ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

初めての冒険者ギルド

 冒険者ギルド。
 それは、数多くの冒険者達が集い、活動の拠点となる場所である。

 今日もまた誰かがクエストを受注したり、報告したり、受付嬢にちょっかいを出したりしている。
 竜王国ドラグヘイムの冒険者ギルドは、規模が大きく質も高いと言われているらしい。
 様々な国の高ランク冒険者が、ダンジョン目当てで訪れるためそうしているのだ。
 このギルドでは、酒場はもちろんのこと、アイテム販売所、素材買取所、鑑定所、治療所、資料室なども完備してある。
 ショッピングモールみたいな感じにも見える。
 おそらく、この規模の冒険者ギルドは、ここ以外にはないだろう。

「おお……」

 僕は、そんな冒険者ギルドを見て、つい感嘆の声をもらしてしまう。
 いろんな装備をしたいろんな種族が目に入る。
 まるで、MMORPGで大勢のプレイヤーが集まっているかような光景だ。

 すごい!
 猫耳や狐耳の獣人もいるし、エルフやドワーフなんかもちらほら見える。
 装備している武器も、エクスカリバーとかグラムとか、そんな名前が似合いそうなカッコいい武器ばかりだ。

「坊ちゃん、そこで立ち止まっていると、他の人にぶつかってしまいますよ。こちらへどうぞ」

「あっ、ごめん。すぐ行くよ」

 つい見過ぎてしまっていた。
 僕は急いでバロンとリーチェのもとに向かう。
 ちなみに、お腹がいっぱいになったアステルは、リーチェに抱っこされて寝ている。

 ドンッ!

「きゃっ!」

「うわっ!」

 移動した拍子に誰かとぶつかってしまった。
 こちらはよろめいただけだったが、相手は尻もちをついてしまう。

「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

 僕は、尻もちをついた女性に手を差し伸べる。
 その女性は、頭にねじれた角があった。
 茶色の長い髪を後ろで束ねていて、ほんわかとした顔をしている。
 落ち着いた感じの竜人のお姉さんというイメージだ。

「こちらこそごめんなさい……少しよそ見をしていました」

 彼女は僕の手を取り、体を起こす。
 彼女の身長は僕よりもずっと高く、まさに大人と子供って感じだ。
 もしかして、身長差で視界に入らなかったとか……?

 僕がぶつかったことに気付いたバロン達がこちらに寄って来る。

「坊ちゃん、大丈夫ですか? ……ぶつかってしまい申し訳ありません。お怪我はございませんか?」

 そう言って、バロンが頭を下げた。

「いえいえ! 大丈夫ですから、頭をあげてください!」

「ご無事のようで何よりです。……坊ちゃん、見学するのもいいですが、あまり離れないようにお願いします」

「ごめん」

 僕は素直に頭を下げる。
 ちょっと浮かれすぎてた。
 反省。

「あの。もしかして、冒険者ギルドへの依頼、登録をご希望でしょうか?」

 僕とバロンが話していると、ぶつかったお姉さんが声をかけてきた。

「ええ。今から坊ちゃんとお嬢様の登録をしようかと思っておりました」

 バロンがそう言うと、お姉さんが姿勢を正す。

「では、私が対応致しますね。……あっ、申し遅れました。私はギルド職員のマリーダと申します」

 僕がぶつかった人は、ギルド職員のお姉さんだったようだ。
 僕達は軽く自己紹介をした後、冒険者登録用の受付へと向かった。

「冒険者のご登録をするのは、ルシエル君とリーチェちゃんの2人ですね?」

 僕とリーチェは、マリーダさんに頷く。

「新規登録時は、レベルに応じてランクを上げられますが、どうなさいますか? ……ステータスボードの確認が、必須となってしまいますが……」

 そうなのか!
 僕のレベルは28だ。
 もしかしたら、そこそこランクアップできるかもしれない。
 そしたら、いい感じのスタートダッシュが切れるぞ!

 ……ってよく考えたら、だめじゃないかぁぁぁ!
 リーチェがレベル100だった!
 そんなリーチェのぶっ壊れステータスを見せることはできない。
 目をつけられることになる。

「い、いえ、初心から学びたいと思っているので、最低ランクからでお願いします!」

 僕が苦し紛れにそう言うと、マリーダさんは目を丸くした。

「それはとてもいい考えですね! 少し心配してたのですが、それを聞いて安心しました。ルーキーは最初に突っ走って大怪我をすることが多いんですよね……」

 微笑んだマリーダさんが、僕を褒めてくれた。
 リーチェはジト目で僕を見てくる。
 僕の考えてたことはお見通しのようだ。

「ははは……」

 ごめんなさい。
 スタートダッシュして突っ走ろうとしてました……
 マリーダさんの笑顔が心に刺さる。

「では、こちらが仮の冒険者カードとなります」

 僕とリーチェは、マリーダさんから1枚のカードを受け取る。
 このカードは金属の板でできているみたいだ。
 カードには、僕の名前だけが書かれていた。

 あれ? 冒険者ランクが書かれていない……

「そのカードは仮なので、まだ冒険者ランクもついていません。冒険者見習いということですね。初心者講習を受けることで、冒険者ランクがGとなります」

 なるほど。
 最初に講習があるのか……
 今まで冒険者のことをあまり知らなかったからちょうどいいな。

「一番早い初心者講習は、明日の午後からですが、参加されますか?」

 バロンのほうを見たら、頷いてくれたので参加しようと思う。

「はい! 参加します!」

「では、参加申請を出しておきますね。明日の午後ちょうどまでにギルドの受付までお越しください」

「わかりました!」

「わかったわ」

「以上で仮登録の手続きは完了となります。登録費は……」

「登録費は私が……」

 バロンが支払いを済ませてくれた。
 そのお値段、2人合わせて2万ゴールド。
 円に直すと20万円、1人10万円だ……
 高い気もするが、これは登録費だけでなく施設の利用費も含まれているらしい。

「ご利用ありがとうございました。また明日お会いしましょうね」

「はい!」

 そうして、僕達は受付を離れて、ギルド内を探索するのであった。

▽▽▽

 ある程度ギルド内を物色した。
 酒場、アイテム販売所、素材買取所、鑑定所、治療所、資料室を見て回った。

 資料室では、ダンジョンの情報やドラグヘイムで生息している魔物達の情報、それ以外にも様々な資料が保管されていたので、時間が取れたら調べにこようと思う。

 そうして、冒険者ギルドを一通り見学して、そろそろ帰ろうかなというところで、1人の竜人の男が近寄ってきた。
 その男の背後には、男女が数人ついてきている。
 おそらく、この人達はパーティを組んでいるのだろう。

 なんかめんどくさい感じがする。
 冒険者ギルドで新人が絡まれるというやつか?

 そう思っていると、その男はリーチェの目の前で止まった。

「そこの美しいお嬢さん。どうでしょう、私のパーティに入りませんか?」

 どうやら勧誘……いや、ナンパか?
 新人いびりじゃなくてよかった……
 リーチェは気品ある美少女って感じがするし、ナンパされるのも仕方ないか。
 どうせ、リーチェは断るだろう。

「あら? 何も知らない相手をいきなり勧誘とは失礼ではなくて?」

 いきなり勧誘されたリーチェは少し不機嫌になる。
 まあ、顔だけでパーティに入れたいって判断したように見えるしそうなるよね……

 リーチェがそう言うと、男は慌てたように取り繕う。

「こ、これは失礼しました。私はキースと申します。先ほど冒険者登録していたようなので、声をかけさせて頂きました」

「キースは今年期待のルーキーと言われてる有望株なんだぜ? パーティに入るのも悪くないと思うぜ?」

 キースの仲間の男がそうフォローを入れた。

 へえ……
 このキースっていう竜人は、期待のルーキーって言われてるのか。
 一体どんな戦いをするんだろう?

「ふーん。でも、期待のルーキーと言っても所詮はルーキー。……あなた達は駆け出しなのでしょう?」

 リーチェの言葉には少し棘があった。
 キースとその仲間達が少しむっとしているようだった。

 あの、できるだけ穏便にお願いします……

「駆け出しと言っても、冒険者ランクはDです。レベルも30を超えているのでね」

 むっとしていたキースは、ぎこちなく微笑んだ。

「そうだぜ! 俺達も同じだ! 仮の冒険者カードの見習いとは違うんだぜ?」

 キースの仲間は僕を見下すように笑う。

 あれ? なんで僕が対象になるの?
 なんか、ちょっとイラッと来るなぁ……
 まあ、リーチェが適当に断って終わりだろう。
 リーチェさん、適当に切り上げてください。

「そうかしら? あなたが見下している仮の冒険者の方が、あなた達よりも強そうだけれど?」

 しかし、リーチェは油を注ぐ。
 リーチェの不機嫌さも増している。

「ちょっ!」

 何言ってんの?!
 僕を見る目も鋭くなってきてるんだけど……!

「はっ? そこの従者がか?」

 ん? 従者って僕のこと?

「あら? わからないのかしら?」

 キースの仲間達はイライラし始めてきた。

「その従者よりも弱いから、パーティに入るつもりはないと?」

「そうね。逆に聞くけれど、わざわざ今よりも弱くて全く知らないパーティに入る意味ってあるのかしら?」

「では、その従者と私が戦って、私が勝てばパーティに入ってもらっても?」

「もし勝てたら考えてもいいわよ? ないとは思うけどね」

「えっ?!」

 なんでじゃあぁぁぁ!
 リーチェも機嫌悪いのはわかるけど、そこまで言わなくてもいいでしょ!
 キース達も1回断られたんだから、諦めてくれよ!

 僕はバロンを見て仲裁してもらおうとするが、バロンは期待した目で傍観していた。

 バロンッ! 止めてくれよ!

「いいじゃねえか! じゃあ今から訓練場に行こうぜ!」

「そこまで言ったんだから逃げねえよな?」

「この弱そうな従者が俺達に勝てんの? 一発殴っただけで気絶しそうだぜ?」

 キースの仲間達が僕にそう言ってくる。

「本当にいいんですね?」

「ええ。時間も勿体無いし、早く行きましょう?」

 キースが確認するも、リーチェは即答する。

「ちょ、ちょっと、リーチェ! なんで僕が戦うのさ! この勝負で僕が勝っても特にメリットないじゃないか!」

 僕がそう言うと、キース達が睨みつけてくる。

 え? 対価を求めたらダメなの?

「そうね。なら、あなたが勝ったら今日も一緒に寝てあげるわ」

 えっ? 急に何言ってるの?
 こんなときにそんな冗談言ってる場合じゃ……

ってことは、何度か一緒に寝てるのか?」

「破廉恥な! 従者のくせにけしからん! 私は一切容赦せんからな! さあ行くぞ!」

 キース達の僕に対しての怒りは募っていく。

 なんか、最近僕の扱いひどくないかな?
 もしかして、何か呪われてる?

 そうして、僕達は訓練場まで連れていかれるのだった。
 周囲で聞いていたギャラリーを引き連れて……

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