ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件

流し肉うどん

卵と魔石

 ミミックリザード。
 戦う力が弱く、擬態に特化した魔物。
 生まれる前の卵の段階から、他の魔物に擬態することで、過酷な環境を生き残ってきた。
 卵の段階で、卵に開いた穴から他の魔物の魔石を取り込み、魔石の元となった魔物の特性を得ていく。
 ミミックリザードの親は、死んだ魔物の魔石を拾ってきて、卵に与えていたようだ。

 ミミックリザードの卵には、まだまだ判明していない謎が多い。
 現在時点で有力な説としては……
 卵に開いた穴から、1つの魔石を取り込むことができる。
 取り込んだ魔石のもとになる魔物の特性を得る。
 魔物の特性をどれだけ得られるかは、卵の持つ魔力量に依存する。
 魔石を取り込んだ際、周囲の魔力も吸い込んでいる。
 吸い込む魔力の質、量などが、少しでも変わると卵の穴が閉じる。
 卵の穴が閉じると卵の中で擬態が始まり、擬態が完了すると孵化ふかする。
 生まれる魔物は、必ずドラゴン系統でリザードに近い魔物になる。

 例えば……。
 コボルトの魔石を得た卵からは、ぺリジリザード。
 ワイバーンの魔石を得た卵からは、ジャイアントリザード。
 レッドドラゴンの魔石を得た卵からは、サラマンダー。
 といった魔物が生まれてきた。
 例外として、魔石を得ても卵の持つ魔力が少なすぎた場合は、ミミックリザードが生まれる。

「……ということが研究の成果で判明している」

 エウロスさんは、僕たちにそう講義してくれた。

「それで、この貴重な卵を小僧にやろうと思うのだが……」

「えっ? 本当ですか?!」

 いいの? 本当に?
 でも、何か裏がある気がするな。
 エウロスさんは、少し悪そうな顔しているし……

「もちろん。だが、ただでやるわけにはいかぬがな……!」

 そう言って、エウロスさんは笑う。

 やっぱり裏があったか……
 まあ、そんなに甘くはないよね。

 アレスおじさんは、呆れた顔をして口を開く。

「エウロス、相変わらず悪そうな顔してるな……」

 それを聞いたエウロスさんは、心外そうな顔をする。

「何を言うか。こう見えても、我は善良な研究者を通してきたつもりだぞ」

「えっ? エウロスさん研究者なんですか?」

 僕は驚きのあまり聞き返す。
 これには、アレスおじさん以外の他のみんなも驚いているようだった。

「ああ。我は1人の研究者として、今はミミックリザードを研究しているのだ」

 エウロスさん、四竜公で研究者をしているのか……
 それで、この卵も持ってたんだな。
 講義もやけに詳しかったし。

「小僧には、この卵をやる対価として、1つ頼みたいことがある。今後、小僧がこのドラグヘイムで珍しいものを得た場合は、時間ができた時にでも我に教えてほしいのだ」

 エウロスさんは、真剣な顔でそう言った。

「もし、我の研究心を刺激するものがあれば、相応の対価も支払おう。……どうだ?」

 うーん。たぶん、それぐらいなら問題ないよね?
 珍しいものが手に入っても、時間ができたときだけでいいみたいだし。
 それで卵が手に入るなら、全力で協力するよ。
 まあ、珍しいものが見つかるとも限らないんだどね……

 僕はリーチェの方を見る。
 こちらに気付いたリーチェは小さく頷いた。
 他のみんなも僕が自分で決めていいと言っているように感じた。

「……わかりました! 僕に任せてください!」

 僕の返事を聞いたエウロスさんは、満足そうに頷く。

「そうか! 助かるぞ。では、この卵を受け取るがいい」

 僕はエウロスさんから、卵を受け取る。

「小僧、早速魔石を与えるか?」

 正直、早くドラゴンの相棒が欲しい。
 前世では、モンスターを配合させたり、悪魔を合体させたりするゲームが大好物だった。
 一体どんなドラゴンが生まれるのかワクワクする!

「はい!」

 僕が返事をすると、バロンとアレスおじさんが近くに寄ってくる。

「坊ちゃん、もし私が持っている魔石で欲しいのがあればどうぞ」

「ルシエル、俺の持っている魔石も見てみろ」

 2人ともやけに積極的だな……!

 僕が少し驚いていると、母様とリーチェの話し声が聞こえてきた。

「アレスお義兄さんとバロンもこういうの好きなのよね……前に早くて強い馬を育てるにはどうしたらいいかで盛り上がってたし」

「おじさま達も男の子ということでしょうね……」

 僕だけじゃなくて、アレスおじさん達も気になってるってことか。
 前世のゲームをやらしてあげたら、ハマっちゃいそうだな……

 そう考えているうちに、アレスおじさん達は机に魔石を並べていた。
 その魔石は様々な色をしていて、魔石によっては光り輝いているものもあった。

「ふむ。色々と珍しい魔石もあるな……冒険者ギルドには売らなかったのか?」

 エウロスさんが怪訝そうな表情で、アレスおじさん達に問いかける。

「珍しい魔物や強い魔物と戦った際は、記念として取っておくようにしているのです」

「俺もそうだな。酒場で話のネタになったりするし」

 2人ともそう言って笑う。

 ……なるほど。
 なんかもったいなくて売れないっていう気持ちはすごくわかる。
 お金に困らなくなったら、僕もそうしようかな。

「でも、どれが何の魔石かわからないよ?」

 魔石の色、透明度、輝きで、どんなモンスターだったかをある程度は予測できる。
 色は属性、透明度は魔法の強さ、輝きは力の強さといったような感じだ。

 見たことのある魔石だと、ウルフとコボルトの魔石がある。
 その2体の魔石は、無属性を表す灰色で、透明感と輝きが一切ない魔石だったことを覚えている。
 もちろん、全然見分けがつかなかった。

 僕がそう指摘すると、バロンが懐からルーペを取り出した。

「坊ちゃん、この魔導具を使ってみてください。これでアイテムの名前がわかるのです」

 僕は、バロンからルーペのような魔道具をを受け取る。
 ルーペを通して魔石を見てみる。

 『ブラックウルフ』
 『フォレストウルフ』
 『コボルトジェネラル』
 『ゴブリンキング』
 『ストームワイバーン』
 『ガーゴイル』
 『レイス』

 ……などなど、珍しそうな魔石の名前のみがずらっと見えた。

「うわぁ……すごい。こんな魔導具があったんだね」

「はい。商人たちの必須アイテムとなっていますね。坊ちゃんも必要でしたら用意しておきますが、どうしましょう?」

「うん。一応、お願いしておくよ。……それにしてもこの中から、選ぶのは悩むな」

 僕がそう悩んでいると、エウロスさん、アレスおじさん、バロンのおっさん3人で盛り上がっていく。

「ガーゴイルのドラゴン種はどうでしょう? 堅い装甲に浮遊の能力が付くのも一線を画していいのかもしれません」

「なるほど。不規則に空に飛ばれるのは厄介そうだな……しかも堅い装甲で、矢をものともしないだろうし」

「ふむ。アレス、お主のとこの執事はなかなか面白い考えをするな。うちで雇いたいぐらいだ」

「エウロス様、恐縮でございます」

「フォレストウルフも面白そうな気がするな。森を駆け回り翻弄ほんろうするドラゴン種っていうのも厄介そうだ」

「ふむ。それもよさそうだ。レイスで霊体となるのも厄介そうだと思うがどうだろうか?」

「うーん。物理攻撃無効はかなりやっかいだけど、聖なる力と光魔法に弱くなるのがな……聖水を使われると一方的になる気がする」

 うわぁ……
 僕、あの盛り上がってる中に入るの?
 めちゃくちゃ入りづらいよ。

 ふと母様達に目を向ける。
 母様とリーチェは、呆れ顔でこちらを見ていた。
 僕が見ていることに気付いたリーチェは、立ち上がっておっさん3人のいる机へと歩いていく。
 そして、そのまま1つの魔石を置いた。

 えっ? もしかしてリーチェも混ざるの?

 新しい魔石が置かれたことに気付いたエウロスさんが、リーチェに話しかける。

「ん? この魔石は娘のものか?」

「ええ。長くなりそうだったので……この魔石でいいのではないでしょうか?」

 リーチェは少し不機嫌そうに言った。

 リーチェが置いた魔石は、透明で澄み切った魔石。
 その魔石は、放っておくと消えてしまいそうな儚げな光を放っていた。
 属性を主張する色の鮮やかさはないが、僕にはこの中のどの魔石よりも美しく見えた。

 ……って、あれ?
 リーチェも魔石を持ってたのか。
 いつの間にこんな魔石を手に入れたんだ?

 僕は、ルーペを通してリーチェが置いた魔石を見てみる。

 『名もない魔王の魔石』

 あっ。これ、あかんやつや……

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