支配してもいいですか?

taxi

パーティ開始直前



 「カミューさん。猫ですよ。猫が裏路地を歩いています、ほら!」

 猫でこんなに喜ぶなんてどんだけ王城にこもってるんだよこの王女ひと。 



 王城までの馬車内で、自己紹介を済まし今までの経緯を教えてもらった俺は、正式に王女様リリィの護衛をしていた。なお、王女様リリィのお許しにより正式な場でなければ、タメ語でいいらしい。それと、今の俺はカミューという偽名を使用している。




 「姫様! 危ないので馬車から身を乗り出さないで下さい!」

 おっと、目を離した隙にリリィが馬車から身を乗り出してしまったようだ。止めるべきか?

 「ああ。裏路地なんて懐かしいわ。昔、妹と一緒に王城から逃げて、秘密基地とか作っていたわね……」

 従者の忠言を華麗に無視して、懐古にふけるリリィは顔を歪めて下を向いた。すると、その姿を見たレイムも悲しみを含んだ表情を浮かべて、黙り込む。

 「……ですが、こんな気持ちも今日までです。勇者様に頼めば……なんとかなる筈ですから」

 「……そうですね姫様」

 2人の間で交わされる言葉はどこか期待を孕んだものだった。
 どうも話が見えない。つまり、どういう事だ? 

 いや、やめておこう。こんな事まで探るのは無粋以外のなにものでもない。







 

 ♢

 「到着しました」

 馬車に揺らさせる事10分。やっと、御者から王城に到着したとの報を受けた。俺はリリィよりも先に降りて、リリィが馬車から降りる際に補助をする。

 「カミューさんは紳士的なのですね」

 「いえ、女性をエスコートするのが男性の努めですから」

 その光景を見ていたレイムは、キィィ! それは私の努めです! と言ってハンカチを噛んでいる。

 やめとけ。従者がそんな事してたら王女の品性が問われるぞ? 

 コントじみたやり取りをした俺らは、案内人の下、パーティ会場へと向かう。





 ♢

 一方その頃、リンタとカレンはパーティ会場でカムイの所在を考察していた。

 「……ったくカムイはどこへ行ったのかしら。王立図書館前で集合って言ったのに!」

 「まぁまぁ、どうせあの人の事だから馬車を間違えて、王女や王子らへんと既知になっているんじゃないですか?」

 「確かにカムイならありそうで怖いわ」

 2人はそう言って笑い会った。幸か不幸か2人が冗談紛いで発した言葉の通りに事が進んでいるとは知らずに。

 「やぁ、お2人さん。ん? カムイの奴はどうしたんだ?」

 「はっ、人が大勢集まると知って怖気付いたんじゃないか?」

 「もう! ソウタ君。そんな事言っちゃダメだよ」

 そこに昨日の3人が加わり、更に活気溢れる集団と化した。それに感化されたか否か、周りも段々と騒がしくなり、パーティ会場は喧騒に包まれた。
ーーパーティ会場の扉が開かれるまでは。

 ガチャン

 その音で会場全体が静寂に満ちた空気へと化す。
 それはこの場にいる誰もが知っているからだ。定刻とは少し遅れて来る者がどういう者達なのかを。






 ガシャガシャ


 「リー、もしかして私達が最初か?」

 「その様でございます。アリス様」

 騎士のような鎧を纏う、金髪ポニーテールの女性とそれに付き従う老兵の如く顔つきの執事。その姿に周りの貴族や冒険者はざわつく。

 「……おい、あれってロムル帝国の第三皇女アリス様だぞ」

 「嘘だろ? あんな華奢で可憐な姫君が世にも名高き『姫騎士』だと!?」

 色んなところで驚きの声が上がる中、またしてもパーティ会場の扉が開かれる。

 「おいっあれって半年前に召喚されたって言う聖女様じゃね?」

 多くの者が、見惚れかつ聖女が発する清廉な雰囲気に心を潤していた。だがそれもつかの間、その後ろにいる人物を目にした途端、言葉に表せぬ緊張感が会場全体を襲う。


 「……サンラエル聖国の神聖騎士団団長の『剣聖』」

 会場内の剣士はゴクリと喉を鳴らし、疼く闘争心を必死に抑える。また、ある一定以上の実力者は己と剣聖てっぺんとの差に絶望感を抱き、諦めにも似た空笑いがこぼれる。

 「ふふふ、アレン様は人気者ですね〜。流石は『剣聖』と言ったところでしょうか〜」

 「いえ、聖女あなたには及びませんよ」

 そう、剣聖アレンが微笑むと女性陣から黄色い歓声が上がる。



 そんな中またも会場の扉が開く。



 「ハハッ、凄い人気じゃないか『剣聖』とやら。あたしゃ欲張りだから嫉妬しちゃうねぇ」


 「ライラさん。女の子の人気が欲しかったんだ」

 「舞、別にそう言うわけではないと思うな
僕は……」

 「いや、光輝さんも絶対疑ってるでしょ!」

 親しげに会話をする4人とそれを見て微笑む少女。

 ーーそれは、つい先日召喚された勇者達とそれに立ち会ったフォールズ王国の王女、そして『圧殺の魔女』と呼ばれし魔術士の頂点ライラであった。

 するとどうだろうか? 先程の剣士の闘志を上回る気迫が会場に蔓延したではないか。

 それは、魔術士達の圧に他ならなかった。魔術士達は杖を握り、憧れの存在をその瞳に写す。その瞳に宿すものは闘志を燃やす以上に憧憬の念の方が強い。





 魔術士であるカレンもその例を見なかった。


 「……あれが、人族ヒューマン最強の術師……」

 カレンは杖を握る手に力を込める。

 (私は誰よりも強くなりたい。じゃないと、いつまでもカムイに頼りきりになってしまう)

 カレンは気付いていた。
 カムイが本当は強いという事を。
 カムイが自分達とは別行動したいという事も。
 でも、自分達が心配で一緒にいてくれて居るという事も。

 だからこそ、カレンは術士最強ライラを見据えて、更なる力の向上を目指す。




 その様子を見ていたリンタは胸を締め付けられるような気分に陥った。この数日間でカレンが考えている事をある程度分かるようになったリンタは 、カレンの心中にあるのは、自分でない事に憤りを感じている。

 いや、正確にはリンタも彼女の大切な人の枠には入って居るだろう。しかし、その中心には恐らく自分ではなくカムイだと理解しているからだ。あくまでも自分は大切な仲間・・の1人に過ぎない。その事が酷くリンタの心を締め付ける。

 (僕は多分、カムイに嫉妬しているんだろうな)

 リンタは夜にも関わらず眩いほど光り輝く空を仰ぎ、霞む視界を静かに閉ざす。










 暫くして、

 パーティ会場のとある一角。人々の視線はその一点に集まっていた。
 それもそのはず、何故ならーー


 軍事力で言えば最強と謳われる国、ロムル帝国の第3皇女ーーアリス・ヴァレス・ロムルーー通称『姫騎士』

 世界一の宗教派閥であるオーディン教を国教とするサンラエル聖国に召喚されし少女ーー『聖女』と彼女を守護する最強の剣士『剣聖』

 先日、召喚されたという勇者である美月達とそれに立ち会ったフォールズ王国の王女リリシア、そして魔術士の頂点『圧殺の魔女』ライラ。

 その面々が一堂を会しているのだ。注目するなという方が可笑しいのだ。


 形容し難い重い空気が漂っている場を皆人みなひと同じに遠くから眺める。

 八方からの視線を物ともせず、優雅に紅茶を飲むアリスに『聖女』が問いかける。


 「あれ〜、帝国の勇者は来ないんですか〜?」

 「ああ、アイツは面倒くさいなどとほざいて来なかった。別に問題ではないだろう?  ……リー、お茶。」

 「……はっ」

 「そうですか〜残念ですね〜。ともあれ、フォールズ王国の勇者方、王女リリシア様はじめまして。私はサンラエル聖国の『聖女』こと聖上院せいしょういん みおと申します〜。名前の通り私も召喚者なので、気軽に接してくださいね〜」

 疑問を解消した『聖女』は全く残念そうな素振りを見せず、話題を転換する。そして、物のついでとばかりにフォールズ王国の勇者もとい美月達に自己紹介を始めた。



 「は、はいっ!成城 舞ですっ!」

 「ふふ、舞ってば緊張しすぎよ。神原 美月です」

 「だ、だって! 聖上院 澪って言ったら、最近の中高生に人気な清楚系アイドルのミオちゃんじゃない! そんな人が間近にいて良く平気で居られるわね2人とも」

 「神原 光輝です。こちらこそよろしくお願いします」


 まさか、聖女様が元の世界で有名なアイドルだと想定していなかった舞は思わず声が上ずってしまったようだが、美月は軽く友人をさとしてから余裕を含んだの笑みで自己紹介をする。また、光輝もそれに続き普通に自己紹介をする。

 「お互い自己紹介も終わった事だし、これからどうするか決めないとな。なぁ、剣聖さんよぉ」

 ライラは不敵に笑い、剣聖に話を振る。

 「はぁ、貴方は何かと私に突っかかっって来ますね。貴方に恨みを買った覚えなんてないんですが。それと、女性なら言動に慎みを持つべきですよ。折角の美貌がもったいない」

 「う、うるせぇ!そういうとこだってんだよ!」

 「うわぁ、ライラさんが照れてる〜」

 舞が茶化すようにライラに指摘するとーー

 「照れてねぇよ!!」

 会場が揺れるほどのライラの声が会場に響き渡った。











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