ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

魔導船での生活 終

 魔導船での生活ももう1ヶ月が経過した。
 僕とアレスおじさんは甲板から、空を流れる雲をぼうっと眺めている。
 誰にも邪魔されずに、自由で、なんというか救われたような感じで、僕たちは寝転がっていた。

「なあ、ルシエル」

「なあに? アレスおじさん」

 僕達はお互いの顔を見ずに、空を見上げたまま話す。

「ようやく……地獄の訓練も終わったな……」

「うん。……やったんだよ僕達」

 僕達はさっきまで、リーチェにしごかれていた。
 バロンも一緒にいたけど、2人とも今は室内に戻っている。
 リーチェは母様のところに遊びに行って、バロンは昼食の準備をしに向かった。

「ああ。でも、なんで俺もしごかれたんだ?」

「うーん……バロンが動けなくなると、ご飯作れる人がいなくなっちゃうからかな?」

「いや、それはわかるけど……俺がしごかれる必要はあったんだろうか……?」

「ない……かな……?」

「……えっ? ルシエル、それ冗談だよな? 何か意味はあったんだよなッ?! なあッ?!」

 アレスおじさんの縋るような大きな声で、この静寂も終わりを告げる。
 その声に釣られて横を向くと、ボロボロの服を着たアレスおじさんがこっちを見ていた。
 僕は何も見なかったことにして、また雲を眺める。

「……じょ、冗談だって。あのリーチェだよ? 何か意味があったに決まってるよ。……僕、聞いたもん。アレスおじさんの中に小宇宙を感じたって、リーチェが言ってたのを……」

「本当か? 小宇宙が何かはわからんが、俺の中にも、まだ何かしらの力が眠ってたんだな……」

 アレスおじさんごめんなさい……
 本当は、何となくそこにいたから連れてきたって言ってました。
 でも、少し元気になってくれたんだから、それくらいの嘘はいいよね……?

「念のため確認してみるか。 ステータスボード!」

 アレスおじさんが体を起こして、ステータスを確認する。
 そして、少しの沈黙の後、歓喜の叫び声をあげた。

「うおおおっ! やったぞルシエル! レベル60になってパラディンになってる! 聖盾ってスキルも覚えているぞ!」

 アレスおじさんは、ステータスボードを僕の方へと向ける。

アレス・クリステーレ
レベル:60
ジョブ:パラディン
メインスキル:
「槍術Lv6」「盾術Lv5」「聖盾Lv1」
「肉体強化Lv6」「反撃Lv4」「鼓舞Lv3」

「ええっ?! 嘘でしょ? 冗談だったのに……!」

 衝撃のあまり、僕も体を起こす。

「どうだすごいだろう! ……って、さっきの嘘だったのか! でも、許せる! レベル60の壁を突破できたんだからな!」

 どういうことだ……?
 確か、アレスおじさんはガードナイトだったはずだ。
 ゲームの時はジョブは、転職しない限りは固定だったはず……
 この世界のジョブは、ゲームの設定とは違うのか?

「ガードナイトだったはずでしょ? なんでパラディンにジョブチェンジしてるの?」

 僕が困惑した顔をしていると、アレスおじさんは嬉しそうに説明してくれる。

「ああ。ルシエルはまだ知らなかったか。ジョブのレベルが30、60、90になると、ジョブがクラスアップするんだよ。俺の場合は、最初がナイトで、次がガードナイト、それで今回がパラディンだ。ちなみにクラスアップ直前はなかなかレベルが上がらないから、壁があると言われてるんだ」

 レベルに応じて、ジョブがクラスアップするようになっているのか!
 ゲームの時は、ジョブ毎にレベルが設定されていたから、てっきりこの世界でもそうなのかと思ってたよ……
 ゲームでの記憶を過信し過ぎないように気を付けよう。
 こういうのに早めに気付けて良かった。

「アレスおじさん。どのジョブでもクラスアップするの?」

「そうだぞ」

 なるほど。
 となると、僕のジョブもクラスアップするということだ……!
 これは先が楽しみになる。

「……ただ、人によってクラスアップ先は変わることがあるけどな。例えば、俺とバロンは同じナイトだったけど、俺はガードナイト、バロンはホワイトナイトって感じで違うからな」

 バロンはホワイトナイトっていうカッコいいジョブなのか。
 初めて知ったよ。
 どんな行動をしたかによって、ジョブが分岐していくのかもしれないな……

「……あれ? ホワイトナイトとパラディンって同じ聖騎士じゃないの?」

 僕がそう聞くと、アレスおじさんが説明してくれる。

「ちょっと違うな。ホワイトナイトは光魔法を使える騎士だ。他にも、火魔法を使うレッドナイトとか、闇魔法を使うブラックナイトとかがいる。パラディンは神聖な加護を得た騎士で、聖なる力を使えるようになるんだ」

「そうなんだ……」

 だから、バロンは回復魔法が使えたのか……
 乗馬で傷んだお尻を治してもらえたのはありがたかったな。
 できればもう頼みたくないけど。

「ん?」

 今、雲の向こうに大きい島が見えた気がした。
 僕は立ち上がる。

「アレスおじさん。今、この雲の向こうに大きな島が見えなかった?」

「おっ? もしかしてドラグヘイムか? 日数的にはそろそろだしな」

 僕がそう聞くと、アレスおじさんが立ち上がる。
 そうしているうちに、雲が通り過ぎ、大きな大陸が姿を現した。

「おお! 大陸だ!」

 その大陸には、山岳地帯、草原地帯、砂漠地帯と3つの環境があった。
 大陸の中央に草原地帯があり、そこから北西に山岳地帯が広がっている。
 草原地帯の南側には砂漠地帯があり、徐々に草原地帯を侵食しているかのように見えた。

「ルシエル、今見えている大陸があるだろ? この大陸全てが竜王国ドラグヘイムってことになってるんだ」

 この大陸の名前が竜王国ドラグヘイムなのか……

「紛らわしいね」

 僕がそう言うと、アレスおじさんが頷く。

「まあ、多くの竜が住む大陸という意味で、竜の王国って呼ばれてたらしいからな。その時の名残だろう。ほら、山岳地帯の上空でなにかいっぱい飛んでるのが見えるだろ? ここからだと小さくてよく見えないが、あれは全てドラゴン種の魔物だ」

 本当だ。
 ここからだと豆粒みたいにしか見えないけど、何か飛んでいるのが見える。
 早速テイムしに行きたい……

「ドラグヘイムにどんな魔物がいるのかは、冒険者ギルドで調べられるはずだ。時間があるときにでも行ってみるといい」

 きた! 冒険者ギルド!
 異世界って感じがしてきたぞ!
 情報収集は大事だからね。
 しっかりと事前準備をしておこう。

「わかった! ……それで、あの塔がダンジョンなんだよね?」

 大陸の3つの環境よりも、よく見えないドラゴン種の魔物よりも、目立つものがあった。
 草原地帯と山岳地帯の狭間から、天に向かって一直線に伸びる長い塔。
 塔の途中からは雲が絡みついていて、上がどうなっているのか見ることができない。

「ああ。あの塔がダンジョンだ。塔の周りにはダンジョン街があるんだが、そこがルシエルがこれから暮らしていく場所となる。冒険者ギルドもここにあるからな」

 アレスおじさんが言った通り、塔の根元には建造物のようなものがたくさん見えた。
 あそこが僕の生活する場所となるのか……
 ワクワクしてきたぞ!

「それで、ダンジョン街から山岳地帯の奥に行くと、竜王が住んでいる城がある。……山に囲まれてるから、ここからは見えないがな」

「そうなんだ……ちょっと残念だね」

「実際に見るとビックリするぞ? 楽しみにしておけ」

 そう言われると気になる……
 まあ、楽しみは取っておこう。
 竜王の城というぐらいなんだから、きっとカッコいい城なんだろうな……
 王座の下に隠し階段があったりするのかもしれない。

「それにしても、色々と詳しいねアレスおじさん」

「何度か来たことがあるし、一時期ここで生活してたこともあるからな。……この辺りはまた今度話そう」

 アレスおじさんの表情が一気に暗くなった。
 何か思い出したくないことでもあるのだろうか?
 今は触れないでおこう……

「わ、わかった」

 僕が頷くと、アレスおじさんは、僕の頭をポンポンと叩く。

「……気にするな。じゃあ、みんなのところに行くか。これからのことを話し合おう」

「うん!」

 そうして、僕とアレスおじさんは、みんなのところへと向かうのであった。

 いよいよ竜王国ドラグヘイムに上陸だ!

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