、関係を修復できるなら修復してあげたいところだ。

 そう考えた僕は、リュークとリューネへと顔を向ける。
 僕の動作につられて、ウィーグレンもリュークとリューネへと顔を向けた。
 3人は少し気まずそうな顔をする。

「……後は、知っているだろうけど、パーティメンバーのリュークとリューネだ」

「ああ。よく知っている」

 ウィーグレンはリュークとリューネの前へと歩み寄る。
 僕とリーチェは少し離れてその様子を見守る。

「リューク……」

「……ウィーグレン」

 リュークとウィーグレンは、顔を見合わせたまま沈黙する。
 言葉を選んでいるようにも見えた。
 その様子をリューネは心配そうに見つめる。

 そのまま数十秒ほど時間が経つ。
 リュークとウィーグレン、先に口を開いたのはウィーグレンだった。

「リューク、お前……強くなったんだな」

 リュークは目を丸くしてウィーグレンを見る。

「……ああ! リーダーと一緒に特訓してるんだ」

「そうか……ふん。だが、まだまだだ。俺の方が強い」

「わかってるさ。……だけど、いつかは超える!」

「ああ。やってみろ。そう簡単には抜かせんからな」

 そうして睨み合った後、2人は笑った。

 まだぎこちない感じもするが、ちょっとは関係を修復できたのかな?
 なんで仲が悪くなったのかも気になるけど……
 後で聞いてみよう。

「リューネにも助けられたな。やはり、俺はお前が欲しい!」

「えっ……そ、それはちょっと……」

「だが、まだ俺は弱い! もっと強くなったときにお前を迎えに行く! だからそれまで待っていてくれ!」

 食い気味のウィーグレンは、戸惑っているリューネの手を握った。
 だが、そこにリュークが割り込む。

「だから、お前にはリューネをやらんって言ってるだろ!」

 僕の横でリーチェがクスリと笑う。

「ふふっ。賑やかになったわね」

「そうだね」

「でも、そろそろ進んだ方がいいんじゃないかしら?」

「えっ?」

 リーチェの視線の先を見てみると、ウィーグレンの奴隷達がチラチラとこちらを見ていた。
 距離もだいぶ離れてしまっているようで、不安そうな顔をしている。

「置いていかれてるじゃないか! ほら、みんな行くよ!」

「了解!」

「わかりました!」

「……ああ!」

 こうして、僕達はウィーグレンと共に歩み出した。

▽▽▽

 しばらく歩いた後、銀の装飾が施された豪華な扉の前へとたどり着いた。
 ウィーグレンによると、この扉の向こうが第1階層の最奥の部屋らしい。

「それにしても最奥の部屋か……適当に進んでたのにちゃんと着いたんだね」

 曲がり道を少し進んで行き止まりということは何度かあったが、大きく引き返すということはなかった。
 ウィーグレン達とも合流できたし、かなりラッキーだったのかもしれない。

 そんな僕のつぶやきが聞こえたのか、ウィーグレンが口を開く。

「それは、ここがそういう特性になっているからだ。このダンジョンは中間地点である各休憩部屋までは道が分散して、各休憩部屋以降は最奥の部屋へと収束するようになっている」

 そうなのか……
 だとすると、各階層の前半では他の冒険者と遭遇しにくくて、後半では遭遇しやすくなるってことなのか?
 それで、僕達とウィーグレン達が合流できたのかもしれない。
 悲鳴が聞こえたのが一番大きいと思うけど。

「そういえば、ウィーグレン達って扉の隙間に剣を挟んでいたよね? あれっていざという時の助けを呼ぶためにやってるの? よく思いついたよね」

 僕はそう言ってウィーグレンを称賛した。
 しかし、ウィーグレンは首をかしげる。

「扉に剣を挟む? 何を言ってるんだ? そんなことしてないし、させてもいないぞ?」

 えっ? でも、挟まってたよな?
 あれのおかげでウィーグレン達に気付いたんだし……

「ウィーグレン達は関わっていないの? この剣なんだけど……」

 僕はこっそりとインベントリに入れていた剣を取り出す。
 ウィーグレンは、剣をまじまじと見るが、首を横に振った。

「……俺が買っていない剣だ。他の冒険者の物だと思う」

「そうなんだ……もしかしたらだけど、他の冒険者が目印として扉を開けてたのかもしれないね」

「ふむ。だとしたら、その冒険者には感謝しなければな。そのおかげで俺達が助かったのだから」

「そうだね……」

 入ってきた方向がわかるようにいらない剣を刺した?
 でも、それだとわざわざ剣を使う意味もないよな。
 扉を開けたままにせず、ただ剣を置いておけばいいだけだし……

 僕ならどういうときに扉を開けたままにするだろう?
 扉が閉まって部屋から出れなくなるとか、今回のようにのぞき見したり、助けを呼びたいときかな……?
 それとも、やはりあの部屋には何かあったのか?
 ウロボロスも関わっている可能性もあるし、色々とわからないことだらけだ。

 僕が考え込んでいると、リュークがそばに寄ってくる。

「リーダー、先に進まないんですか?」

 リュークが進むことを催促しにきた。
 どうやらみんなを待たせていたらしい。

「あっ、ごめん。行こうか」

 こうして、僕達は第1階層の最奥の部屋へと足を踏み入れたのであった。

▽▽▽

 第1階層の休憩部屋から少し離れた通路。
 照明の結晶も存在しない場所で、真っ暗な闇が広がっている。

 そこには、1人の男が潜んでいた。
 黒い外套を纏い、深くまでフードを被って顔を隠している男。
 その男の前の空間が裂け、声が聞こえてくる。

「話しても大丈夫かしら?」

「エキドナか……人避けは済んでいる。大丈夫だよ」

「ダメだったとは思うけど、一応聞いておくわ。対象はどうなったのかしら?」

「……対象には逃げられたね。残されたゴブリンは一掃されている」

「そう……楽な依頼だと思って油断したわね。まさかフェアリープリンセスが来るなんて……」

「作戦は失敗したけどどうする?」

「そうね。依頼の期限……火竜公が死ぬまでにはまだ日もあるし、また機会をうかがうことにするわ。作戦が決まったらあなたにも連絡するわ」

「わかった。気長に待ってるよ」

「ふふふ。案外すぐに働いてもらうことになるかもしれないわよ?……じゃあまたね。シェード」

「しばらく働きたくないよ。……またね」

 その言葉を最後に空間の裂け目が消滅する。
 それを見送った後、犬の獣人の男、シェードは溜息をつく。

「はぁ……アレスの甥っ子が関わるなんてね。できればこれ以上は関わってほしくないなぁ……まあ、ウィーグレンを救ってくれたことは感謝してるけど」

 シェードは手に持っていた剣の鞘を捨てた。

「さて、休憩時間も終わりだし、そろそろギルドに戻らないとね」

 ……そうして、その場所からは誰もいなくなった。
 地面に捨てられた剣の鞘も、長い時間を掛けて、跡形もなくダンジョンへと吸収されるのであった。

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