ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

異次元にある牧場島

 さてと……
 まずはコボルト達を異次元牧場に送らないとね。

 異次元牧場のスキルの効果は、魔力を消費することで、異次元に存在する牧場へと行き来することができる。
 また、牧場にはモンスターを待機させることができるというものだ。

 ゲームでの異次元牧場のスキルは、ウィンドウを操作して手持ちと牧場のモンスターを入れ替えるという感じだった。
 収容できるモンスターの数は、スキルレベル×30体分。
 つまり、ゲームのときは300体まで収容できた。

 一方で、こっちの世界での異次元牧場のスキルは、ちゃんと異次元に牧場があって、自由に行き来できるようになっているようだ。
 収容できるモンスターの正確な数はわからないけど、ゲームと同じで300体は入るだろう。
 どんな見た目の牧場で、何があるのかまではまだ把握できていないんだけどね……

 どちらにせよ。一度使ってみないことには何とも言えない。

「よしっ! やるか!」

 僕がそう声に出すと、アレスおじさん達やコボルト達が僕に注目する。

 異次元牧場を使いたい。
 そう意識すると、頭に使い方が思い浮かんできた。
 僕は異次元牧場への入り口を出現させるキーワードを叫ぶ。

「開け! 異次元牧場!」

 僕がキーワードを唱えると、目の前に青い光の渦巻きが出現する。

 別に叫ぶ必要は無かったけど、その方がかっこいいと思った。
 後悔はしていない。
 チラッとリーチェを見ると、何か微笑ましいものを見るようにこっちを見ていた。
 ……普通に言えばよかった。

 ちょっと恥ずかしい思いをしたけど、僕は何食わぬ顔で光の渦巻きをよく見る。

 「……こ、これはッ!」

 某ゲームの城や祠でよく見かけるワープホールじゃないか……!
 多分、この中に入ると牧場へとワープできるんだと思う。

 ワープホールを出したことで、若干気だるさを感じたけど、立っていられない程のものではない。
 これが魔力を使った感触か……
 あんまり使い過ぎないように気を付けよう。

 僕はアレスおじさん達、隊長コボルト達の方に振り向く。

「これが僕のもう一つの力。異次元牧場だよ」

「……この光っているのがか?」

アレスおじさんが、ワープホールを指差してそう聞いてきた。

「うん。試しに僕が入って見みるから見てて」

 そう言って、僕はワープホールへと足を踏み入れた。
 すると、渦から僕を包むほどの光が溢れ出して、僕は光の中へと引き込まれていった。

▽▽▽

 目を開くと、まず草花が生い茂った草原が見えた。
 草花は僕のすねの高さまで伸びている。
 草原の向こうには森が、その森の奥には山があった。
 森には木の実や果物が生えた木がぽつぽつと見える。
 山からは大きな川が流れていた。

 人の手が入っていない自然って感じがするな……

 僕は正面だけでなく、背後も確認してみる。
 まず、僕の真後ろにはワープホールが残っていた。

 このワープホールに乗るとコボルトの隠れ家に戻れるんだろうな……

 次にワープホールの向こう側を見てみると、そこには白い砂浜があった。
 そして、その砂浜の奥には青く透き通った海が広がっていた。

 もしかして、この島は無人島なのではないだろうか……?
 牧場というよりは牧場島という感じがしっくりくる。
 この牧場島はかなり広い。

 もしかして、モンスターが偏ってもいいように島になっているのか?
 例えば、森のみに生息可能な巨大モンスターが、300体入っても問題ないぐらいの広い森を用意したというような……
 そんな感じで海、砂浜、草原、森、山といったモンスターの生息地に対応した環境をくっ付けた結果、このような島となったという可能性が高そうだ。

 あきらかに300体以上のモンスターを収納できるしね。
 パッと見ただけだが、最低でも1000体以上はここに収容することができそうだ。

 そう考えていると、ワープホールからアレスおじさんが出てきた。

「うわっ! 何だここは?!」

 その後には、バロン、リーチェ、コボルト達というように次々と出てきて、辺りを見渡しては驚く。

 驚いているみんなを横目にして、僕はリーチェのもとへと近寄る。

「リーチェ、ここって見た感じ島だと思うんだけど、念のため上空からも見てもらえないかな?」

 僕は空を飛ぶことができるリーチェに島の確認を頼むことにした。

「ええ。わかったわ」

 そういうと空高くまでリーチェは飛んで行った。

 その後、僕はコボルト達のもとへ近付いていく。

「ここが君達が暮らす新しい場所なんだけど……どうかな?」

 僕は、コボルト達の先頭に立っている隊長コボルトに問いかける。

「主殿……ここは一体どこでありますか?」

 主殿って僕のことか……
 何かかっこいいな。
 あと、主として認められたからか、口調が柔らかくなっている。
 ちょっぴり嬉しい。

「ここは僕の力で生み出された異次元にある島だよ。何があるかはわからないけど、僕達以外には他に誰もいないはずだ」

「……我々は、本当にここで暮らしてもよいのでありますか?」

「ああ。そのかわり僕が困ったときは助けてもらうよ? あとこの島のことも色々調べてもらいたいし……」

「はっ! 我らにできることなら何なりと!」

 隊長コボルトはそう言って僕に頭を下げた。
 他のコボルト達もそれに続く。

「うん。よろしくね。……じゃあ、残りのコボルト達も説得してここに連れておいでよ。運ぶものとかもあれば持っておいで。この島のどこでも好きな場所に住んでいいから」

「はっ! ただいま行ってくるであります!」

 そう言ってコボルト達はワープホールの中へと消えていった。

 コボルト達を送り出すとアレスおじさんとバロンが僕のもとへと近寄ってくる。

「ルシエル、驚いたぞ! コボルトが何を言っているかはわからなかったけど、お前の言っていた内容からすると仲間にすることができたんだな!」

 アレスおじさんが僕の頭を撫でる。

 自動翻訳された僕の声は、コボルト達にはコボルトの言語で、アレスおじさん達には人間の言語で聞こえたということか。
 これが良いのか悪いのかは時と場合によりけりって感じだな……

「さすがは坊ちゃんです。最初にコボルト達が武器を手にしたときは肝を冷やしましたが……」

 バロンがそう苦笑いしていると、空からリーチェが降りてきた。

「島の様子を見てきたわよ」

「ありがとう。この島の様子はどうだった?」

「島の形は四角で、北には山、中央には森と草原、南には砂浜と海という感じだったわ。あと、最北端は火山地帯となっていたわよ」

 火山地帯もあるのか……
 その他の環境はここから見たとおりだな。
 牧場島の地理がわかったのはありがたい。

「わかった。助かったよリーチェ!」

 これで、一通りやることも終わったな……
 あとはコボルト達の引っ越しが終わるのを待つだけだ。
 それまでは暇だな……

「コボルト達がくるまで暇だね……」

 僕がそう言うとアレスおじさんが食いつく。

「おっ、待機時間ができたなら、1つ頼みがあるんだが……」

 頼み事? 何だろう?

「どうしたのおじさん?」

 僕が聞くとアレスおじさんがニヤリと笑う。

「なあに。ちょっとお嬢さんと再戦させてもらいたいんだ。今度はお互いに装備を万全にした状態で」

 ええ……

「あら? 暇だったし別に構わないわ。……何なら全員かかってきてもいいわよ?」

 リーチェはクスクスと笑いながら僕達にそう言った。

「ほう? 言ったなお嬢さん。バロン、ルシエル! やるぞ!」

「3対1とはあまり乗り気はしませんが、私もリーチェお嬢様の力には興味があります」

 僕は戦う気はあんまりないんだけどな。
 2人が乗り気になっちゃってるよ……

「ええ……僕、リーチェと戦いたくないんだけど……そもそもおじさん盾ないよ? 洞窟の外に荷物と一緒に置いてるし」

「むぅ……確かにそうだな。取りに行ってくるか……」

 え? 取りに行くの? やめとこうよ……
 やり合っても僕たちがリーチェにボコボコにされる未来しか見えないし。

「あなたのインベントリに盾が入っていたと思うのだけれど。それを貸してあげたらどうかしら?」

 リーチェが言っている盾なんてあったっけ……
 僕はインベントリを確認する。

 ……本当にあった。
 なんで知ってるんだ?

『聖騎士のカイトシールド』

 この盾は、攻撃のガードに成功した場合、その攻撃に付与されているバット効果を無効化する能力がある。
 また、闇属性の魔法を半減する効果もある。

 ちなみにこの装備は、ホーリーナイト・ガーディアンの装備だったものだ。
 そういえば、ラストダンジョンのジョブチェンジアイテム堀りのときに攻撃速度を上げるために外していたんだっけな……

「リーチェ、なんで知ってたの……?」

「……黙っていたけど、私もインベントリ内を見ることができるのよ。私とあなたでインベントリは共有のようね」

 え? 初耳なんだけど……
 じゃあ、僕が変なもの隠したら、リーチェにばれて捨てられる可能性があるってこと?
 そんなぁ……

「さあ、早く貸してあげたら?」

 そう言われた僕は、インベントリから聖騎士のカイトシールドを取り出してアレスおじさんに手渡そうとする。

「うわっ……!」

「大丈夫か!」

 盾は結構重くて、僕一人じゃ持ち切れなかった。
 アレスおじさんが途中で盾を持ってくれなかったら落としていたと思う。

「これは凄い盾だな。大事に使うよ。……あと、持ってみてわかったが、この盾はおそらく国宝レベルの装備だと思うぞ?」

「……坊ちゃん、これも秘密にしておきましょうね」

「……はい」

 アレスおじさんが槍と盾を構えて、軽く体を動かす。

「よし! 行くぞお嬢さん! 遠慮はいらないからな!」

「私もです! リーチェお嬢様、参りますよッ!」

「では、お言葉に甘えて……ちょっとだけ魔法を使おうかしら」

「あー、僕はパスでお願いしま……」

「そういえば、私の胸がどうとか言ってたわね……? ここであなたが私に触れることができたなら、あれは聞かなかったことにしてあげるわ。だから……わかってるわよね……?」

 ここでそれが来るか……!
 うかつだったあの頃を自分を殴りたいっ!
 リーチェはこの暇つぶしで、そのときの恨みを僕にぶつけるつもりだ……

「くそっ! やってやる! ……いくぞリーチェ!」

 ……この後、僕達はめちゃくちゃボコボコにされ、3つのボロ雑巾が地面に転がることになるのだった。

 それは引っ越しに来たコボルト達が、怯えて震えるほどの惨状。
 この時からコボルト達の中では、リーチェには絶対に逆らってはいけないという掟が生まれたのである。

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