私はもう忘れない

林檎

記憶と行動

〜夜〜

  葵達は、いつも通り神社に戻ってきて一夜を過ごそうと思った。
  葵は壁に寄りかかって寝ようと思った時、

「おい」

  いきなり呼ばれた。

「...なに?」

  葵はカズくんの方を見て答えた。
「お前、今日子供助けた時何かあったか?」

ーーどくんっ...

  心臓が飛び跳ねた気がした。

「な...なんで急に...そんな事言うの」

  葵は驚いて咄嗟に目を背けてしまった。

「やっぱり...お前、あの後から様子変だったぞ?」
「...?...変って...いつも通りだよ?」
「いや...変だった。なんつーか...よそよそしいって言うか」

  身振り手振りで一生懸命葵に伝えようとしてる。

「とりあえず!!なんかお前へん!!」

  葵に指さして言った。

「そんな事言われても...私は何も...」

  葵は、言い終わる前に自分の行動を少し思い出してみた。でも、特に変わったことなどはない。
  そして、記憶をたどっているうちに公園での出来事を思い出した。

「ねぇ〜...質問いい?」

  葵は、カズくんの方へ顔を向けて聞いた。

「あ?いきなりだな...俺に答えられるもんだったら別に良いけど...」

  不思議そうな顔をしたけど葵の質問にはしっかり答えるらしい。

「私がトラックに引かれそうになった時、カズくん『俺を見ろ』って言ったでしょ?」
「おう...」
「それは、私はトラックに当たるって考えなければすり抜けるって思ってそう言ってくれたんだよね?」
「だったらなんだよ...」
「でも、それだったらなんで男の子も一緒にトラックをすり抜けたの?」

  あの時は、それどころではなく気にする余裕などなかった。

「んじゃ、その質問には答えてやる。でも、その前に俺の質問にも答えろ」

  カズくんが葵の前に座ってそういった。

「...分かった...。私に答えられることなら...」
「よし。なら質問するぞ」
「うん...」

  カズくんが体ごと葵の方に向け、深呼吸したあとに口を開いた。

「お前...少し記憶思い出しただろ?」

  葵は驚いて一瞬固まってしまった。

「...なんでそう思ったの?」
「...はぁ〜...」

  カズくんはため息をわざとらしくはいた。

「お前が子供を追いかけて行った時、一瞬お前の体が光ったんだよ。」

(私の...体が?)

「それで、それは記憶を思い出した証となるものじゃねぇーかなって思ったんだよ。」

(そうだったんだ。)

「確かに...何かが頭の中をよぎったんだ...何ていうか...前にもこんなことなかったっけ?みたいな曖昧な感じだけど...」

  カズくんは少し考えてる感じの顔をしている。

「なら、それはお前が事故った時の映像なんじゃねぇーの?」
「...そうなのかな...」
「おう!多分そうじゃねぇーか?」

  葵は、そうだとしたら自分は誰かを助けようとして事故にあった。それだったら、少し自分に自信もてるかなと考えていた。

「でも...そうか...これは少し難しいかもしれねぇーな...」
「...難しいって?」
「あ?あぁ...」

  カズくんは、眉間に皺を寄せ唸っていた。

「だってよ?公園は俺達はもう何回も行ってるだろ?」
「うん...」
「でも、今までお前は何も思いつかなったのに、今回の事があってやっと少し思い出すことが出来た」
「うん...」
「て、言うことは、その自分がいた場所に行くだけじゃダメってことだ。」

(行くだけじゃダメ...)

「じゃ〜、自分の言ったことがありそうな所で、自分に印象が残ってる行動をしないといけないってこと?」
「あぁ〜...そういうことに何じゃねぇーかな...」
「それは...大変だね...」
「だよなぁ〜」

  カズくんは手を後ろに置いて上を向いて考えている。
  葵はこれからのことを考えると少し落ち込みそうになった。

「まぁ〜今考えてもしょうがねぇーな...とりあえず、今は寝て明日ゆっくり考えよう」
「まって...私の質問には答えてくれないの?」
「質問?」

  カズくんが少し考えたあとに、先程の葵との会話を思い出したらしい。

「...忘れてたの?」

  葵はカズくんを見ながら聞いた。

「わ...忘れるわけねぇーだろ...」

  のわりには顔がひきつってるように葵には見えた。

「とりあえず、質問に答えて?」

  葵は姿勢を正してカズくんに問いかけた。

「俺って、うまく説明するの苦手なんだよな...わかんなくても怒んじゃねぇーぞ?」
「わかった」

  葵は頷いた。

「お前が助けた男の子だがな、お前が本気でその子を助けたいと思ってたこと。これが一つの理由。なおかつお前があの子に触っていたこと。二つ目の理由な。そんで、三つ目がな...」

  そこでカズくんは話すのを止めた。

「どうしたの?」 

  葵はカズくんの様子がさっきとは違うように見えて声をかけた。
  カズくんは少し下を向いてうなだれた姿勢をしていた。

「あぁ〜...とりあえずこの話は一旦ここできる」
「...え?」

  葵は突然のことで反応が出来なかった。

「ひとまずはこれで終わりだ。明日も早いんだし、もう寝んぞ」

  カズくんは壁側に移動してよしかかって寝た。 

「...。」

  言いたくなかったのかなと葵は考えた。少し、さっきの話を思い出して考えてみたけどなんでカズくんが突然話を切り上げたのか分からなかった。 
  一人で考えても仕方が無いし、何よりカズくんはこれ以上この話はしたくないだろうと葵は思ったのでこの話は本当にここで終わりにしようと思った。そして、葵はカズくんと少し間隔をあけ壁に寄りかかり眠りについた。

  
  葵達は今、葵の体が寝ている病院にいる。

「自分の体を見に来たいって、お前...どんだけ自分好きなんだよ...」
「変な言い方しないで...別に自分の体が好きなわけじゃない」
「そうかよ...」

  カズくんは文句を言いつつ来てくれる。
  優しい一面もあるんだけどと思いながら葵は歩いていた。

「おらぁ!行くんだったらさっさと行くぞ!!」
「...。」

  こういう、短気なところは直した方がいい気がすると葵は思っていた。

「お前の体は前の部屋から移動してんのか?」
「それを確かめるために、ちょっと看護師さんの持ってる、部屋割りを見ているの」
「ふ〜ん」

  カズくんは壁に寄りかかって病院のホールを見回している。探すの手伝ってはくれないのかなと思っていた矢先に目的のものを発見した。

「...あった...やっぱり移動してる。」
「お!見つけたのか。なら、行くぞ」
「あ!待って...」

  カズくんは葵を置いてすたすた行ってしまった。 

   (あれ...私教えてないのに偶然行く方向があってたな...)

「この部屋か?」

  名札を指さし確認してる。

「...うん」 

  名札には『久仁香葵』って名が書いてあった。

「失礼します...」

  ドアノブに手をかけようと思ったらすり抜けてしまった。

「あれ...ダメだった...」
「なら、律儀に開けてねぇーでそのまま入ればいいだろ」

  カズくんはそう言ったあとドアを開けずに部屋の中へ消えていった。

「...私を置いてくの好きなのかな...」

  葵は文句を言おうと思ったらそれより先に部屋の方から大きな声でカズくんの声が聞こえた。

「さっさと来い!」
「はい...」

  葵はカズくんと同じようにドアをすり抜け入っていった。
  中に入ったらベットが四つあり、一つ一つカーテンで仕切りを付けていた。
  この部屋には葵の他には人がいないようだ。

「こっちにいたぞ」

  手招きしながら葵を呼んだ。

「わかった。ありがとう」
「別に」

  カズくんは素っ気ないように言ったが声色は優しい感じだった。
  葵は自分の体に近づいた。

「...。」

  怪我は随分良くなった。

(あれから、約1ヶ月位はたっただろうか...いや、まだそんなにたってないのかな...わかんないや...)

「もうそろ...急がないとやばいかもな...」
「...え?」

  カズくんは葵の体を見てそういった。 

「それってどう言う...」

  聞こうと思った時、ドアの方で音がした。

「誰か来たか?」
「誰だろう...」

  二人で音のするほうを確認すると、葵に少し似ている、でも葵よりすごく年上の女の人が入ってきていた。

「誰だっけ...」

  葵は思い出そうとしたけど記憶をたどっても思い出すことが出来なかった。
  忘れちゃいけない人とだけは分かったけど、それ以上は思い出すことが出来ない。
  葵が頭を抱えていると隣からカズくんの声が聞こえた。

「とりあえず一旦避けるぞ?ここにいると邪魔になる可能性がある」
「う...うん...」

  葵達は壁際に避けた。

「少し、ここにいるか...お前のこと...少しはわかるかもしれねぇーし」
「...。」

こくんっ
  葵は小さく頷いた。

  さっき、入ってきた女性はベットの隣に椅子を準備し座った。

「あなたは...本当に困ったちゃんだね...人を助けるために自分がこうなったら意味無いでしょ?...早く、お母さんにあなたの笑顔を見せてちょうだい」

  女性は葵の頬を優しく包んで優しい声で呟いていた。

「お母さん?」

  ドアの方からまた声がした。

「あら、来てくれたの?ありがとう」

  部屋に入ってきた人は葵が最初、病院で見た一人の女性によく似た人だった。

「当たり前じゃないですか!あおは私の親友ですから!」

(私の親友...)

  その人は、髪は短くショートカットで、長めのTシャツに短パンを着ている私と同じくらいの女の子だった。

「あの子が...私の親友?」

  葵は指を指しカズくんに確認してしまた。

「知るかよ...でも、あいつがそう言ってんだったらそうなんじゃねぇーの」

(そう...だよね...)

  葵は顔をあの子に向き直し見てみる。

「何か思い出してほしい...なんでもいい...何かを...」

  カズくんは葵を見て確認しているが、葵はそれどころではなく、記憶を思い出そうと一生懸命だった...


  結局、二人が帰った後でも葵は記憶を思い出すことは出来なかった。

「せっかく...来てくれたのにな...」
「こればっかりはしょーがねぇーだろ?」
「うん...」

  葵達は病院を出て、いつもの公園のベンチに座っていた。

「もう少しで夜になるな」

  空が、さっきまでは青空だったのに気づいた時にはもうオレンジ色になっていた。

「そうだね」

  と、言いつつ二人は一向に立ち上がろうとしない。
  さっきまで親と一緒に遊んでいた子供たちも少しずつ少なくなっていく。

「あの子はまだひとりで遊んでるんだね」

  ずっとひとりですべり台やブランコで遊んでいる一人の女の子がいた。

「あの子、親がまだ迎えに来ないのかな...ちょっと心配」
「そうだな...でももう少しで俺達もいつもの神社に行かなければならないからな。ほっとくしかないだろ」

  カズくんが立ち上がり葵に言った。

「帰るぞ?流石にもう行かないとまずいからな」
「まずいって何が?」

  そう言えば、今まで葵達は真っ暗になる少し前にはもう神社に戻っていた。
  カズくんが帰るって言うから葵もつい行ってた。だが、今回は少しいつもと状況が違う。

「前みたいにあの子が道路に飛び出す可能性もあるから、あの子の親が来るまで居たい」
「あともう少しで来るだろ、それに俺たちはあいつの知り合いじゃねぇー、ただの他人だ。気にする必要ねぇーだろ?」

  カズくんは手をだしてくれたけど、葵はその手を掴まなかった。

「もう少しだけ...」

  カズくんは困った顔をしてしまった。
  葵自身、これは単なるわがままだとは分かっている。だが、あの子が気になってしょうがない。

「お願い」

  葵は、カズくんの顔を見て言った。

「あーもー!!分かったよ!好きにしろ!でも、このあとどうなっても知らねぇーからな!」

  怒りながらも葵の隣に座り直した。

「ありがとう」
「どういたしまして!!」

  怒りながらも答えてくれた。
  やっぱり、この人は優しいんだなと葵は心の中で思った。

  夜になってもあの子の親が来る様子はない。

「どうして来ないんだろう...」
「...。」
「カズくん?」

  葵はカズくんの顔を確かめた。周りが暗いせいかあまり見えない。
  でも、なにか思いつめたような顔をしていた気がする。
  カズくんが葵の視線に気づいたのか見返してきて、口を開いた。

「...あんだよ...」
「別に...」

  二人の会話はこれで終わった。

  ......。

「流石におかしくねぇーか?」
「うん...」

  外は真っ暗で周りがあまり見えない状態なのにまだ親は迎えには来なかった。

「流石に遅いよね...」
「『遅い』なら、まだいいけどな」

  子供を見ながらカズくんは呟いた。

「どういうこと?」
「ここまでこないってことは、あの子は捨てられたって考えていいだろ」
「そんな...」
「まぁ〜、それはあの子が『生きてたら』の話だけどな」

  葵はその言葉を聞いて目を見開いた。

「ど...ういうこと?」

  カズくんを凝視した。

「見てみろ」

  カズくんは、子供の方を見てみろと言うように顎で子供を指した。
  葵は言われた通り子供の方をみた。
  さっきと同じくすべり台で遊んでいる

「さっきと何も変わらない...すべり台で遊んでるよ?」

  すべり台で遊んでるのがはっきり見える。
  なんでいきなりそんなこと言い出すんだろうと葵は思った。  
  その考えが悟られたかのようにカズくんが答えた。

「なんで、こんな暗いのにすべり台で遊んでるってすぐわかった?」
「...え?」

  葵は、また子供を見て考えた。
  周りは暗くすべり台以外の遊具ははっきり見えない。あの子の周りだけがはっきり見えた。

「え?なんで、あの子だけはっきり見えるんだろう...」

  カズくんの方を向いたらなんか、落ち着いてる。
  まるで、知ってたかのような...

「...ねぇ〜、1つ質問したい」
「あぁ?あんだよ」

  葵は一拍置いて聞いた。

「カズくんは一体何者?」

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