ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

これから目指す先

「ん……まぶしっ!」

 異世界生活2日目、僕は窓から差し込む光に照らされて目を覚ました。

 カーテンで遮ろうにも、ベットから窓まで少し距離がある。
 まだ寝ていたいしできるだけ動きたくはない。
 そう思って僕は、窓に背を向けるように寝返りをうつ。

 ぱふっ。

 僕の顔が何か柔らかいものに当たる。
 さっきの眩しさの影響で、まだ目を開くことができない。
 手を動かしてその何かを探ると柔らかいものが2つ。
 しかも何かの花ようないい匂いもする。

 ベットの上……寝ぼける……いい匂いがする……柔らかいものが2つ……

 ん? このお約束の展開はまさかっ……!

 ハッとして、慌てて目を開けるも時すでに遅し。
 リーチェの赤い瞳がジッと僕を見ていた。

「おはよう。……で、いつまで触ってるのかしら!」

「ひたい! ひたいってば! ごうぇんなあい!」

 僕が謝罪を聞いてリーチェが手を離す。

「……そもそも、なんでリーチェが僕のベットに?」

「あら? あなたがベットを半分ずつ使って寝ようと言ったのよ?」

 あれ? そんなこと言ったっけ?
 あの後は安心してすぐ寝たような気がするんだけど覚えてないや。
 もしかしたら言ってたのかもしれない。

「もしかして床で寝たほうがよかったのかしら?」

「いや、女の子を床で寝かせて僕だけベットで寝るなんて出来ないよ! 全然寝てくれていいから!」

「そう。なら良かったわ」

 そう言ってリーチェは、にやりと笑みを浮かべる。

 もしかして嵌められた?
 このまま弄られるのも癪なので、話を変えるためにも疑問に思っていたことを聞くことにする。

「ところで、リーチェってどうやって異次元牧場から出てきてたの? 全然気付かなかったんだけど」

 僕の質問にリーチェは顔をしかめる。

「……実はというと、私は祝福の儀であなたが気を失っているときに召喚されていたの」

「え? それって女神様がいた時だよね? 僕のすぐ近くにいたの?」

「ええ……あなたが起きるまで女神様と話していたんだけど、あなたが起きたときについ隠れちゃって……」

 僕の前世の記憶が戻ったタイミングで、リーチェも召喚されていたということか……

「それで出づらくなってしまったと?」

「……そうよ。出るタイミングを見計らってたら、もう夜になってたのよ。もういっそのことこのまま隠れていようかと考えていたんだけど、あなたが落ち込んでるのを見たらつい出てしまったわ」

 クスっと笑うリーチェ。
 それを見てついドキッとしてしまう。
 隠れたままでいようと思ってたことは置いておいて、僕のことを心配してくれて出てきてくれたんだな……

「リーチェ、改めて昨日はありがとうね……」

「ふふっ。いいのよ。私が好きにしただけなんだから。それよりも昨日言った通り、私は基本的に手助けしないから、ドラゴンテイマーとして力を磨くのよ?」

 あれは冗談じゃなかったのか……

「わかったよ。もし危なかったらよろしくね」

「ええ。任せてお……」

 コンコンコン。

 リーチェの声にかぶさるように扉をノックする音が鳴る。

 僕とリーチェは目を合わせて頷く。

「坊ちゃん。起きていますか?朝食の準備ができましたよ」

 扉が開いて部屋にバロンが入ってくる。

「起きてるよバロン。おはよう」

 僕はベットから出てバロンの方へと向かう。
 このとき既にリーチェは姿を消している。

「おはようございます。坊ちゃん、気分はどうですか?」

 多分、昨日の報告のことを気にしているんだろうな……

「もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう! 今から着替えて食堂に行くよ」

「……かしこまりました。ではそのように伝えてきます」

 バロンはまだ少し心配しているようだったが、そのまま部屋から出て行った。

 それを見届けた僕は、急いで着替る。

「身を守る装飾品を着けておいたら? あのいつも着けてたネックレスなら服の上からでも見えないと思うわ」

 リーチェの声が聞こえてくる。
 声が聞こえた場所は僕のすぐ隣。

 装飾品?
 ああ、インベントリに入ってる僕の装備のことか。
 確かあのネックレスだったら着けててもバレなさそうだ。

「……って、ちょっと近くないかな? 恥ずかしいから見ないでよ!」

「見てないから安心しなさい」

 じゃあなんですぐ真横にいるんだよ!
 絶対こっそりと見てて、後でからかってくるやつだろ!

「とりあえず早くつけてみなさいよ」

 僕は急かされるようにインベントリからそのアイテムを取り出す。
 実際にアイテムを取り出すのは初めてだけど、なんとなく取り出し方はわかっている。

 取り出すアイテムをイメージすると、目の前に黒い渦が出てくる。
 その中に手を突っ込むと、イメージしたアイテムがあるから掴んで引っ張り出す。
 これだけだ。

 僕は取り出したアイテムを確認する。

『守護神石のネックレス』

 このネックレスは、装備者が受ける全てのダメージを50%カットするという非常に強力な能力を持っている。
 また、それとは別に回避率を上昇させるエンチャントも施してある。

 ……これだけでも凄く頼もしいな。
 盗まれることがないように注意しないとね。

 僕は守護神石のネックレスを首にかけて服の中に隠す。
 そのまま鏡の前に立って自分の姿をチェック。

 その鏡には、ゲームでずっと見ていたキャラであるルシエル・テーレの姿が映っていた。
 でもその姿には、両親の面影がある。
 父様の青い髪に母様の黄色がかったブラウンの瞳。
 ゲームの時の髪の色と目の色は変わってしまっているが、今のほうが断然好きだ。

 こう見てみると本当に子供になったんだな……
 身長は142cmで体重は36kg。
 最後に身体測定の魔道具で測った時はそれぐらいだった。

 身体測定で思い出したが、なぜか長さと重さの単位は地球と同じだ。
 機会があればその辺りを調べてみてもいいのかもしれない。

「……よし。大丈夫だな!」

 僕は自分の服装に問題がないこと確認。

「じゃあ行ってくるよ。リーチェはご飯どうするの?」

「……私は自分でなんとかするから大丈夫よ。さあ、行ってらっしゃい。ほらほらっ!」

「わ、わかったよ」

 少しリーチェのことが気がかりだったが、急かされた僕は食堂へと走る。

 なんとかするって言ってもどうするんだろう?

▽▽▽

「馬鹿者!廊下は走るな!」

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!」

 食堂の前に着いたはいいが、お爺様とちょうど鉢合わせして怒られた。
 廊下を走るなと怒られたのは、小学生以来だ。
 なんだか懐かしいな……

「まあ、元気そうで何よりだ」

 お爺様のフッと笑って僕の頭を撫でる。

「さあ、廊下で突っ立ってないで食堂に入るぞ」

「はい!」

 お爺様の後に続くようにして僕も食堂に入った。

 食堂には1つの長いテーブルがあり、10人ほどが座れるように椅子が並べてある。
 お爺様と僕がテーブルに近付くと笑い声が聞こえてきた。
 アレスおじさんとジェラルドさんの2人が既に座っていたようだ。

「はっはっは! 朝っぱらからジジイに怒鳴られるとは災難だな! ここまで聞こえてきたぜ?」

 ジェラルドさんが豪快に笑い、僕の頭をポンポンと叩く。

「昨日は顔色が悪かったから心配してたんだが、もう大丈夫そうだな。安心したぞ」

 アレスおじさんが僕に微笑む。

 そこで、席に着いたお爺様が口を開く。

「お主らそれぐらいにしておけ。ルシエルも席に着け。朝食の前に大事な話をする。……昨日の件だ」

 そう言われて僕は席に着く。

「ルシエルよ。結論から言うと、お主は病に侵されてしまい、療養するも悪化して亡くなったということにする」

 お爺様は僕の顔を見てそう告げた。

「え?」

「おそらく協会を通じて、国へともうお主のジョブの件は伝わっておるだろう。……お主のジョブを隠すためにはこうするしか思いつかなかったのだ。お主のジョブは、他の貴族の目についてしまうとややこしくなる可能性が高いからな」

「そんなに恨まれているのですか。テイマーは……」

「ああ。……ここでもう一度問おう。お主はテイマーとしてやっていけるか?」

 鋭い目をしたお爺様が僕に問う。

「僕は……」

 アレスおじさんは不安そうに、ジェラルドさんは期待しているに僕を見つめている。

 昨日、僕はリーチェのおかげで決意できた。
 その決意した想いを打ち明ける!

「僕は、人々を守った父様のように人々を助けるドラゴンテイマーになります!」

 僕がこの異世界で進む道を。

「たとえテイマーが嫌われていようとも後悔はありません!」

 お爺様の目を真っすぐ見返して。

「いつの日か、僕の手でテイマーが失った信用を取り戻してみせます!」

 僕は、僕の目指す先を言い切った。

 食堂に沈黙が流れる。

「クックック……」

 その沈黙を破ったのはお爺様の笑い声だった。

「小僧がぬかしおるわ! だが面白い! やってみろ。儂等はお主を全力で支えよう!」

 お爺様が目をギラギラさせて笑う。
 こんなお爺様見たの初めてだ……

 お爺様以外、僕も含め全員がぽかんとしてお爺様を見ている。

「アレス! ジェラルド! あとバロン! そこで聞いておるんだろう!」

 食堂の入り口からバロンが姿を見せる。

「昨日話しておった件は無しだ! こやつにはこの国を変えられるだけの力をつけてもらうぞ!」

 アレスおじさんが慌て、ジェラルドさんがニヤリとし、バロンが苦笑いしている。

 そして、お爺様の勢いは止まることはなく、僕にこう告げた。

「ルシエルよ。お主には竜王国ドラグヘイムへと行ってもらう!」

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