ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

報告と考察

「……ちゃん……坊ちゃん」

 声が聞こえる。

「坊ちゃん。屋敷に到着しましたよ」

 声とともに僕の体が揺さぶられる。

「ふあぁぁぁ……屋敷……?」

「そうです。ガレアス様の屋敷に到着しました」

 まぶたを開くとバロンが僕を目の前にいる。
 だんだんと意識がはっきりとしてくる。
 そうか、祝福の儀から帰ってた途中だったんだ。

「わかった。降りるよ」

 そうして僕たちは馬車から降りる。

「では、また用があればご贔屓に」

「ええ。またよろしくお願いします」

 御者のおじさんとバロンのやり取りを横目で見ながら、僕は屋敷を見渡す。

 ルシエルの記憶で知ってたけど、やっぱ実際に見ると迫力があるなぁ……

 僕が今立っている屋敷の門からは、広くてよく手入れされた中庭が見える。
 その中庭の向こうには、お爺様や他の家族がいる本館と僕や他の兄弟、使用人が寝泊まりする2つの別館がある。

 今になって思うけど広い屋敷だなぁ。
 前世の小学校ぐらいはあるんじゃないか?

「坊ちゃん。お疲れでしょうが、ガレアス様のもとへと報告しに行きましょう」

「……うん。わかった」

 僕はバロンに連れられて屋敷の中へと歩いて行く。
 御者のおじさんは既に帰っていたみたいだった。

▽▽▽

 はぁ……緊張するなぁ……
 現在、僕はバロンと共にお爺様の執務室の前にいた。

 コンコンコン……

 バロンが扉を軽くノックする。

「ガレアス様、バロンでございます。ルシエル様が祝福の儀の報告に参りました」

「入れ」

 ドアの向こうから低く渋い声が聞こえてきた。

 ガチャ。
 バロンが扉を開き、中に入るよう僕に促す。

 「失礼します……」

 僕はお爺様の執務室の中へと入る。

 中に入るとまずお爺様が見えた。
 お爺様は、茶髪をオールバックにしているちょっとコワモテのお爺さんだ。
 お爺さんといっても、まだまだ現役の騎士に引けは取らないらしいけど。
 僕はよく騎士の訓練で絞られるから、少し苦手意識がある。

 執務室の中を見渡すと、お爺様以外にもう1人いた。

 茶髪のソフトモヒカンで、体育の先生でいそうな男性。
 この人はアレス・クリステーレ。
 亡くなった僕の父の兄だ。
 僕はアレスおじさんと呼んでいる。
 長男のアレスおじさんは次期当主として、お爺様から仕事を教わっているんだそうだ。

「おっ、ルシエルか。祝福の儀はどうだった? ちゃんと女神様にお礼言ってきたか?」

 アレスおじさんが、笑いながら僕に聞いてくる。

「はい! ちゃんとお礼言いました!」

 アレスおじさんがいると場が明るくなるから、一緒にいてくれて助かった。
 お爺様だけだと怖くて話しづらいし……

「そうか! 偉いぞ!」

 そう言いながらアレスおじさんが僕の頭を撫でる。

「それで祝福の儀でなんのジョブを授かったのだ? ステータスボードを見せてみろ」

 お爺様が僕に問う。

 ステータスボード?

 僕がわかってなさそうな顔から判断したのか、アレスおじさんが教えてくれる。

「魔力を込めてステータスボードと唱えると、ステータスが書かれた板を出すことができるんだ。ステータスボード! ほらこんな感じで」

 僕がさっきメニューで見ていたようなウインドウが、アレスおじさんの前に出てくる。
 アレスおじさんは、指でウインドウをくるっと回して僕の方に向ける。

アレス・クリステーレ
レベル:57
ジョブ:ガードナイト
メインスキル:
「槍術Lv5」「盾術Lv3」
「肉体強化Lv4」「反撃Lv3」「鼓舞Lv2」

 ほう……
 アレスおじさんは、守り中心の前衛なんだな。
 スキルも相性がいいものが揃っている。
 ん? ガードナイト?
 そんなジョブあったっけ?

「俺のステータスが見えるか? このステータスボードは祝福の儀を受けると使えるようになるんだ。街を通る時とかの身分証明にもなるから覚えておくんだぞ。一応、レベルとかスキルとかを隠せるようになっているから、信用できるやつ以外には隠して見せた方がいいぞ」

「はい。わかりました」

 ステータスを見せることができるのか。
 とりあえず、サブスキルは見せない方がいいな。
 身分証明書になるってことは、結構使う機会もありそうだしちゃんと覚えておこう。

「ステータスボード消す時は、もう一回魔力を込めてステータスボードと唱えると消えるからな。ステータスボード! こんな風に」

 アレスおじさんの前からステータスボードが消えた。

「という感じで、ルシエルもステータスボードを出して見てくれ」

「わかりました。やってみます」

 サブスキルは非表示で……

「ステータスボード!」

ルシエル・クリステーレ
レベル:1
ジョブ:ドラゴンテイマー
メインスキル:
なし

 僕のステータスボードが表示される。
 お爺様とアレスおじさん、それと背後に控えていたバロンが、僕のステータスボードを見て呆然としている。

 まあ、ドラゴンテイマーなんて最上位のジョブはそう見ないから驚くのも無理はないけど……
 少し驚き過ぎじゃないかな?

「ドラゴン……テイマー? テイマー系のジョブだと思うけど。初めて聞くジョブだな。てっきりルシエルは騎士系のジョブになると思っていたんだが……」

「私も聞いたことがありませんね。テイマー系列のジョブだということは確かでしょう……ゴブリンテイマーという似たようなジョブは知っておりますが」

「ゴブリンテイマーか……聞いたことはあるが、あまりいい思い出はないな。確かゴブリン系統の魔物のみを使役することができるんだったな。……つまりドラゴンテイマーだと、ドラゴン系統の魔物のみを使役できるようになるのか」

「おそらくはそうかと。ただドラゴン系統のみとなると……」

 アレスおじさんとバロンが、ドラゴンテイマーのジョブについて考察していく。
 どちらの表情も暗い。

 あれ? もしかしてあんまり良くない感じ?

 ここでお爺様が口を開く。

「アレス、バロン、ここ数十年でドラゴンの目撃情報はあったか? ワイバーンでも構わん」

「いや。聞いたことがないな」

「私もです」

「そうか……つまり、ルシエルが唯一使役できる魔物は、この国では目撃されておらんということだな……」

 さらに重い空気になった。

「ドラゴンについては置いておこう。……ルシエルよ。お主、去年テイマー達が起こした事件を知っておるか?」

「父上! それは!」

 執務室にアレスおじさんの大きな声が響く。

「アレスよ。少し黙っておれ」

「うっ……!」

 アレスおじさんが話しを止めようしたが、お爺様はひと睨みで黙らせてしまった。

 僕は首を横に振る。

「ではその事件について話そう。あるテイマーの家系の者がより強力な魔物を使役する為にデーモンを召喚したのだ。倒せもせんのにな……召喚されたデーモンは召喚主、屋敷の者達、街の住民達を喰らった。そこで聖騎士団が到着し、デーモンの討伐に成功した。その後、そのテイマーの家系は生き残りを含めて重い刑が下されることとなった」

お爺様はそこで一息つく。

「だが、ここからが問題だったのだ。刑を恐れたその者達は王都への反乱を起こし、国外への逃亡を図った。反乱はどうにか鎮圧でき、反乱者も皆裁かれたのだが、その反乱によって出た犠牲は多大だった。……お主の父、ルーシェンもその反乱で民を守って死んだのだ」

「え?」

 父様は魔物の氾濫スタンピードで死んだんじゃないのか?

 お爺様は話を続ける。

「この事件のついて、世間では魔物の氾濫スタンピードとして誤魔化しているが、本当はテイマー達が起こした事件だと貴族や騎士達は知っておる。……この国でのテイマーの印象は盗賊と並んで最悪だ。ましてや、お主の父はテイマーによって殺されたも同然。それでもお主はテイマーとしてやっていけるか?」

「そ、それは……」

 僕は答えに詰まってしまう。

 お爺様の話を聞いたが、まだ考えが追いつかない。
 テイマーは……ドラゴンテイマーはダメなのか?
 それじゃあ僕は一体どうしたらいいんだ?

「父上、ルシエルも混乱しています。ルシエルが落ち着いてからまた話しましょう」

「そうだな……ルシエルよ。また明日、お主の今後についてを話そう。バロンよ。ルシエルを任せたぞ」

「かしこまりました」

「……はい」

 僕は力なく返事をした後、バロンに連れられて部屋へと戻るのであった。

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